第25話 勝利に向けて


戦場は、国の境目…気候が変わる場所に位置していた。

 雪のパラつく草原から一歩先に出ると急激に気温が上がり砂漠化した場所も見える。

 アニマ大陸の中に数カ所ある気候の変わり目がハッキリした、苛烈な地域。

 劣勢ながらも隊長リュウの活躍で、なんとか持ち堪えていた。


「隊長!無事で何よりです」と小隊長が駆け寄る。

「おぅ!ちょっとヤバい場面もあったが、なんとか持ち堪えている」とリュウ


「今どのような状況でしょうか」と小隊長

「数で言えばワン牙800にうちが500だ。ジリジリ押されている。あと数日お前達が遅ければ一気に持っていかれる所だった」とリュウ


「救援部隊が100名、なんとか均衡を保てそうですね」と小隊長。


「いや、今まで数日間向こうが優勢だったんだ。少し気も緩んできたはず。攻めるなら今だ!日が登ったら一気に行くぞ」とリュウの気合いがみえる。


「お久しぶりです!」ペン汰とレインがリュウに挨拶する。


「おぅ!お前達も来ていたか!」とリュウが2人を見る

「ショウが、お前達をよこしたってことは、だいぶ腕を上げたって事だな!期待してるぞ」とリュウは2人の肩を叩く。

「はいっ!全力で戦います」とペン汰。

「腕がなりますね」とレインは笑っている。


「とりあえず、明日に備えて寝ろ!」とリュウ。

 はいっと2人は休んだ。


 ――翌朝


「よしお前ら!少し押し込まれてはいるが、こっちの気候は我らの得意な雪だ!一気に押し返すぞ!」とリュウが鼓舞する。

「おぉ!」と兵達も拳を挙げて答える。


「波の陣!第一隊から第三隊、順に突撃!」とリュウが突撃命令を出す。


「続けて四、五、六隊も詰めろ!」とリュウが指示を出す。


 互いに先頭部隊がぶつかり砂塵が舞う。

 第一隊の槍が敵陣を貫いたところで第二隊が剣で切り込む。そのうちに第一隊の後ろに引き、第三隊が大楯で押し込む。

 大楯の後ろから戻った第一隊が槍で貫く。

 一連の動きがスムーズで波のように押し寄せる。これを数回繰り返すうちに後ろの隊と入れ替わる。

 この動きで隊の消耗を最小限に抑えている。

 ペンギン属ならではの息のあった陣形。


「うん、今回は数が戻ったこともあって、押されてはいないな……だが」とリュウは腕を組んで考える。


「やはり、ワン牙の突進力と連携はすごい。なかなか綻びが見えないな。どこか、一点でも崩す必要がある」リュウは戦況をみながら考える。


「だれか!」とリュウ。

「はっ!」と兵がリュウの側へ。

「ペン汰とレインはそれぞれ配置していたな!呼び戻せ」とリュウが命令する。

「了解しました」と兵が各隊に向かう。


 ペン汰とレインは、急いでリュウの元へ。

「お前達に、でかい仕事をやる!」とリュウの大きな声。

「はっ!」と2人は敬礼。

「今戦況は、膠着状態だ。突き破るなら今だ!

 大きな賭けになるが、俺達3人で敵の横っ腹に楔を打つ!

 隊の後ろから横に回り込み、一気に切り込むぞ」リュウは、蒼気に満ちていた。


 3人は、隊の後ろにつき岩陰に入る。

「よし、この辺りだな」とリュウが岩陰の途切れから戦況を確認する。


「ここから真っ直ぐ行ったら中央に指揮官がいる。首に黄色の布を巻いている奴だ。目指すのはあいつのみ!一点突破だ!まず俺が外側を突き破る!」とリュウ。

「そこから私が中腹まで突破します」とレイン。

「詰めは頼んだぞ!ペン汰」とリュウが笑う。


「はい」とペン汰は不安そうな顔をしている。

「ペン汰!ファーストペンギンはペンギン属の誉れだ!誰よりも先んじろ!己が他の道標となれ!第一蒼律部隊とは、道を切り開く部隊だ!」リュウは、そう言うとペン汰の背中を叩き、部隊中腹へと駆け出した。


 スバッ!

