第5話 火の玉戦争

「じゃあ私の番です」

寺の人間がどんな怪談を持ち寄るのか気になるな…




『火の玉戦争』

 ある大雨の夜。

その村で百姓をする男が嘆いていた。


「いつまでもいつまでも!

こんな雨ばかり降るから

一向に作物が育たない…

そればかりか年貢がだんだん厳しくなるばかりで、私たちの生活も揺らいでいる…!

ああ…どこかに雨をよけるような強い

“ひ”

でもあればな……」


「おまえさん…大丈夫、私があちこちやりくりしますから………」


「あの……」


「は…?」

「え…?」


「夜分遅くに失礼いたします」


「だれ?」

「ここ、家の中よ…?」


「わたくし、火の玉です。

あ、姿は今は見えませんよ…?」


「「いやいやいや!」」


「あの、驚かないでください」

それもそうだ。落ち着いて冷静に。

そうすれば……


「ふう…まあ、あやかしと言われればそれまでさ。で?なぜ話しかけてきた?」


「…!おまえさん!あ…あやかしなんて…

あぁ…」

女房は気を失ったらしい…

しばらく寝ててもらおう。それより


「わたくしはあなたの願いを叶えてあげます」


「それは本当なのか?にわかに信じがたい」


「では、少しだけわたくしの力を信じてください」

窓の外を見やる。

相変わらず大雨だ。

川は鯉のように落ち着きはないし

空だって月の光ひとつ届かない悪い天気…


……ではなく夜空…!

 ウソではなく晴れたんだ!

願いが…叶った!



このウワサは瞬く間に村中の百姓へ広まった。

百姓だけでなく武士や商人、貴族までもが足蹴もなく通い詰めた。


 お願いを叶えてくれる火の玉はやがて、


   “取り合いになった”


それはそうだろう。

みんながみんな願いを持っている。

「ああなればいいな」

「こうなればきっと」

そんな思いは火の玉ひとつを取り合いにさせる


 いずれ火の玉を所有する村は火の玉を売り飛ばすことで莫大な資産を手に入れた。

そうして人生を狂わせた火の玉。

時代の流れとともに取り合いの方法も変わった


“火の玉一揆”とか

“火の玉戦争”とか

きっと今思えば

火の玉は悪魔に違いない

人生を狂わせ

多額の富を動かし

依存させる


火の玉は今日も取り合いだ


…それを動かす私《わたくし》は

よっぽど恐ろしいあやかしですよね?

無垢な火の玉は喋りもしない。

ましてや願いを叶える力もない。

自分で動くことすら出来ない火の玉に

“命”を吹き込んだ私。

ああ、今日も人が狂っている。

巷じゃ“狂玉くるいだま”なんて。名誉だね。



「さあ、狂えよ」




寺の子はふーっと息を蝋燭に吹きかけた

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