第14話 前世の記憶か?

龍踊り(じゃおどり)。

龍の、頭部から尾までの作り物に、数本の持ち手用の棒を着け

その龍の体をくねらしながら

龍が玉を追いかける踊り。

銅鑼やラッパなどの、けたたましい演奏に乗って

ダイナミックに繰り広げられる踊りだ。


小さい頃、父親に抱かれて、その龍踊りを

最前列で見た。

龍が私の眼前に顔を寄せて来て、

目の前でカパッと口を開け、食べられそうになった。

怖がる私に、父親が愉快そうに笑って、私の頭を撫でた。

私はきれいな色合いの晴れ着を着ていた。

沢山の人が、押し合うように、龍の近くへと寄って行っていた。


そんな記憶がある。


その踊りが”龍踊り”という名前だと知ったのは

ずっと後の、中学生になった頃だ。

何かの特集番組で、長崎県の”長崎くんち”の祭りが放送された時だ。

一緒に見ていた母に

「この祭りに、小さい頃連れて行ってもらったよね。龍にぱくんって食べられそうになったの、覚えてるよ。」

そう言った。

母は、”またこの子変な事言い出した”みたいな感じに

「こんな祭りに連れて行った事なんかないわよ。長崎には行ったことないし。」

はっきりと、断言した。

「第一、こんな祭りに出かける余裕は、うちには無い!」

「え?どっかの、イベントかなんかの時に行った、とかは?」

「それなら覚えてるわよ。とにかく、知らない。」

私は、母のこの物言いに、憤慨して、後日父親にも聞いてみた。

「しらん。ない。」

実にそっけなく、否定された。


私は、絶対に、龍を目の前で見た。

銅鑼の音も聞いた。うるさかった。


父親に抱っこされて、最前列で、龍の顔を見たのに。


こんな風に、自分の記憶の中の経験と

実際の家族の記憶の中の経験が、一致しない事が、時々ある。


これって、私の前世の記憶なのだろうか。


父親に抱っこされて、晴れ着を着て、祭りに連れ出されているなら

大切にされていた子だったんだよね。

そこは、実際の自分より、幸せな子供時代だったんだ、と思う。

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