第20話 樹木には何かが宿る

私の息子は、樹木の伐採を生業としている。

樹木の枝に命綱を掛けて、樹木の枝から伐採していく作業で

『特殊伐採』と呼ばれる職種に就いている。

俗に『空師』とも呼ばれている。


神社の御神木が、台風被害で大枝が折れてしまったりした時に、

御神木にダメージを残さないように、切らせて頂いたりする。


他に、住宅密集地の大木や、送電線を守る為に鉄塔周囲の樹木の枝を伐採したり。


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神社関連でいえば

古から続く神社は、山深い山中にあったりする。


先人が、後世に神社の建て替えの時に使えるようにと

境内に欅の木や、杉の木を植えて手入れされていたりするが

いかんせん、その木を使用出来ない場合がほとんどだ。


一抱えもある大木を伐採する為の重機が、まず木の側まで入れない。


樹木を建材として使用する為には

まずは伐採しないといけない。


急斜面を登った先にある神社だったり

神社の社の奥に、そういう建て替え樹木があったら

切り出せないのだ。


数十年、切り出せないままで放置された樹木が、大きくなり過ぎて

神社の本殿の屋根に覆い被さって、屋根を破損させる事例が

昨今では、多くなって来ているらしい。


そんな樹木は、やむなく、短い材で切り込んで

パルプの原料になるような伐採を行う。


樹木の伐採依頼があれば

神社の宮司さんと相談しながら

現地を見て回り、切り出す樹木に印のリボンを巻くのだが


何故か、切る予定でいるはずなのに、

別の木に印を巻いてしまう、ような事例が起こる。


見積書作成で、現地写真と照らし合わせながら

樹木の本数を記載していくのに、

伐採予定の樹木のカウント数が、1本合わない。

なんて事が起こる。


切られたくない樹木が

伐採者の思考に干渉するようなのだ。


神社の樹木に限らず、

自分が切られたくない木は

カウントされないように画策するようだ。


ある時、伐採範囲にある樹木で、見積書の記載から漏れていた木があった。

切らねばならないので、命綱を掛けて、木に登り

切り倒す作業に入ったとたん、

チェーンソーが思わぬ動きをして、

自分の腕に刃が向かって来て、肌に食い込んできた。


咄嗟に、チェーンソーから手を離して、投げた。

(チェーンソーはロープで体からぶら下げているので、下に落ちる事はない)


危うく、腕1本、失う所だった。

大怪我を負ったが、骨まで刃は到達していなかった。


そういう経験を、積んで

カウントから漏れる木がある事も踏まえて

どんな樹木を伐採する時でも

『切らせて頂く』ことを伝えてから、刃を当てるようにしているそうだ。






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