第6話 『祈願OS、現界稼働』
──人間界・関東某所、祈願フィールドテスト区域。
そこは、かつて神社が密集していた古い街並みの一角。だが、今は空き地となり、老朽化した鳥居だけが残る“信仰の空白地帯”だった。
『ついにこの時が来ました! 祈願OS――その実地稼働テストが始まります! 神界から人界へ、祈りのシステムが接続される瞬間!』
《現地の祈願端末には“イノガミ・コア”が組み込まれており、リアルタイムで神界と接続。ユーザーが祈願することで、神格側のUIが応答を返す仕組みです》
現場に立つのは、営業企画課課長・宇迦之御魂神。祈願UXの未来を託された、静かなる導き手。
「……では、始めましょうか」
宇迦が指先で軽く空をなぞると、朽ちた鳥居の奥に光のラインが走り、空間が展開した。そこに現れたのは、新設された〈祈願ステーション〉。
機能は端末型だが、見た目はごく普通の賽銭箱。神の姿を表に出さず、あくまで“人が祈る構造”を守る設計になっている。
そこへ、一人の若い女性が近づく。彼女は何かを祈り、ゆっくりと手を合わせた。
『おっと、早速テスト参加者が現れました! 感情ログ、UIレスポンス、祈願同期信号――すべてリアルタイムで送信されております!』
《神界側では、応答アルゴリズムが即時解析に入っています。今回のプロトコルでは、神格の“手触り”を残す応答形式が採用されています》
──神界・高天原、情報システム部 第七UI応答処理層。
祈願信号を受信し、月読命が静かに目を開いた。
「対象、思念波レベルD。哀しみに基づく願望……これは、共感型の神格応答が適切」
その判断の直後、思金神が補助演算に入り、祈願意図を再構成。次いで、菊理媛命の“共鳴コード”が挿入される。
『まさに神連携プレイ! 感情を理解し、共鳴し、返す――それが新時代の祈願OS!』
《応答データが処理されました。祈願者の端末には、光を帯びた文字が浮かびます。応答は——“あなたの声は、届いている”》
──再び、地上。
祈願を終えた女性は、光のメッセージを見て小さく息を呑む。そして、ほんの少しだけ微笑んだ。
『……今、神と人の“祈り”がつながりました! 新たなUXの夜明けです!』
《今後はこの試験データをもとに、各地に祈願OSが展開予定です。信仰はシステムとなり、人と神の距離を再び結び直すでしょう》
〖以上、現場よりお届けしました。白咲飛鳥と──〗
《神斎アカリでした。次回もどうぞ、お楽しみに》
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