第28話 トランプ関税と戦争前夜

 つい先日、友人と話していたら、たまたまトランプ関税の話になった。おしなべて、日本に対しては25%、中国には50%という関税である。

 意外に思ったのは、友人がそれほど心配していなかったことだ。やがて深刻になるのだろうが、今は輸出が鈍くなるといった程度の心配なのは無理もない。

 私も不景気になるだろうぐらいにしか思っていなかった。関税率がどうのこうのといった報道ばかりで辟易し、最近は、ろくに気にもしていなかったのだ。

 しかし、何かが気になる。友達と別れて自宅に戻り、ひと晩が明ける頃、学生時代に習ったことを思い出した。明け方になると、夢うつつの状態で色々なことを思い出す癖が私にはあるのだ。

 寝床から飛び起きて保存していた教科書を探すと、段ボール箱の中に「外交史」があった。市場で見る本格的な印刷ではなく、授業用にだけ印刷されたものである。

 記憶を頼りに、アメリカの「1930年関税法」の項目を探した。第二次世界大戦の発端は1929年の世界恐慌と高校では教えられており、大学に入るまでこの関税法を知らなかった私は意外な思いをしたのだが、意外な思いだけで、この関税法がうっすらとしか記憶に残らなかったのは、私の不勉強というしかない。

 これから書く事は、もしかすると、どこかの新聞やニュースなどで既に報道されているかもしれない。いや、報道されていなければオカシイことなので、とっくのとうに皆さんはご存知かもしれないが、冒頭での友人や私のような人がいるかもしれないので、あえて書くことにする。

 話自体は簡単なことだ。自分の国が輸入関税を上げれば、輸入品が高くなり、競争力の弱い自国の製造業は恩恵を受ける。あの世界恐慌の当時であれば、失業者や倒産企業の数は桁違いで、アメリカが関税を引き上げたのも当然の政策だったのだろう。

 しかし、一方的に引き上げられた欧州諸国が黙っているはずはなく、当然のこととして報復した。その結果がどうなったかは想像するまでもなく、相手国も輸入関税を引き上げたことにより、アメリカの商品は売れなくなった。いわゆるブーメラン現象である。世界恐慌に端を発したアメリカ経済が、「1930年関税法」によって更に深刻化したのは、歴史の皮肉としか言いようがない。

 歴史の教科書によれば、世界貿易が縮小したことで、英仏などの植民地を持つ国はブロック経済を作り上げた。つまり、植民地間との関税のかからない貿易により、自国の経済繁栄をはかったのだ。

 一方、植民地がなく、資源も乏しいドイツやイタリアの経済は先細り、当時、東北の身売り問題も起きていた我が日本は、資源も食料も豊かな満州を生命線と考えることになる。

 さて、ここまで述べてくると、トランプ関税問題がどう発展するか、皆さんも不安に感じると思う。私も同じである。現在は中国だけが報復関税を明らかにしているが、あちこちの国が、とりわけ先進諸国が報復すれば、またぞろブロック経済の世になるかもしれない。

 勿論、現在の各国指導者は、それほどバカではないはずだ。過去数十年にわたり国際協調を重ねてきたし、日本も東南アジア諸国だけでなく、アラブ諸国とも関係を深めている。

 それでも気にかかるのは、自国第一主義の政党が、アメリカのみならず欧州でも勢力を伸ばしていることだ。自国第一主義となれば、やられたらやり返す、自国の利益優先が政治の前提になり、国際協調は失われる。

 このように考えると、日本はトランプ関税にどのように対処すべきなのだろう。歴史の教訓から報復関税は避けねばならないとなると、ましてや軍事や経済を頼っているとなると、大人しくアメリカに従うほかはなく、いずれ日本の製造業は打撃を被り、失業問題も起きてくる。

 にもかかわらず、25%の関税や報復の問題を抜きにして、景気回復を政治家が訴えているのが、私には理解できない。マスコミはどのように報道しているのだろうか。

 益々心配が増してくる。法外なトランプ関税で、もう世界は終わっているのかもしれない。それでも見守るしかないとなれば、なぜか無責任のような感がする。それとも、言いたくない言葉だが、死期が近い自分は幸せと言うべきなのだろうか。

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