第19話 刀

 どうだったか。有り合わせの文章を詰め込んだ話。

「こわい」


「普通にホラーなのやめてもらってもいいですか」

肝試しじゃないか…


「一応あらすじくらい話しておこうか?」


「作者自ら解説…?

とんでもない作者だぞ…」


炭焼きの正体…子どもを連れ去った犯人ではない。正確には発見者。

連れ去った犯人は子どもたちを亡き者にした犯人。

子どもは犯人の区別がついておらず

炭焼きを犯人だと勘違い。

炭焼きは子どもたちを火葬して埋めるなり撒いて隠滅するなりする予定。

なぜか。なぜそこまでするのか。

炭焼きの家は山奥。

元子どもたちはその近くに放置されていた。

またまた発見してしまい、証拠隠滅に焼いた。

ただし、人を焼くと釜は悪くなる。

評判はガタ落ちだろう。

彼は笑った。


「えなんかあらすじも怖いんですけど!」


「さすがだな。実体験か?」

お前まで僕を怒らせようとしているのか?

せっかく気持ちよく語り合えたところなのに…

というか僕、別に危害加えるような術は持ってないんだけど。


「まあまあ。全て語り合えればわかること。

足早に参りましょうね」


「気持ちも足並みそろえてください」


「おーなんか上手いこと言った〜」

そう言われると恥ずかしいじゃんねえ?


「さて。行きますよ」




『刀』

 刀は…言わずもがな侍の持ち物。

命よりも大事なもの。

すれ違うとき鞘が他人に触れるだけで殺傷の対象となったほど。


 世の中にはいわくつきというものがある。

ひとが関われば関わるほどその伝承は大きく現実になっていく。

科学では証明できないそれを呪いとも呼ぶ。

そんな刀の話。


 とある城で大切に保管される刀。

触れるどころか人目に触れることで呪いの条件を満たすそれを、殿はどうにか捨てようと考えた。


そんな中、

「たのもう」

ひとりの侍が正門から突破してきた。

どこにも属さない彼は

いわくつきの刀が欲しいと言った。


「やめておきなさい。あの刀は触れるどころか視界に入るだけで呪われてしまう。」


「それこそ私の求めていた刀である!」

その心になにか感じるものがあり、しぶしぶ刀の元へ案内した。


「その刀は好きにしてもらって構わない。私もそれを処分したいところだったんだ。」


「であれば遠慮なく。」


 そこからあの侍がどうなったかはわからない。呪われて野垂れ死のうと殿である私には関係のないこと。

そうだと信じたかった。


 伝説の侍と呼ばれた男がいた。

どこにも属さない日雇いの侍。昨日の敵はなんとやら。気分だけで動く。彼には味方も敵もいない。

そして強い。


肩に大きな傷がある

髪は長く束ねている

体が弱いのか咳き込んでいる

眠るときでさえ刀を肌身離さず持っている

いわくつきの刀を握っていて、斬られるとこの世から抜け出せず魂だけが残る


などさまざまな噂が飛び交う。

実際に城が倒れることが増えた。



 来た



「この刀を大事に取っておいてくれた温情。この城は私にはどうすることもできない」


その血濡れた刀は何を望むか。

気がつけば城に煙が立ち込め

家臣は皆いなくなった。

ひとっこひとりいない孤独な城で

私は何を思えばいい。

家臣が殺された恐怖より

城に蔓延る火の手より

目の前で立ちすくむ男への関心が。


「この刀は父上の物。次の使用者は私と決まっていたものの、私は生まれつき体が弱くて。」


「そうか。その刀はそなた以外を拒んでおったのだな。」

そうか。ようやく帰れたんだ。持ち主の元へ。

そう刀を見つめても何も起きなくなった。

彼もまた刀を握っていても何も起きない。

あるべき場所へ帰っていったのだ。


「さ、この城ももう落ちる。その前に早う出なさい。」


「いえ、私はもう身の心配をしなくても良いのです。それに、あなたに仮を返さなくては。」


ゆらりと揺らぐ袴。長くまとめられた髪も風に靡いてその象徴のよう。


 こうして私の時は止まった。


「父上は貴様にずいぶんお世話になったようで。正直これでは気が済まぬが、この刀は満足しているようなので、これで。」


あの世で父にでも会ったか。

刀鍛冶の腕の立つやつだった。

口答えしてきたから迷わず切った。

この時代なら逆らうたわけもおらぬ。

おぬしの息子も飛んだたわけだったのお。


「だから、私はもう普通じゃないんだ」


ああ、余分に斬られてしまった。

もう痛くも熱くもない。

しかし当分は向こうに行けそうにないな。

確かそういう呪いだったか。




寺の子は再び仰いで火を消した。

鈴虫の声がより大きく聞こえる気がする。

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