第4話 戦後80年に思うこと(その三)

<まだまだ続くモヤモヤ感>

 80年も過ぎようとしているのに、戦争反対だけの感情論から抜けだせないことを先に述べた。その間も、世界情勢は刻々と変わっているにもかかわらずである。

 なぜ抜けだせないのだろうか? 

 私の頭に浮かぶのは次のようなことだ。

 1.令和、令和の大合唱

 マスコミのお祭り騒ぎは異常だった。七年前のことなのに、今でもはしゃぎすぎていたように感じる。いつ発表されるのか、次の元号は何なのか、興味を持たねばオカシイ奴と思われる社会的な雰囲気があった。

 周囲が騒げば騒ぐほど、反抗的になるのが私の悪い癖で、そのせいもあってか、あの気持ち悪い空気が記憶に染みついている。元号の制定は、この世の時間を支配する天皇の力を象徴するものであり、海辺の砂一粒まで天皇のものとする戦前の教育を私に思い起こさせた。

 2.日本の休日

 日本の休日が皇室繋がりなのが気にかかっている。ざっと思い出すだけでも、「建国記念日」(神武天皇即位の日。戦前の紀元節)、「天皇誕生日」(戦前の天長節)、「昭和の日」(昭和天皇の誕生日。死後、一時的に「みどりの日」)、「みどりの日」(昭和天皇崩御により移動)、「海の日」(東北巡幸から明治天皇が横浜港に戻った日)、「文化の日」(明治天皇の誕生日。戦前の明治節)、「勤労感謝の日」(宮中行事である新嘗祭が行われていた日)などである。

 *「憲法記念日」は、表向きは憲法が公布された11月3日から半年後に施行されたということで制定されたものだが、明治節を休日として残すためにGHQを欺して「憲法発布の日=文化の日」と制定しているので、皇室繋がりと言える。

 3.カミカゼ

 中学生の頃から疑問に思っていた歴史用語が二つある。

 一つ目は、「カミカゼ」で、カミカゼと言えば「蒙古襲来」だが、そんなカミカゼ思想が、つい80年前まで生きていたのは何故なのか。

 二つ目の疑問は、「攘夷」である。江戸末期に倒幕の合い言葉であった「攘夷」は明治政府の近代化政策により消えているが、となれば、「攘夷」は「尊皇」とセットになって討幕運動だけに利用されたことになる。上手いキャッチコピーを作った奴がいたものだ。

 その辺の疑問を調べているうちに、孝明天皇の動きを知った。明治天皇の父親である彼は、井伊直弼が勅許を待たずに日米修好通商条約を結んだことに怒り、伊勢神宮に赴いて、「日本は神の国である。国難に際して、カミカゼを吹かせ賜え」と祈ったという。

 ここから歴史が動き出す。怒り狂った孝明天皇は水戸に命令して江戸城に行かせ、条約を非難させるが、無断登城ということで徳川斉昭は謹慎処分になった。

 この騒ぎを倒幕派が利用する。「尊皇」を政治的スローガンにし、天皇の言葉を絶対化した。「カミカゼ」の思想も復活し、国民をマインドコントロールしていく。戦前の多くの日本人が「カミカゼ」を信じていた根拠である。

 4.天皇の奴隷

 1974年、フィリピンのルバン島(現地の発音)で救出された小野田元陸軍少尉の言葉に私は興味を持っている。島民から奪ったトランジスタラジオで東京オリンピックも聴いていたのに、なぜ降伏せず「上官の命令を待っていた」と彼は言うのか。

 降伏しなかったのは、小野田氏が中野学校出身で、軍人魂を持った英雄だからと日本では賛美されている。しかし、本当にそうなのだろうか。フィリピンは、上官クラスの85%が戦死している過酷な戦線であるのを小野田氏は知っていたはずで、「上官」が存命などと考えていたはずはない。だとすれば「上官」とは誰のことなのか。

 この疑問は、小野田氏のゴーストライターであるT氏の著作を読んですっきりした。「我々国民は天皇の奴隷だった」。帰国した直後、小野田元少尉が語っていた言葉だという。

 蛇足ながら、まだ疑問がある。終戦直後、島に残っていた一人が降伏して日本へ戻り、まだ四人残っていると名を挙げて復員局に報告しているのに、復員局の後を継いだ厚生省は、なぜ何らの活動もしなかったのだろう。

 まだまだ思い浮かぶことはあるのだが、もううんざりである。日本とはこういう国なのかもしれない。令和、令和の大合唱の頃に味わった、私の身を包みこんだ非国民感の恐ろしさは、今以て消えていない。

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