10.お弁当の配達
私の名前は花道雅子(はなみちみやびこ)、ホマリアという妖精の国で、マリアナ姫様の護衛を務めていた拳聖。
エリート中のエリートである。
え?そんな護衛がなぜこんな森の中で迷子になっているかって?
・・・なんででしょうね?
おかしいわね、なにかの力を感じてこんな森まで来たのだけど、途中で熊に追いかけられてから道が分からなくなってしまったわ。
護衛から外れているのは、もちろんホマリアの輝石を託された少女が心配で、しばらく彼女のために戦いたいと申し出たからである。
ホマリアの輝石は妖精の国の核であると同時に、守る為の防護機能が備わっている。
それはホマリアの輝石の一部の力を使って、純粋な心の持ち主を強化するという特殊な機能なのだが、それは人間にしか使えないという代物であった。
なぜ妖精が使えないのかと言えば、妖精の中でも悪い妖精が出る可能性があったからという理由らしい。
そしてホマリアの輝石を扱える者をはーちゃんが探していた時、運悪くリッチの手先に見つかり、追われたところであの子供と出会い、ホマリアの輝石を託したと言うが・・・、まだまだ子供という事もあってかなり心配だったのである。
これもあの禍々しいリッチという怪物を、ホマリアに案内した馬鹿のせいである。
まぁ最初は温厚な態度だったらしいので、注意しろというのも難しい話ではあるのだが・・・。
おかげでホマリアの輝石は狙われ、あの子供に未来を託す事態に陥ってしまった。
今は私と同じエリートであるはーちゃんが、彼女を見守ってくれているのだが、やはりはーちゃんだけでは不安が残る。
そのため、このエリート中のエリートであるこの私も、彼女のサポートに回る事にしたのである。
まぁ今現在は迷子中なので、とにかく今は街に戻る事だけを考えましょう。
(・・・ここがどこなのか全く分からないわ)
とそんな事を考えていると、運良くアスファルトで舗装された道路が見つかった。
この世界の文化は、こちらへ来る前に勉強したわ!
こういう時、車という大きな鉄の荷車をヒッチハイクすればいいと、この世界の映画とやらで学んだ。
そうしてしばらく歩いていると、見つけた。
ゆっくりとこちらへ向かってくる1台のトラック。
いや言うほどゆっくりではないわね。
思いのほか結構早い。
気づいてもらえるかしら。
そう思って道の真ん中で右手をあげる。
そうすると、遠目からは魚に手足が生えた珍妙なおもちゃのようなものが、道端に捨ててあるように見える。
避けるために急旋回するのも危ないと思ったのか、トラックの運転手はそのまま角度、そのままの速度で普通に走った。
ベチャッ
「・・・なんかキモイもんにぶつかったな」
運転手はそう愚痴り、普通に走り去った。
ーーーーー
「うめぇ〜。今日の朝飯もうめぇなぁ〜」
リィラが幸せそうに昼飯を頬張る。
「もう昼飯の時間だぞ。お前ははよ寝ろ」
「最近FPSが面白くてさぁ〜、やめられねぇんだ」
キリッと無駄に澄ました表情をするリィラ。
「アペックスって奴か」
「エペックスだよ・・・。てかお前さっきからなにやってんの?」
レドは先程からキッチンで、空箱に昼飯を詰め込んでいた。
「あ?ああ、山田が弁当忘れちまってな。どうせなら出来たての飯食わしてやろうかなって、今詰めてるとこだ」
「あーね、まぁ出来たてうめぇからなぁ〜」
「よし、できた!じゃあ俺様はちょっくら行ってくるぜ」
「いってら〜」
「飯食い終わったら食器台所に持っていけよ〜」
そう言ってガチャっと玄関を閉めて出る。
「やだ〜」
玄関から離れる前にそんな声が聞こえた。
まぁ食器持っていかないのはいつもの事だからいいけど。
あれじゃ男は出来なさそうだなぁ。
てかなんかあいつ、こっち来てから成長じゃなくて、さらに子供になってきてる気がするな。
いやまぁ子供の姿にしたのは俺様ではあるんだが。
配信者として働かせたら多少は成長するかね。
つってもリィラ用の機材がまだ届いてねぇからな、もう少し先の話か。
ーーーーー
「あ、あの!も、もしかしてユートゥーバーのレドさんですか!?」
「あ?おう、俺様こそ最強かっこいい大悪魔レド様だぜ」
