第13話 12話の補足
前回12話で、不用意な記述をしてしまった。フィリピンで暮らしていた30年ほど前、拳銃を枕元に置いて寝ていたと書いたことである。私がそのスジの人間と、誤解させてしまったことに気がついた。何しろ、普通に日本で暮らしている人には、拳銃の所持など一生に一度もないことである。危ない、危ない、こんな人間には近づきたくない、と思われても仕方がない。
フィリピンでも拳銃の不法所持は重罪であり、一部の例外を除いて外国人の所有は禁止されている。私の場合は、合法であった。と言うのは、私はフィリピン女性と結婚していたからである。フィリピン人の場合、現金を扱う商売のためと申請すれば、拳銃所有の許可は簡単に取れるので、私の場合は妻名義ではあるものの、法的に正式登録された拳銃を使用していたことになる。
拳銃の必要性について述べると、私の友人3名が殺されていたからだ。ナイトクラブの雇われマネージャーをしていたN氏、蘭の栽培をしていたH氏、大理石の裁断をしていたY氏、いずれも知人というより、普段から電話をしあい、商売の話をネタに酒を飲んだり個人的な悩みを相談していた友人である。
どのケースも、首を抱え込まれて頭部に銃弾を撃ち込まれたり、自動小銃で顔面を乱射されたり、口に出すのも憚られる惨い殺され方であった。後々の話になるが、三井物産マニラ支店長が誘拐された若王子事件で、日本赤軍と共産軍の通訳をしたM氏も殺害されている。M氏と私の関係は、拙著「アジア一匹素浪人」に書いた通りで、石村南次郎の名前で登場させてもらった。
殺された友人の話をするまでもなく、商売をしていた私は従業員からの脅迫にもさらされていた。不正を発見し解雇でもすれば、翌日から殺害予告の電話が毎日のようにかかってくる。しかも、解雇した従業員は一人だけではなかった。各々から毎度のように殺すと脅されたり、法外な額の慰謝料請求の裁判沙汰になるのだから、身も心もヘトヘトになる。
余談になるが、彼らは絶対に自分の非を認めない。私自身が現場を目撃し、彼と目と目が合ったところで逃げ出されたので追いかけて問い詰めると、「私はそこにいなかった」と言い張る。推測とか又聞きならいざ知らず、目撃者本人の前での発言であれば、二の句も繋ぎようがない。そんな呆れかえるような発言が、何件も別な人物からも聞かされるとなれば、私も考えを変え、用心せざるを得なくなる。
自分の非を認めないのはフィリピンだけではなく、世界中どこでも同じであり、それ故、自白などは期待できず、アメリカに見るような科学捜査が発達するのである。警察や検察での自白率が日本は9割、欧米は1割と言われているが、我々の想像を超える世界が存在するのだ。
最後に私の「潔白」を述べると、私は警備員をしていたが、正式な採用になると、法務局からの「無犯罪証明書」が要求されていた。現在は都道府県の警察本部で入手可能である。
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