幼馴染二人と恋人になった件(仮)

夜空 星龍

第1話 幼馴染兼恋人2人との同棲が始まった件①

「海星。私たちと付き合わない?」

「海星君。私たちと付き合いませんか?」


 幼馴染二人から告白されたのは中学校の卒業式の日だった。


☆☆☆


「美尋。これはここでいいか?」

「はい。そこに置いておいてください」

「了解」


 俺は手に持っていたダンボール箱をテーブルの上に置いた。

 キッチンの方でキッチン用品の片付けをしているのが、俺の幼馴染兼彼女の白咲美尋しろさきみひろだ。

 小柄で、金髪のロングヘアを腰くらいまで伸ばしている美尋は天使級に可愛らしい顔をしているということもあって、中学生時代には天使様と呼ばれていた。

 

海星かいせい君。ちょっとこっちに来てくれませんか?」

「ん? どうした?」

 

 美尋に呼ばれて俺はキッチンに向かった。

 現在、俺たちは引っ越しの片付けに追われていた。

 高校進学を機に俺たちはそれぞれの両親の勧めで同棲を始めることになった。

 

「海星君。これをそこに入れてくれませんか?」

「了解」


 俺は美尋から新品のキッチンペーパーを受け取った。


「これ、そこに入れても大丈夫か? 取れなくないか?」

「大丈夫です。しばらくは使わないですし、踏み台を買うつもりですから。それにいざという時は海星君に取ってもらいますから」

「取るからいつでも言ってくれ」

「ありがとうございます。頼りにしています」


 小柄な美尋には少し高いところにある収納に俺はキッチンペーパーをしまった。

 

「他にしまう物あるか?」

「後は大丈夫そうです」

「おけ。じゃあ、俺は自分の部屋の片づけをしてくるから、また何かあったら呼んでくれ」

「はい。分かりました」


 自分の部屋に向かおうと踵を返すと「海星君」と美尋に呼び止められた。

 やっぱり他に何か用があったのだろうかと振り返ると、美尋が近づいてきてキスをされた。

 数カ月前の美尋からは考えられない積極的な行動に俺は驚きを隠せなかった。

 俺にキスをしてきた当の本人は顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうに下を向いていた。 


「か、彼女になったのですから、これくらいはしていもいいですよね」

「もちろんいいに決まってるだろ」


 そう言って、俺は美尋の腰に手を回して抱き寄せた。


「か、海星君!?」

「美尋の彼氏になったんだから、俺からキスをしてもいいよな?」

「……」


 美尋は無言でコクっと頷いた。

 だから、俺は美尋の唇にキスをした。 

 美尋の彼氏になったという実感はあまりなかったけど、こうして美尋とキスをしていると本当に彼氏になったんだということを実感した。

 幼馴染のままの関係性だったら、こうしてキスをすることはなかっただろう。

 

「好きな人とキスをするのは幸せなことですね」

「そうだな」


 あの日、二人に告白をされて俺は自分の気持ちに気が付かされた。 

 幼馴染という関係から変わってしまうのは正直怖かったけど、二人が勇気を出して告白をしてくれたのに俺がその気持ちに応えないわけにはいかなかった。

 それに今では二人と恋人になれてよかったと思っている。

 だって、こんなにも幸せそうな顔をしている美尋のことを独り占めできるのだから。


「てか、初めてキスしたな」

「そ、そうですね」

「しかも美尋から」

「……」

「まさか、美尋がこんなに積極的だったなんて知らなかったけどな」

「そ、それは……仕方ないじゃないですか。我慢できなかったのですから」

「そんなに俺とキスがしたかったのか?」

「も、もうこの話は終わりです! 海星君は自分の部屋のお片付けに行ってください!」


 どうやら揶揄い過ぎたらしい。 

 リンゴのように顔を真っ赤にさせた美尋にリビングから追い出されてしまった。

 そんな行動すら愛おしく感じてしまうのは俺が美尋のことを心の底から好きだからだろう。

 美尋にリビングから追い出された俺は大人しく自室に向かうことにした。

 これから俺が暮らすことになるこの家は美尋の父親が用意していくれた家で、間取りは5LDK。

 市内で一番高い高層マンションの最上階だ。

 この家で暮らすのは俺と美尋、それから俺たちのもう一人の幼馴染である環奈の三人だ。

 一人一部屋使っても二部屋余る。

 余った部屋の一つは寝室で、もう一部屋は物置として使おうということになっていた。

 

「本当にこれからあの二人と一緒に暮らすんだよな」

 

 これからのことなんて何も分からないけど、これだけは絶対に変わらないということは分かる。

 俺が二人のことを好きだという気持ちだ。

 二人に対する好きという気持ちは死ぬまで変わることはないだろう。

 俺はそれほど二人のことが好きだった。

 

「あっ、ちょうどいいところに来た。海星。ちょっと手伝ってくんない?」

「どうした?」


 自分の部屋に向かう途中で環奈に呼ばれ、環奈の部屋の前で足を止めた。

 

「これを組み立てようとしてたんだけど、全然できなくて」


 黒髪ミディアムで、肌の露出の多めな服を着ていて、カラーボックスの組み立てに苦戦しているのが俺のもう一人の幼馴染兼彼女の黒瀬環奈くろせかんなだ。

 

「説明書ある?」

「あるよ~。はい、これ」

「サンキュー」


 俺は説明書を見ながらカラーボックスを組み立てた。

 

「ほい。完成」

「海星天才じゃん!」


 そう言って環奈が抱き着いてきた。

 環奈は幼馴染の関係だった時からこの距離感で、人前でも普通に抱き着いてきたりする。

 

「お礼にキスしてあげる♡」

 

 ちゅっ、と環奈が俺の首に手を回してキスをしてきた。

 今思えば、環奈はずっと俺に好きだということを伝えてくれていたのかもしれない。

 環奈は幼馴染の関係の時から俺にキスをしてきていた。

 誰にでもキスをしているとは思っていなかったけど、距離感があまりにも近すぎて、それがいつの間にか当たり前になっていて気が付かなかった。

 いや、気が付かないふりをしていただけかもしれない。

 二人との幼馴染という関係を壊したくなかったから。


「リビングの方の片付けはもう終わったの?」

「あらかたな」

「そうなんだ。みーちゃんは?」


 みーちゃんというのは美尋のことだ。

 環奈は美尋のことをみーちゃんと呼んでいる。


「まだキッチンの方の片付けをしてる。手伝おうかと思ったけど、追い出されたから、自分の部屋の片づけをしようかと思ってたところ」

「追い出された? 美尋に何したの?」

「揶揄ったら追い出された」


 俺は美尋と初めてキスをしたことと、そのことで美尋を揶揄ったことを環奈に伝えた。

 

「あはは、みーちゃんキャパオーバーしちゃったか~! てか、ようやくか~! ちょっとみーちゃんのところに行ってくる! 組み立ててくれてありがと海星!」


 環奈はもう一度俺にキスをすると、リビングに駆け足で向かった。

 俺も自分の部屋に向かった。

 俺の部屋は環奈の隣で、さらにその奥に美尋の部屋がある。

 ちなみに廊下を挟んで反対側に寝室と物置部屋がある。


「さて、片付けますか」


 部屋の中に積まれたダンボール箱を前に俺は気合を入れた。


☆☆☆

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