第32話 突然の任務


召集から2週間が経った。

 ペン汰がライルの部屋に呼ばれる。

「ペン汰、ご苦労様。あれから休み無しで2週間働きっぱなしだったろ?キツかったな」ライルがペン汰を気遣う。


「いえ、白親気の練習にもなりましたし。色んな人の意識に触れられて、僕も勉強になりました」ペン汰は笑みを浮かべる。

「あの霧の様な白い戦気だよな?あれはもう習得出来ているのか?」とライル。

 

「それが…習得というより、それしか出来なくなってるんです。以前使ってた白い戦気と水の様な感覚が合わさって白い霧で周りを覆う感じ…」ペン汰は、説明する。

「まぁ、今の形がそもそもあるべき形なのかもしれないな」ライルは納得した様な表情。

「そうかもしれません。今の方が、範囲を広げたり狭めたり出来ますし」ペン汰が実演してみせる。


「そうか、なら良かった。とりあえずあの2人に近しい者は、全て調べる事が出来た。ありがとう。それで…実際影気に侵食されてた者は、いたのか?」ライルが小声で話す。

「正直…結構な数いました。気の残存というか、操られた跡の様な感じでした」ペン汰も小声で話す。


「そうか…その、残気の様なものは消せたのか?」ライルは、心配そうに尋ねる。

「はい、白親気の効果範囲内に入っただけで抜けて行くみたいです」と、ペン汰。


「そうか…お前がいて良かったよ。放っておいたら国ごと侵食されていたかもしれん」ライルは深刻な顔


「お役に立てて良かったです」ペン汰は笑顔。


「今のところ、国境付近に目立った動きは無い。各隊も戦に備えて準備が進んでいる。マユキ様が前に立たれたおかげか、明確な敵が現れたせいか。国は今まで以上にまとまっている感じがするよ」ライルは、嬉しそうに話す。


「準備が進んでいるのなら良かったです。僕は、ずっと外に出ていなかったので軍の事は全然わからなくて。第一隊の事が心配だったんです」とペン汰。


「リュウのとこか、あいつの隊は心配ないよ。特に戦闘においてはね」ライルが笑っている。


「そうですね」ペン汰も笑う。


「話が逸れたな。今から話す事が、今日お前を呼んだ本題なのだが、隣国のニャン王朝から短期間だが大使が来ることになった。おそらく、先の戦で帝国がワン牙の牙将を討ち取った事で帝国との同盟関係強化の見直しがあったのだろう」ライルは腕を組んで話す。


「要は、同盟関係の再確認と、より親密な国交への足掛かり……というのが名目」ライルがペン汰を見る。


「ん?他に何か裏があると?」ペン汰がライルを見る。


「実はな、今度来る大使は、間違いなく王の子だが…母親が一般人なのだよ」小さい声でライルが話す。


「つい最近、王が独断で認知したのだが、育ちは一般家庭だから貴族連中に疎まれていてな。今回の訪問も、王朝内が落ち着くまで逃す様な意味があるんだよ。こちらも影の事で忙しいというのに…」ライルが困った様な顔で話す。


「なるほど、それで僕は、何をしたらいいですか?」

 ペン汰は、ライルに尋ねる。


「ペン汰くんと同年代なんだよ」ライルがニコッと笑う。

「それで?」ペン汰が真顔で答える。

「だから…案内係兼お友達役を担って欲しいんだよ」ライルも真顔になる。

「冗談ですよね?」ペン汰は、まだ真顔。

「俺は、諜報と文官統括を兼任してるんだよ。今。忙しいんだよ」ライルは、にこやかに話すが目が笑っていない。

「ソータじゃダメですか?」ペン汰も、真顔で対抗する。

「君は今、将軍階級の特権を持っているな。君の責任でソータくんに任せるかね?」ライルはさらに、にこやかな顔だが目が笑っていない。

「僕がやります…やらせてください」ペン汰が折れた。


「そうか!君ならそう言ってくれると思ったよ!じゃあ任せるね」ライルは、にこやかな顔で手を振っている。しっかり目が笑っている。

 (用が済んだら帰れと)ペン汰は、負けた気になりながら部屋を出た。


数日後、文官長がペン汰の元を訪れる。

「ペン汰くん。明日にでも大使様が到着されるらしい。滞在期間は1週間だ」文官長がペン汰に報告をする。

「えっ?1週間も?」ペン汰は、少し嫌そうな顔をする。

「いやいや、ペン汰くん。元々1ヶ月という話だったんだぞ。こちらも軍備で忙しい事もあり、1週間でと話がついたんだ。もっと長くしましょうか?」文官長がにこやかに圧力をかける。


(うわぁ、ライルさんの真似だ)ペン汰は苦笑い。

「わかりました。準備しますので、早めに予定表をお願いします」ペン汰が文官長に、にこやかに圧力をかける。

「もちろん用意しておりますよ」こちらもにこやか。

「ありがとうございます」(負けた)ペン汰は、苦笑いになる。


「それでは、明日の昼頃に貴賓館で大使様を待ちましょう。よろしくお願いします」文官長は、勝ち誇った顔で帰る。


――翌日。貴賓館前。

「さぁ、ペン汰様。大使様が来られますよ」文官長は弾けんばかりの笑顔…を作っている。

 (ペン汰様って…)ペン汰は、冷ややかな視線を文官長に送る。


ザザザッ。

 赤色を基調にした奇抜なデザインの猫力車が目の前で止まる。


中からスラッとした体型にピンクがかったベージュ色の毛色、フサフサとした毛並みの美しい猫属が降りてくる。

 服も赤を基調にした奇抜なデザインだが、動きやすそうな服でもある。


「うわぁ」ペン汰は、見惚れていた。


「初めまして、ニャムと申します。ニャン王朝より来ました。猫属ソマリ系種です」笑顔が眩しくもあるが、活発そうな雰囲気が漂っている。


「ニャム様、遠路はるばる帝国までご苦労様でした。お連れ様も一緒に中へどうぞ」文官長が案内する。


ニャムの付き人、数人とペン汰達は貴賓館の中に入る。



 

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大陸アニマ〜そのペンギンと紡ぐ世界〜 garato @garato00

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