 リュウは、自分の身長以上の方天戟を振り回して一度に2〜3人を薙ぎ倒している。


「よし!次は私だ」とレインは笑いながら突撃していく。

 リュウが方天戟で左に薙ぎ払う瞬間にリュウの右後方からレインが飛び出す。


「どけ!犬ども!」と薙刀振るスピードが一段と早くなっている。舞でも踊っているかのような連続した攻撃をしながら、中央に向けて突進している。

「突破力。本当に上がってる。僕も行かなきゃ!」とペン汰が全力で走り出す。


 リュウが、ペン汰の動きに合わせて檄を横に突き出す。

「飛べ!ペン汰!」とリュウが叫ぶ。

 ペン汰はリュウの檄に飛び乗り、リュウが一気に檄を振る。


「いけー!ペン汰!」とレインも敵を薙ぎ倒して道を切り開く。


「飛ぶよ!」とペン汰が檄の振りに合わせてジャンプする。

 イワトビ系の真骨頂!大ジャンプで一気に指揮官の近くまで飛ぶ。


「よし、ここからだ!3対3の訓練を生かすんだ」とペン汰は集中する。


 指揮官の周囲を5人の犬属が守っている。

 3人の犬属がクローを突き出し一気にペン汰に向かって飛びかかる。


「全体に意識を向けるんだ、動きを読み取る!」ペン汰から出た白い戦気の水が薄く辺りを包み、犬属3人は、その範囲の中に。

 水は、流れとなりペン汰に流れこむ。


「読めた!」とペン汰は、着地しながら1人目のクローを弾き脇腹に横一閃。

 そこに2匹目がクローを突き立てる。

 ペン汰は、横一閃の回転を利用してレイピアで武器の軌道をずらす。

 すぐに足払いして背中からひと突き。

 3人目が怯んだ所を追撃して縦一閃。


 残りは、指揮官含めて3人。

 リュウとレインは、囲まれているが、なんとか凌いでいる。

「時間がない」とペン汰は、地面を蹴って指揮官の元へ飛ぶ。


指揮官達も、ペン汰の戦気の範囲内に入る。

 思考が流れる。「よし、読めた」

 ペン汰、クローで殴りかかる2人の間をレイピアで払いながら抜ける。


 指揮官の目の前に出る。

 指揮官は、焦って咆哮を行う。

「しかしペン汰は、それを読んでいた」

 咆哮の、効果で体は硬直するが、すでにレイピアを突き出し指揮官の心臓部に飛び込んでいた。

「このまま!」ペン汰の剣は指揮官の心臓部を貫いた。


「討ち取った!」とペン汰は叫ぶ。


 リュウが周囲に轟く声で「うぉー」雄叫びを上げる。


ワン牙の隊は、唖然となる。

 その隙に。第一蒼律部隊がどんどん押し込む。

 ワン牙の隊は、前線から総崩れとなった。

 

部隊は、ペン汰達の位置まで攻め込み、ペン汰を救出。

「戦に勝ったぞ!」隊員達は各々雄叫びを上げる。

「やった!僕やったよ!」とペン汰は、両手をあげて喜ぶ。


 リュウとレインが喜ぶペン汰へ駆け寄っていく。

「やったね!ペン汰!すごいよ」レインがペン汰に触れようとした瞬間。


 シュン。レインの横を何かが通り過ぎた。



 ドスッ…

「うっ…」

ペン汰の腹部に弓が刺さる。

「えっ?ちょっ……ペン汰!ペン汰!」レインはペン汰に駆け寄る。


 

「なに…これ…いた…い…くるし…」

 ペン汰は、崩れるように倒れた――。


「おい!ペン汰!」リュウが駆け寄る。

「この色は、毒…」ペン汰の傷口から血と共にドス黒い何かが漏れ出ていた。


「急げ!手当てだ」リュウは、叫ぶ。

 


 

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