小さな王子さまと小さなお姫さまの午後三時はじまりの可愛らしい結婚式の招待状

雨世界

第1話 奥様とステラ おはようございます。奥様。

 小さな王子さまと小さなお姫さまの午後三時はじまりの可愛らしい結婚式の招待状


 きすしてよ。きす。ほら、はやく! はやく! (ほっぺたを出しながら)


 お遊戯会で、おもちゃの剣を持って、おもちゃの王冠とおもちゃのマントを身につけた王子さまと、ずっと眠っていて、ずっと幸せな夢を見ている真っ白なドレスを着ている、月のお城に住んでいるお姫さま。


 あの、美味しいお菓子を食べませんか? ……、もちろん二人で一緒に。(お姫さまが目覚めたあとで)


 奥様とステラ


 おはようございます。奥様。


 年老いた奥様と少女のぽんこつメイドロボットステラのお話


 どたどたと家の中を走る騒がしい音が聞こえる。

「おはようございます! 奥様! 寝坊して申し訳ありません!」

 そう言って、メイド服姿のメイドロボットの少女、ステラは奥様に頭を下げた。

 そんなステラを見て「おはよう。ステラ。今日も元気いっぱいね」と嬉しそうな顔で笑ってそう言った。

「ステラ。ちょっとこっちにきてください。あなたならお話があります」

 奥様に手招きをされて、ステラは「はい。なんですか、奥様」と言って、メイドのお仕事をしていた手を止めて、奥様のところに歩いて行った。

「あなたにお暇を与えることにしました」

 にっこりと笑って奥様は言った。

「え? お暇をですか?」

 ステラは頭を斜めにしてそう言った。

 お暇を与える? お暇を。つまり私はもういらない子ってことなのかな?

「あの、それってつまり、もう私は奥様にとって必要ないってことなのでしょうか?」

 奥様の言葉の意味をだんだんと理解して、ステラはとっても大きなショックを受けて、なんだかくらくらしながら、言った。

「ええ。そういうことになりますね」

 と笑顔のままで奥様は言った。

 それは私がなんにもお役に立てなくて、奥様に迷惑ばかりをかけているからですか?

 と言うとして言えないままでステラはぽろぽろと涙をこぼして泣き始めた。

 そしてすぐにまるで小さな子供みたいにえーんえーんと声を出して泣き始める。

「あらあら」

 奥様はそんなステラを見てそう言った。

「ステラ。あなたはなにかを勘違いしているわね。別にあなたのことをぽいって捨てちゃおうとか、そう思っているわけではないのですよ」

 とふふっと笑って奥様はいった。

「ほ、本当ですか? 奥様〜」

 と涙でぐしゃぐしゃな情けない顔で泣きながらステラは言った。

「そうよ。ステラ。あなたのことを捨てたりはしないわ。でもね、ステラ。あなたはこれから私ではない違う人のメイドになってもらいたいの」

「奥様のメイドがいいですー」

 ステラは泣きながらそう言った。

「ありがとう。ステラ。私も本当はね。ずっとあなたと一緒にいたいの。でもね。それはできないの。だから、ごめんなさいね。ステラ」

 といつもの優しい顔で奥様は言った。

「どうしてですか? 奥様。奥様はやっぱり私のことが嫌いになってしまったんですか?」とステラは言った。

「そうではないの。ステラ。私はあなたのことが大好きよ。まるで本当の私の子供みたいに思っているわ。でもね。これはどうすることもできないことなの。私たちはいつかは必ず離れ離れにならなければならないときがやってきてしまうのよ。これはどうすることもできないことなの。だから、ステラ。泣かないで。いつものように私にあなたの笑顔を見せてちょうだい」

 とにっこりとまるでお手本を見せるみたいにして笑って、奥様はステラに言った。

 奥様にそう言われて、ステラはへたっぴな笑顔を泣きながら奥様に見せた。

 そして、その奥様の言葉通りにステラは長年お使えした奥様とお別れをして、違うご主人様のところにメイドロボットとしてお使えすることになった。

 奥様とお別れをするとき、やっぱりステラは奥様と離れ離れになりたくなくて、わんわんと泣いてしまった。


「ステラー! こっちだよ、こっち! 早くきて!!」

 元気いっぱいの新しいご主人様である女の子がステラのことを大きな声で呼んでいる。

「はい、わかりました! すぐにいきますよ! お嬢様!」

 ステラはそう言って、お庭の手入れをしていた手を止めて、お嬢様のところまで少し早足で歩いて行った。

「ステラ。メイドのお仕事はもういいから私と一緒に遊びましょう。いいわね?」とふふっと笑ってお嬢様は言った。

 そのお嬢様の輝くような笑顔に、ステラは奥様の面影を見ていた。

「はい。わかりました。お嬢様。一緒に遊びましょう」

 とにっこりと笑ってステラは言った。

 お嬢様はもう随分と形の古くなってしまったメイドロボットであるステラのことを、ほかのとっても新しい形のメイドロボットの少女たちと同じように、大切にしてくれた。

 そのことがステラはとっても嬉しかった。

 でも、そんな風に古いメイドロボットを大切にしてくれるご主人様は珍しかったので、そのことをお嬢様に聞いてみると、「そんなの簡単よ。私はステラのことが大好きだし、それに、ステラはおばあさまの形見として、私におばあさまが譲り渡してくれたメイドさんだもん。だから私はステラのことがとってもとっても大切なの」とふふっと笑ってそう言った。

 ステラはお嬢様の言葉を聞いて、奥様のことを思い出して、思わず、(もう泣かないって決めていたのに)お嬢様の前で、わんわんと小さな子供みたいに泣いてしまった。


 とってもあったかい場所

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