地味な俺が嘘告白させられた結果、実は繊細なギャルと真実の愛を見つけ、クズな陽キャに因果応報をお見舞いする物語

@flameflame

第一話:偽りの告白、陰謀の始まり

新学期が始まった。俺、天野碧生は、またしても教室の隅で文庫本を広げていた。視線の先には、いつも通りの光景がある。クラスの中心で笑い声を響かせているのは、月島凛音。彼女は太陽みたいに明るくて、容姿も非の打ちどころがない。俺みたいな目立たない陰キャには、遠い世界の住人だ。それでも、図書委員の仕事で偶然言葉を交わした時の、あの屈託のない笑顔が忘れられなかった。俺は、彼女に密かに憧れていた。


昼休み、いつものように本を読みながら弁当を食っていると、突然後ろから肩を叩かれた。振り返ると、そこには鳳凰院隼人がニヤリと笑って立っていた。学園のカリスマ、鳳凰院隼人。完璧な男。しかし、俺たちみたいな弱いやつを面白半分でからかう、悪魔のような男でもあった。


「おーい、天野。何読んでんだ? 相変わらず陰気な本ばっかりだな」


俺は何も答えず、目を伏せた。関わらないのが一番だ。だが、隼人は俺の肩に手を置き、無理やり顔を上げさせた。


「おいおい、そんな暗い顔すんなよ。お前、月島のことが好きなんだってな?」


心臓が大きく跳ねた。顔が熱くなる。なんでバレてるんだ? 誰にも言ったことなんてないのに。


「別に…そ、そんなんじゃ…」


どもる俺を見て、隼人が愉快そうに笑う。


「へえ? 図書室でいつも月島の周りをうろちょろしてるって、俺の友達が見たぞ? 隠さなくてもいいじゃねえか。お前だって男だろ?」


隼人の周りにいた取り巻きたちが、嘲笑の声を上げる。彼らの視線が突き刺さる。耐えきれなくなり、俺は本を閉じようとした。その時、隼人が俺の頬を軽く叩き、挑発するように言った。


「なあ、天野。男なら、一度くらい告白してみろよ。どうせフラれるだけだろ? でもさ、勇気出すってのも大事なんじゃねえの? 面白いから、やってみろよ。な?」


隼人の言葉は、まるで麻薬のようだった。どうせフラれる。わかっていた。だが、もしかしたら、という一縷の望みが、心の隅で揺れた。そして何より、この場から逃れたい一心だった。


放課後、俺は震える足で凛音の帰り道を待ち伏せた。夕焼けが校舎を赤く染め、心臓の音がうるさいくらいに響く。やがて、凛音が星名瑠璃と楽しそうに話しながら歩いてくるのが見えた。彼女の笑顔は、いつも通りまぶしい。


彼女が俺の目の前を通り過ぎようとした瞬間、俺は意を決して声をかけた。


「月島さん!」


凛音は驚いたように振り返った。瑠璃は先に進んでいく。俺は、胸が張り裂けそうなほどの緊張の中、震える声で絞り出した。


「つき、月島さん!…好きです。付き合ってください!」


凛音の瞳が、わずかに見開かれた。次の瞬間、彼女の表情に、かすかな寂しさが浮かんだように見えた。隼人たちが期待していた嘲笑ではない、どこか痛みを伴うような表情。


「ご、ごめんなさい、天野くん。私、今はそういうの、ちょっと考えられなくて……」


告白は、予想通り、あっけなく終わった。凛音は申し訳なさそうに頭を下げ、足早に去っていった。その背中を見送りながら、俺は膝から崩れ落ちそうになった。俺の「嘘告白」は、あっけなく玉砕した。


翌日、俺の「嘘告白」は、隼人たちによって面白おかしく拡散されていた。クラスのあちこちから、俺を嘲笑する声が聞こえる。耐えられなかった。俺は、もう二度と学校に行きたくないと、本気で思った。


******


新学期は、いつもと変わらない日常だった。瑠璃たちと騒いで、笑って、毎日がキラキラして見えた。でも、それはあくまで「私」が演じている月島凛音。クラスの中心で、みんなの期待に応える「ギャル」の私。本当の私は、いつだって誰かの評価を気にしながら、疲れてばかりいる。


そんな私の日常に、ちょっとした異変があったのは、天野碧生くんからの告白だった。放課後、瑠璃と他愛もない話をしながら歩いていると、突然彼の声が聞こえた。


「月島さん!」


振り返ると、そこにいたのは、いつも教室の隅で本を読んでいる、地味で目立たない天野くんだった。彼が私に声をかけてくるなんて、思ってもみなかったから、少し驚いた。瑠璃は「先行ってるねー」と言って先に進んでいく。天野くんは、顔を真っ赤にして、震える声で言った。


「つき、月島さん!…好きです。付き合ってください!」


正直、驚きしかなかった。まさか、あの天野くんが。でも、彼の言葉を聞いて、すぐにピンと来た。ああ、これは、鳳凰院くんたちの仕業だろうなって。最近、鳳凰院くんが天野くんをからかっているのを、何度か目撃していたから。彼はいつも、誰かをターゲットにして、面白半分でいじっていた。今度は天野くんの番だったんだ。


彼の真っ赤な顔と、震える声。本当は、すごく真剣なんだろう。でも、これは鳳凰院くんたちのゲーム。私がここでOKしたら、天野くんはもっとひどい目に遭うかもしれない。それに、私自身も、鳳凰院くんたちの「ギャル」の役割を演じ続けるには、天野くんのような「陰キャ」と付き合うなんて、ありえないことだった。


だから、私は心を鬼にして言った。


「ご、ごめんなさい、天野くん。私、今はそういうの、ちょっと考えられなくて……」


謝る声は、自分でも驚くほど冷静だった。彼がどんな顔をしていたか、直視できなかった。ただ、彼が膝から崩れ落ちそうになっているのが見えて、胸が締め付けられるような痛みを感じた。彼の告白が「嘘」だと分かっていながら、彼の純粋な気持ちを傷つけてしまったような気がして、心が重かった。


翌日、学校に行くと、すぐに噂が耳に入った。天野くんの告白が、鳳凰院くんたちによって面白おかしく広められている。クラスのあちこちで、天野くんを嘲笑する声が聞こえる。彼の顔は、昨日よりもさらに暗く、教室の隅で小さくなっていた。


私は、何もできなかった。鳳凰院くんたちの悪意に、何も言えなかった。私も、彼らの「いじり」に加担してしまったような気がして、自己嫌悪に陥った。表面では笑っていても、私の心の中には、深い影が落ちていた。天野くんのあの寂しそうな表情が、ずっと頭から離れなかった。

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