16.推定怪人
弁当を届けた後、帰路についたレドは途中で黒いハイエースに道を塞がれていた。
(今日は本当に退屈しねぇ1日だな)
そして黒いハイエースから出てきた人物は、スーツを身にまとった、藍色の髪を肩まで伸ばした女性であった。
「貴方が悪魔の怪人【レド】さんで合ってますか?」
「いや怪人じゃないが」
「……………」
「……………」
「…では普通に悪魔のレドさんですか?」
「いや悪魔でもないが…」
「……………ッスゥー。少々お待ちください」
「………」
藍色の髪の女性はスマホを操作し、耳に当てる。
「…あの、部長、聞いてた話と違うんですけど。怪人でも悪魔でもないって言ってます。………え?相手の話を聞いてどうする?いやいや相手は会話出来るんですよ?話し合いで解決出来るに超したことは無いでしょ!ていうか私今日休日出勤なんですけど?別に暴れてないなら明日でも良かったじゃないですか!え?今その話は関係ない?あのですね!私だって1人の人間なんです!こんな所で働きたくて働いてるわけじゃないのに働かされてる私の身にもなって下さいよ!!!休日すら働かされてるんですよ!?挙句にこんな、いつも事務仕事ばっかりさせてくるくせに、人手が足りない時には現場に行かされて、しかもこんな凶悪そうなのを相手にしなくちゃいけないとか!!聞いてます!?…給料上げるから早く相手しろ!?それは有難いですけど!!有難いですけど!!!休日をもっと下さいよ!!…人手が足りない!?もっと雇って下さいよ!!!事務仕事だってほっとんど私ばっかりやらせてるじゃないですか!!仕事量どんだけあると思ってるんですか!!…え!?じゃあ目の前の奴を雇えばいいだろ!?何言ってるんですか!!どう見ても怪人か悪魔ですよ!?お前が違うって言っただろって!?言いましたけど!!!言いましたけどね!?…え!?あっ!ちょっ!待っ!!あああ切りやがった!あのハゲジジイ!!!ムキー!!」
藍色の髪の女性はスマホを地面に投げつける。
『先輩、スマホだってタダじゃないんすから、大事にしてくださいよ』
左耳にかけているイヤホンから、そんな男性の声が響く。
「分かってるわよ!いいじゃない無駄に頑丈なんだから!こういう時のための強化ディスプレイなんでしょ!!」
『いや、地面に投げつけるために強化してる訳じゃないと思いますが…』
「なによ!私が悪いっての!?あぁ〜、そうやって私ばっかり悪者にするんだ!ふ〜ん!いいもん!私なんていなくても私の代わりはいくらでもいるって部長も言ってたもん!」
何やらイヤホン越しに誰かと会話しているようだが、車の人間では無いっぽい。
レドは暇だったので、周りを観察してみることにする。
すると斜め後ろでかなりの遠距離だが、1台のヘリコプターから、俺の方にゴツいライフルを構えてる男が見えた。
薄い黄土色の髪に、軍服のような迷彩柄の戦闘服を纏っている。
その男性が喋っているのに合わせて、目の前の女性のイヤホンから声が出ている感じがする。
ヘリの男の口の動きを見るに、あのイヤホンの声がヘリの奴だと確信する。
あの距離から当てられるのだろうか。いや、当てられるから冷静にこっちに照準を合わせて見てるのか。
男は落ち着いた様子で女性と会話している。
『いや絶対そんなこと言わないですよあのハゲ部長。アニメのセリフで被害妄想するのやめて下さい。とりあえず今は目の前の相手に集中しましょう。見た目だけは凶悪な怪人なんですから』
「うぅ…そうは言われてもね…」
レドを見ると、コンビニの袋に入ったジュースをストローでゴクゴクと飲んで、リラックスしていた。
(そういえば俺様、認識阻害の魔法かけてるはずなんだけどな。今日は殆どの奴が突破してるな。まぁ確かに俺様の存在を1度でも見た事ある奴とか、動画とかで知ってるやつには効かないようにしてるが…。まぁいいか、俺様の知名度が高くなったという事で)
「あの、レドさんって言ったかしら。そのなんだけどね?ちょっと相談があって…」
両手をモジモジさせながらこちらへ話しかける青峰。
「雇いたいって話か?」
「そうそうそうなの!あのね?うちの部署、ど〜しても人数が少なくて、いっつも忙しいんだけど…、給料は結構いいの!マァアンマリツカウヒマスラナインダケド(小声)どう?うちに来てくれない?いやまぁその、そもそも貴方を連れてくるか、倒してこいってのが上の命令で…」
「ほう…、俺様を倒せると」
「まぁ〜、その、ある程度はね?相手にできる程度の能力があるのよ?だからその、出来れば抵抗しないで欲しいのだけど…」
「抵抗したら…?」
「………うーん、ちょっと凍って貰おうかなって…」
いつの間にか周囲の温度が下がっており、若干白い煙も立ちこめている。
「ほぅ、氷の魔法を使うのか」
「…魔法?」
瞬間、青峰に電流走る。
怪人は全身が灰色の化け物であり、真っ黒な怪人は今の所確認されていない。
そして悪魔と言うのも、それは外見的特徴からそう呼ばれているに過ぎなかった。
直近の情報で、このレドという人物が怪人を仕留めたというものはあるが、個人で暴れていたという報告は無いし、そもそもの情報として、ネットで動画をあげている事や、近隣住民の情報からも、彼は人畜無害な聖人という線が濃い。
最近でも漫画のような出来事が多く発生し、自身にもいつの間にか身についた氷を操る能力というものから見て青峰は、この世界はもしかしたら漫画のような出来事が当たり前になっているという可能性に思い至っていた。
そしてレドが呟いた【氷の魔法】という単語。
魔法という言葉を使ったという事は、彼が何かしらの魔法を扱える存在という可能性がある。
そしてそれは、異世界の可能性も示唆しているという事でもあり、とどのつまり。
「待って、もしかしてだけど貴方、怪人とかじゃなくて、異世界の人とかだったりする?」
少しジト目になりながらも、若干期待するような表情でレドを見る青峰。
「ん?よく気付いたな。俺様は異世界から来たぜ」
「…………」
青峰が口を開けてしばし呆然とする。
異世界の存在が、確定した。
「異世界人キタアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!」
しばらくして青峰は、両手を挙げて思いっきり喜んだ。
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