第25話 南京事件について


 戦後80年となった今年、中国では反日を助長する映画が上映された。韓国の反日感情を知ったときもそうだが、私はモヤモヤした気持ちになる。自分が責められている気分になると言っても良い。皆さんは、どうなのだろう。

 マニラ駐在時代、日本人と分かると追い返された経験を第8話で述べたが、その時に学んだ日本の近現代史の記憶を借りつつ、モヤモヤを解消すべく南京事件について少しばかり学習してみた。

 歴史学習に際しての私の考えは、その当時の状況を知らなければ何も語れないことである。

 例えば、織田信長を嫌う理由として、残忍だからと言う人が多い。比叡山などの仏教徒殺戮のことを指しているのだろう。「信長公記」にも、全軍を前にして「なで切り(=皆殺し)」を命じたと書かれている。

 私は信長大好き人間で、かつては、この皆殺し命令を指摘されると、信長擁護に尻込みしていた。多くの人と同じように、残忍さが大写しになるからだ。

 だが、当時の状況を調べたとき、私は理解した。数百年も前から天皇の権力をしのぎ、仏法に背き放蕩生活をしていた教団への鉄槌からという考えもあるが、そういうことよりも、比叡山に籠もった武士も含めた門徒や家族が山から突撃してくれば、門徒達は死ねば輪廻の苦しみから解放されると信じて死に物狂いになっており、それに対して、なで切り=皆殺しにせよといった強い命令を全軍に出さなければ、信長軍は甚大な被害を出していたのだ。

 更にわかりやすい例を挙げると、「六千人のビザ」だ。現在のガザ紛争を見て、ユダヤ人を救った杉原千畝への非難があるという。馬鹿げた話だ。当時の状況を知らず、今の価値観や道徳観から過去を批判するのは、完全なジャンケンの後出しであり、恥知らずにもほどがある。

 本論に入る。つい先日、中国大使の経験もあるドイツ人によって編集された「南京の真実」を読み終えた。1937年の南京事件当時、ナチの党員でジーメンス(日本読みではシーメンス)社の南京駐在員だった人物の日記が基になっている。南京市内に住み、事件当時の中国軍幹部や日本大使館員と接触しながら、数多くの殺戮を見た人物による、完璧な一次資料だ。

 私の関心事は、1.なぜ虐殺事件が起きたのか、2.中国政府の言う30万人虐殺は本当かである。恐縮だが、事件がなかったという人には賛成できない。なぜなら、南京攻略に参加し、実際に虐殺を行った数名の会津連隊兵士の手記が残っているからだ。それでも疑う人は、「南京の真実」を読んでもらいたい。

1.なぜ虐殺事件が起きたのか

 発端は1937年8月の第二次上海事件である。当時、上海は海軍陸戦隊が守っていたが、海軍陸戦隊2名が殺されたことにより緊張が高まった。かねてより、日中は早く開戦すべきと主張するドイツ軍事顧問団長の蒋介石への進言もあり、中国軍が攻めてくる。 

 中国軍は弱いというのが、日本軍の認識であった。ところが、意外にも中国軍は強く、激戦の末、上海は包囲される。それもそのはず、攻めてきた中国軍は数十名のドイツ軍事顧問に鍛えられた正規軍であり、日本の参謀本部は大慌てで兵を国内からかき集めた。これが実質的な日中戦争の始まりである。

 日本軍は上海の側面から兵を送り込み、多くの犠牲を出して包囲網から中国軍を撤退させた。そして、その勢いで南京へ進軍したのである。寄せ集めの兵、三万人余りの戦友の死、勢いのついた進軍が悲劇を生んだ。一方で、日本軍のスピードに、南京防衛の中国軍は混乱する。

 2.中国政府の言う30万人虐殺は本当か

「南京の真実」の日記によると、殺された中国人は多くて6万人とある。ただし、市民に紛れ込んだ中国兵=便衣隊(ゲリラ)も含まれており、一般市民との区別の出来ない場合があるとのこと。

 市民を避難させる計画もなく、市内で徹底抗戦するとしながら、土壇場で中国軍が逃げ出したことに、ジーメンス社員は疑問を呈している。逃げ遅れた中国兵は日本軍が攻撃してくると軍服を脱ぎ捨て、市民に紛れ込んだのだ。

 日本兵による婦女子への暴行や殺戮、略奪行為に対して、ジーメンス社員は日本大使館に訴えている。大使館員は、軍が相手なので日本兵の行為は抑えがたいと答えており、日本側にも虐殺などの認識はあったようだ。

 編者は次のように述べている。

「日本民族が戦争犯罪についての真相を知ることは意味がある。だが、このような残虐行為が、単に日本人だけではなく、人類共通の問題であること、つまり、戦争犯罪を起こしやすい国民があるのではなく、全ての人類の問題であることを知らずに、日本人に罪を負わせ、謝罪を要求するのは、傲慢であり、また独りよがりというものである」

 この考えに、私は完全に同意する。更に、事実は事実として認め、謝罪すべきは謝罪することを前提にしつつ、ジャンケンの後出しを許さず、つまり、今の常識から過去の批判をせず、日本人の誇りを持って未来に臨むことが大切だと私は考えている。

   

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