第7話 狐の婿入り

「なかなかやるじゃん」

ずいぶん上から目線だな…


「君はこの手のお話しは得意なようだね」

だからなんで上から目線なんだよ


「ま、次行こうぜ。まだまだ話せるんだから」

んなカラオケみたいなノリでやるもんじゃないけどな。

…本当にやっていることの重大さに気がついていないようだな。


ガサっ……

外で草木が揺れる音が


「ひゃっ!なによ!」

「ここは明るいからな…動物かデカ目の虫だろ」

「…ルール上、外に出ることはできませんからね」

ほお、よくわかってるじゃん。


「じゃあ次は俺だね……

ちょっとこわくなってきたかも」


「なんとかなるって!いつもそうだったでしょ?」


「ま、そのときは…そのときですね」

野生動物……ね

ずいぶん都合がいいこと。


「…次行くぞ」





『狐の婿入り』

 狐の嫁入りはみんな知ってるよな。

“天気雨の日”


狐の嫁入りがあるなら

狐の婿入りもあるんだわ



 そもそも天気雨になるのは

見られないようにするため。

婿入りは古来より男性側は肩身の狭い思いをしてきた。

だから嫁入りと婿入りで形態が違う


“婿は嫁を探す”

嫁に試されるんだよ。

その大きな耳とヒゲを使って


狐がかくれんぼしていたらそのまま後退りで逃げなさい。

喰われてしまうよ


そう言い伝えがなされている。



ある一匹が婿入りを果たそうとしている。

山で一匹。

嫁はどこかに隠れていて

探し出すか諦めるまでそれは続く。

ときには聴き耳を立て

ときには地面に顔を突っ込んで探す


そんなときに山奥に迷い込んだ人間がひとり。

このときの狐はとても敏感で。

嫁でなければ喰い殺してしまう。

その勇姿が嫁に認められるんだろうな。


人間は物音を立てないように山から立ち去ろうとした。

しかし…

「うわっ」

地中に開いた穴。うっかり足を踏み入れてしまい驚いて声が出てしまった。

しかもその穴、不安にも


“嫁が隠れていた”


急所に当たってしまったのか、血飛沫を人間にべったりつけて狐の嫁は動かなくなった。


婿が探しにきた。声に反応して来たらしい。

彼は鼻もいい。

嗅ぎ慣れた嫁の匂いに釣られたのだろう。

しかし……もう遅かった。

血の匂いで全てを察した。

もう…失うものはなにも無くなった狐は


“血の匂いをたどって人里に降りていくのだった”



「おわり」


ふーっ。

蝋燭が消えた。

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