「キャー!握手してください!!」
「おう!これからもご贔屓にな!お嬢ちゃん」
電車に乗り、東京へ向かったレドは、普通に歩いて山田の会社に向かっていた。
その途中でレドは自分のファンに出会い、握手してファンサしていた。
確か今日の予知魔法で、今日は面白い出会いがたくさんあるって言う話だからな。
ゆっくり散歩しながら行くぜ。
肩に提げた、弁当箱の入ったカバンを揺らしながら、レドは鼻歌交じりに歩いた。
TIPS
レドの予知魔法は、オリジナルの簡易的な予知魔法で、効果は朝のニュースの占いよりちょっと当たりやすい、今日の運勢を見る魔法という感じ。
出かける時にたまにかけたりして、暇つぶしを探したりしている。
騒動はレドがスクランブル交差点で歩いている時に起こった。
交差点のど真ん中に、突然怪人が降ってきたのだ。
「へっへっへ、ここなら大量に殺せそうだなぁおい!!!」
最近現れるようになった怪人は、特徴が分かりやすく、灰色の外見をした人外の化け物である。
とにかく力が強く、俊敏で獰猛である事が多い。
そして極めつけは、個体によって様々な能力を持っている事があるということ。
ここに現れた怪人は分かりやすく。
「吹き飛べぇ!!!!」
ドオオオオオオオオオオオン
という音とともに、凄まじい衝撃波が周りに飛び、まだ近くで逃げそびれた民間人が、衝撃波によって大きく飛ばされてしまった。
怪人が現れて直ぐに、悲鳴をあげながら離れていっていたが、それでも間に合わなかった。
そう、この怪人の能力は衝撃波を飛ばすことである。
だがその能力で吹き飛ばない人外が1人居た。
衝撃波によって周りが大きなリングになったかのようになり、両者を際立たせる。
「・・・あ?おめぇ、なにもんだ?怪人・・・?じゃあねぇよな?」
肌は真っ黒く、その肉体は驚くほど鍛え抜かれた筋肉が覆う、悪魔のような羽の生えた人外。
レドである。
「人に名前を尋ねる時は、まずは自分からって小学生の時に習わなかったか?」
「・・・ふん、俺はガジだ」
「素直なこって・・・。俺様は大悪魔レド様だ。覚えておくといいぜ」
本来は悪魔では無いのだが、この世界ではどう見ても悪魔なので、自分から悪魔と名乗っている。
「大・・・悪魔?コスプレ、っつうわけでも無さそうだが・・・。やっぱ人間じゃねぇのか」
「おう、悪魔だ。(まぁ本来は違うんだが・・・)ていうかお前、そのコスプレって単語とか、そもそも言葉ってどこで覚えたんだ?やっぱ元は人間だったのか?」
「知るかよ。俺には基本的な知識はあるが、記憶がねぇ・・・。だがボスにできるだけ多くの人間を殺せと、全てを破壊しろと命令された。だからおめぇも、殺してやるよ!」
そう言って怪人は、おもむろに右手をレドに向けて、衝撃波を放った。
「!」
(後ろには逃げてねぇ民間人もいやがる。こりゃ結界張っといた方がいいな)
そう思ったレドは、先程の衝撃波で民間人が居なくなった範囲に結界をこっそり張った。
結界を張ったので、レドはとりあえず目の前の衝撃波を受けてみることにした。
ドンッ、という重低音が響き、結界の膜まで吹き飛ばされた。
「・・・ん?なんだ?見えねぇ壁がある?」
レドが見えない壁に衝突したような動きをしたため、違和感を感じてそう呟いた怪人は、そこら中に衝撃波を放ちまくり確かめる。
衝撃波は民間人に当たる前に、何かに阻まれて壁にぶつかる激しい音だけが鳴り、周りの民間人を驚かせた。
建物の高い所も狙って撃っていたが、それもやはり届かない。
「見えない壁・・・、お前の仕業か?」
怪人はレドに対して問いかける。
レドは衝撃波をまともに食らったにも関わらず、何事も無かったかのようにピンピンしていた。
ホコリを払うかのように手で胸の当たりをパンパンと叩いた。
「さぁな。確かめてぇなら、俺様を倒してみるんだな」
「はんっ、それもそうだな」
そう言って、レドと怪人による戦いが始まった・・・、が。
「くたばれッッッ!!!」
怪人が速攻で、凄まじい速度でレドに接近し、拳を腹にめがけて打ち込み、ゼロ距離で衝撃波もぶっぱなす。
ドゴオオオオオオオオオォォン!!!
