第24話:歌が紡ぐ告白
体育館のステージ中央。
スポットライトを浴びた私は、
ただ呆然と、立ち尽くしていた。
足がガクガク震えて、
視界がぐにゃりと歪む。
目の前が真っ暗になる寸前、
心の中で、そっと彼の名を呼んだ。
「……輝先輩」
その時、客席最前列に、
輝先輩の姿が見えた。
彼の瞳は、驚きと、
そして、何かを確信したような光を宿していた。
その視線が、私を貫く。
「うそ……」
そう呟く声は、誰にも聞こえなかった。
怜姉ちゃんが、ステージに私を押し出すようにして、
ポン、と肩を軽く叩いた。
その手は、いつも通り無愛想やけど、
なぜか、私の背中を優しく押してくれているようやった。
「あんたの番や」
そんな無言のメッセージが、伝わってくる。
その瞬間、怜姉ちゃんのドラムが、
力強く、そして情熱的に、
体育館中に響き渡った。
ドスン、ドスン、と心臓に響くようなリズム。
それに合わせて、バンドの音が重なる。
ブレイズが、私の「告白ソング」のイントロを演奏し始めたのだ。
『ムーンアイランド~君の隣で、歌うから~』。
まさか、この歌が、
こんな大勢の人の前で、
しかもブレイズの演奏で、
鳴り響くなんて。
全身の血の気が引いた。
頭の中は真っ白。
何も考えられへん。
マイクを握る手が、ガクガク震える。
指先を見つめる。
私の指は、こんなにも震えているのに、
どうして、歌えるんやろう。
逃げ出したい。
そう思った、その時。
客席の最前列で、輝先輩が、
立ち上がるか迷って、わずかに手を伸ばしたのが見えた。
その仕草が、私には、
「大丈夫だ」と、
「歌ってくれ」と、
囁いているように感じられた。
私の視線と、彼の視線が、
ステージの上と客席で、強く絡み合う。
姉に舞台を準備してもらったこと。
ブレイズのメンバーが、
私のために、この曲を演奏してくれていること。
彼らの熱い演奏が、私を包み込む。
そして、輝先輩の視線と、バンドの音に導かれ、
私は、告白を決意した。
震える唇を、ゆっくりと開く。
私の声は、最初は小さくて、
震えていたけれど、
ブレイズの演奏が、私を包み込むように、
優しく、そして力強く支えてくれた。
「初めての場所 見慣れない都会(まち)
人見知りな私 俯(うつむ)いたまま
だけど指先が 触れたボカロに
新しい世界 きらめいたんだ」
歌い始めた途端、
私の心の中に、
不思議な力が湧き上がってくるのを感じた。
恐怖が、少しずつ、消えていく。
私は、ただ、輝先輩の瞳を見つめて、
この歌に込めた想いを、
まっすぐに伝えようとした。
曲の途中から、おなじみのボカロの声も加わり、
私の生歌とデュエットする。
透明感のあるボカロの声と、
私の少し掠れた声が、
体育館中に響き渡る。
それは、私にとって、
最も安心できるハーモニーやった。
観客は、和歌の歌声が「わかP」と完全に一致することに気づき、一瞬会場がシンと静まる。
私の歌声が、体育館に響き渡る。
最初はざわついていた観客が、
一瞬、シンと静まり返った。
そして、すぐに、ざわめき始める。
「え、これ、『わかP』じゃない!?」
「あのリアルボイスの子だ!」
「マジかよ、和歌ちゃんが!?」
そんな声が、耳に届く。
驚きと興奮が、体育館中に広がる。
私の歌声は、ますます力強くなっていく。
歌詞に込めた想いが、
どんどん溢れ出してくる。
輝と和歌の視線が絡み合い、
歌のサビ部分が、輝へのストレートな告白となる。
「月の灯りが 照らす島で
私はずっと あなたを探してた
波音に溶ける 小さな願い
どうか隣で 光でいて
私の世界を 包んで
ねえ、輝いて」
私の視線は、ずっと輝先輩に固定されていた。
彼の瞳は、驚きと、
そして、確かな感動で満たされているようやった。
彼の唇が、微かに動いた。
「和歌……」
そう、彼が呟いたのが見えた。
私の歌声は、
彼に届いたんや。
そう確信した瞬間、
胸の中に、温かい光が満ちていく。
最後の音が、体育館に響き渡る。
私の歌声が、会場全体を包み込む。
それは、私だけの、
たった一つの、告白やった。
すべてを伝えきった。
そう思った時、
私の視界は、輝先輩の笑顔で、
いっぱになった。
この想いが、彼に届いたのなら。
もう、何もいらない。
私は、静かに、そう願った。
物語は、ここで、終わりを告げる。
でも――
私たちの物語は、これからや。
リズムガーデン・プレリュード -もうひとつの序曲- 五平 @FiveFlat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます