　歴史修正主義というものがあるらしい。興味はあるが、胡散臭い気がするので詳しいことを私は勉強していない。歴史の問題であれば、時代の移り変わりで新発見もあるだろうから、修正はありうる。しかし、嘘は駄目だ。

　またしても私のフィリピン体験で申し訳ないが、私の我慢できない歴史の嘘は下記である。

　もう三年前だが、週刊新潮「22.6.16号」のコラムで、元産経新聞記者の記事を読んだ。見出しには、「日系大統領」とある。その意味は、三年前のフィリピン大統領選挙で、マルコス元大統領の長男が当選したのは「血筋にある」と言う。そして、その根拠は、「検索すると彼の父は、『日系』とある」からだそうだ。

　1986年の大統領選挙当時、私は「マルコス御三家」と噂される商社のマニラ駐在員であった。野党の統一候補になったアキノ、ラウレル両氏に対して、マルコス陣営は「アキノ、ラウレルは日本の手先、マルコスはゲリラの戦士」なるキャンペーンを張っていたが、ここで攻撃の的となったラウレルとは日本軍政下の大統領、アキノは親日組織の指導者である。

　ご存知のように40年ほど前の選挙結果は、アキノ氏が大統領に当選した。正確には、エンリレ国防大臣の決起とそれに続くクーデターにより大統領になったのだが、その理由はマルコスの腐敗ぶりにあり、決してアキノ氏が親日だったからではない。

　それはさておくとして、今回の「ボンボン（現大統領マルコス氏の愛称）」の勝因が日系にあるというのは、コジツケがひど過ぎる。そもそも、マルコスが日系などとは、マルコスの側近からですら、私のマニラ駐在当時、一度も聞いたことがない。

　こんなデタラメをご愛敬として見逃すのは癪であるが、それ以上に私が怒りを覚えるのは、このコラムでのキリノ元フィリピン大統領に対する侮辱である。

　執筆者の元産経記者によれば、「キリノは生粋の支那人」で、「就任式の祝いにモンテンルパに繋がれた日本人戦犯３名を吊し」、「法外な賠償」を断られると「14人の戦犯を一晩で吊し」たと非難。更には、「（キリノは）いかにも支那人で、民にも尊大に当たり、それでしばしば華人街が焼き討ちに遭った」と、中国に対する私的感情をキリノ氏に結びつける書き方をしている。

　コラムを書いた元産経記者に私は問いたい。フィリピンの政財マスコミは勿論、当時のほぼ全てのフィリピン国民が猛反発する中、恩赦、特赦を与え、100名余りの日本人死刑囚を救ったのは誰なのか、キリノ氏がどのような理念を持っていたのか、日比谷公園にキリノ氏の顕彰碑があるのはどうしてなのか、悲惨な経験をしながら、どこかの国とは違い、今のフィリピン国民が親日的なのはなぜなのか。

　マニラ市街戦により妻と３人の子供を日本兵に殺され、ラグナ、バタンガス州を初めとした各地の日本軍による虐殺事件、110万の国民が殺された当時のキリノ氏は、日本人に対して「食ってやりたい」ほどの心境だったという。勿論、そんな心情は彼一人ではなく、フィリピンの国民感情そのものであった。

　多くの言葉は要らない。日比谷公園の顕彰碑には、次のように書かれている。

「私は、妻と３人の子供、５人の親族を日本人に殺された者として、彼らを赦すことになるとは思いもよらなかった。私は、自分の子供や国民に、我々の友となり、我が国に末永く恩恵をもたらすであろう日本人に対する憎悪の念を残さないために、これを行うのである。やはり、我々は隣国となる運命なのだ。私は、キリスト教国の長として、自らこのような決断をなし得たことを、幸せに思う」。

　そして碑文はこう終わっている。

「私を突き動かした善意の心が、人類に対する信頼の証として、他者の琴線に触れることになれば本望である。人間同士の愛は、人間や国家の間において常に至高の定めであり、世界平和の礎となるものである」。

－近況報告－

　先月の半ばから、私はコロナに罹っていたようです。「ようです」と言うのは、私が医者に行かなかったからで、この猛暑の中、陽射しをもろに受けたアパートの二階で、咳き込みはするものの熱があるのか無いのかも分かりませんでした。ところが、何を食べても味が全く感じられないのに気がつき、コロナと確信した次第。　

　コロナに罹ったのは、長らく働いていた警備員の仕事を、二ヶ月前に辞めて自堕落な生活をしていたのが悪かったのかもしれません。二類から五類に格下げ（？）になっていますが、全国的にコロナは流行っており、まだまだ注意が必要なようです。