という凄まじい衝撃音と共に、煙が両者を包み込む。
煙が晴れると・・・、微動だにしていないレドが怪人を見下ろしていた。
「まぁまぁの威力だな」
「硬ぇなおい・・・」
右手拳を、レドの腹に当てたまま固まる怪人。
「次は俺様の番だな」
そう言ってレドはこっそり結界を解除し、素早く怪人の腹に向けて、思い切り拳を突き上げた。
「フンッ!」
「グゥッッフォアアアアアアアア!!!!」
そうして怪人は、空の彼方へと吹き飛んで行き、塵になって消えた。
レドと怪人の戦いは、勝負にもなっていなかった。
おおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおお!!!!!
周りの民間人が、大歓声で盛り上がる。
レドは目立たないように、皆が怪人が上空へ飛び、全員の目線が上空へ逸れた瞬間に、こっそり隠蔽魔法を自分にかけ、何事も無かったかのように盛り上がってる民間人に紛れて去った。
数分後、念の為色んな角度で撮っておいた撮影魔法の動画をスマホに落とし込み、そのままトゥイッターへアップしてちょっとバズった。
TIPS
撮影魔法とは、レドが作った撮影用の魔法である。
わざわざカメラを用意しなくてもできる便利記録魔法。
ただカメラという道具が好きなので、あまりこの魔法は使わない。
ーーーーー
あともう少しでハルが務めている会社という所まで来た。
「この道路の向かい側のビルだな」
歩いている道の横には車の通る道と、その間に高速道路の柱が点々と立っている。
スマホの現在位置を見るにこの高速道路で隠れている所に、春が務めている会社があるはず・・・。
(ん〜?もうちょい歩いた所かこれ?)
そうやってスマホで位置情報を確認しながら歩いていると・・・。
ふと車道で走っているトラックの前方に張り付いている、人間の手足が生えた珍妙な魚の化け物のようなおもちゃ?が見えた。
そしてそれが通り過ぎようとした時、その魚と目が合ったような気がした。
「ちょぉぉおおおおおっと待っったあああああああああぁぁぁ!!!!!」
謎の男性の野太い声が響き渡る。
それは先程通り過ぎたトラックの方から聞こえたような気がして、レドがそちらの方を向くと、魚の化け物が回転しながらこちらまで飛んできている姿が見えた。
スタンッと綺麗にスーパーヒーロー着地をかました魚の化け物。
レドの目の前に着地したので、用があるのはレドで間違いないようだ。
「見つけたわよ!悪の組織の化け物め!ここで会ったが100年目!この私が直々に、貴様を成敗してやるわ!!!」
レドは1度、無言で周りを確認してから自分の顔を指さす。
「化け物はあんた以外いないでしょ!!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
レドは魚を指さした。
「誰がバケモンじゃゴルァあああああああああぁぁぁ!!!」
魚はレドへドロップキックをかますも、難なく片手で防がれる。
「チッ、やはりこの姿のままじゃちょっと不利ね・・・。仕方が無いわ・・・、私の本気モード、見せてあげる・・・」
魚は腕をクロスに構えると、呪文を叫ぶ。
「ビルド、チェエエエエエエエエエエエンジ!!!」
クロスした両手を腰に下げ、魚の目が光ったと思うと、直後全身が光り輝きだし、身体が光に包まれる。
そしてその光が人間台のサイズへと巨大化したと思うと、その光はだんだんと姿を変え、レドのような大きめの人間のような体躯へと形を変える。
「フンッ!!!!!」
と掛け声を発すると、光が弾け飛び、内側から出てきたのは、筋肉隆々の肉体を持つ、魚頭の化け物だった。
「やっぱり化け物じゃねぇか」
レドが感想を言う。
「お前が言うなお前がァ!!!」
「いやお前も言える立場じゃねぇだろ・・・」
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