第7話 『祈願OS拡張計画──地方展開へ』
──神界・高天原タワー 第四戦略会議殿。
先日、人界にて実地テストされた〈祈願OS〉。その成功を受け、八百万株式会社では本格的な拡張戦略が議題となっていた。
『さて、今回は“祈願OS”の次なる段階! 全国展開に向けた拡張プロジェクトが始動します!』
《本日の戦略会議には、営業・開発・広報・財務各部の幹部神格が再び集結。議題は、祈願OSの地方適応とカスタム信仰UXの最適化です》
議長席に座るのは再びアメノミナカヌシ。沈黙を守る彼の視線は、会議全体を包むように柔らかく、それでいて鋭い。
最初に立ち上がったのは開発部長・大国主命だった。風格のある佇まいと、地に根ざした神格の響きが、静かに場を引き締める。
「我らが向き合うのは、都市部ではなく“祈りが消えかけている場所”だ。過疎化、地域神社の消滅、信仰の断絶。これらに対応するには、地域ごとの祈願文脈を読み直す必要がある」
神々の視線が交差するなか、静かに立ち上がったのは営業企画課課長・宇迦之御魂神。
「その通りです。特に地方においては、“祈ることの意味”が生活と密接に結びついています。統一されたOSをただ設置するだけでは、共鳴は起きない。私たちは“祈りの文法”を再学習する必要があります」
『まさに実感に即した発言! 神々はただ技術を届けるのではなく、その土地の“想い”を読み解こうとしている!』
《今回の拡張計画では、各地に“祈願コミュニティ・アナライザー”を派遣。地域の思念波と祈願履歴を分析し、信仰インターフェースをローカライズする方式が採られます》
そこへ、猿田彦命が手を挙げた。鮮やかな交渉スーツを翻しながら、彼は一歩前へ。
「現地交渉については、私が担当しよう。信仰の記憶をたどり、地元の声を聞いて歩く。足で稼がせてもらうよ。土地に宿る気配がある限り、導くことはできる」
『さすがの交渉神! その“先導力”に、地方神々も応じざるを得ない!?』
さらに、市杵島姫命が立ち上がる。清廉な雰囲気と知的な笑みを携えて、広報の戦略を語る。
「地域の神話や風土に基づいたPRコンテンツも併せて制作します。“自分のまちの神様”を再発見してもらうことが、最大の接続点になるはずです。伝統と革新、その両方に寄り添います」
続いて、高御産巣日神が静かに言葉を添える。
「人と神の間に“信頼の再構築”を。祈りはデータではなく、対話の一形態です。私たちが求めるのは共鳴と対話、そして祈りが暮らしに戻ること」
沈黙の後、光が差し込むように、天照大神が立ち上がる。
「──祈りを絶やしてはならない。光の届かぬ地にこそ、神の手を」
その一言に、会議室の空気が変わった。
張り詰めていた各部署の思考が、ひとつの方針にまとまり、熱を帯びた流れへと変化していく。
まさに、意思の統一。
『ここに、〈祈願OS拡張計画〉、正式始動です!』
《次回は、地方フィールドへの初出張。祈願OSが“暮らし”とどう交わるか、その最前線を追います》
〖以上、白咲飛鳥と──〗
《神斎アカリでした。またお会いしましょう》
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