第17話:二人のハーモニー

あの夜、怜姉ちゃんに渡した、

私だけの秘密の詞。

夜空の下で、月を見上げながら、

私の想いが輝先輩に届くことを願った。

秘密の歌が、いつか彼に届いたら。

そんな淡い期待を胸に抱きながら、

私の日常は、少しずつ、変化していった。


学校では、輝先輩との距離が、

以前にも増して多くなった気がする。

廊下ですれ違うたびに、

「よっ」

と、彼が声をかけてくれる。

そのたびに、心臓がドクンと大きく鳴る。

顔がカッと熱くなる。

以前は、ただただ戸惑うだけやったけど、

今は、その瞬間が、

一日の中で、一番の楽しみになっていた。

彼の笑顔を見るたびに、胸の奥が甘く疼く。


ある日の昼休み、

食堂で一人でご飯を食べていると、

ふいに、目の前の席に影が差した。

顔を上げると、そこに輝先輩が立っていた。

「一人か? 俺も混ぜてくれよ」

そう言って、彼は俺の隣に座った。

その時、輝先輩が少し照れたように笑った気がした。

「あ、はい……」

声が上ずってしまう。

緊張で、箸を持つ手が震える。


「今日、なんの授業あんの?」

「えっと……体育と、古典です」

たどたどしい私の言葉にも、

彼は優しく相槌を打ってくれる。

以前は、まともに話すことすらできへんかったのに、

今は、少しだけ、会話が続くようになった。

彼の優しさや言葉に触れるたびに、

胸の奥で、彼の存在がどんどん大きくなっていく。

これが、恋なんやろか。

彼の笑顔を見るたびに、

胸が締め付けられるような、甘い痛みを感じる。


そんな風に、輝先輩との学校での日常が、

以前にも増して多くなり、

二人の関係はより親密になっていく。

(和歌のモノローグ)

彼が近くにいると、空気が変わる気がする。

まるで、私だけの世界に、

彼が光を差し込んでくれたみたいに。

彼の優しい声、温かい視線に触れるたびに、

胸の奥が締め付けられるような感覚を覚える。

こんなにも、誰かの存在が、

私の世界を輝かせるなんて。

彼のことが、どんどん好きになっていく。

もう、この気持ちを隠すことなんて、できへん。


放課後、ブレイズの練習スタジオに向かっていた。

今日は、私が作詞した新しい曲のレコーディングや。

リズム堂のドアを開けると、

ブレイズのメンバーが、すでに集まっていた。

怜姉ちゃんは、ドラムのセッティングを確認している。


「お、わかPさん、いらっしゃーい!」

瀬戸さんが、満面の笑みで迎えてくれる。

「和歌ちゃん、今回も良い歌詞、書いてくれたな!

まじで鳥肌モンだよ!」

篠田さんも、興奮気味に言った。

ボーカルの人が、譜面を片手に近づいてきた。

「和歌、この曲のタイトルさ、『二人のハーモニー』にしようと思うんだ」

「えっ……」

思わず、目を見開いた。

私が作詞した曲に、ブレイズが曲をつけて、

さらにタイトルまでつけてくれるなんて。

胸が熱くなる。


「歌詞の世界観にぴったりだと思ってさ。

『深い森の奥 響く足音

迷い込んだ影 出口を探す』から始まって、

『微かな光 信じてるから』って、

まさに、俺たちのバンドの曲って感じだ!」

ボーカルの人が、熱く語ってくれる。

「『闇に響く この歌が 心の奥底 揺らすエコー』

ってところも、ブレイズらしいだろ?」

怜姉ちゃんが、ドラムスティックを軽く叩きながら、

珍しく口を開いた。

その言葉に、私はただ頷くことしかできなかった。

私の言葉が、彼らの音楽になって、

彼らの魂が込められる。

それが、本当に嬉しかった。


レコーディングが始まった。

私は、ブースに入り、マイクの前に立つ。

ヘッドホンから流れてくるブレイズの演奏。

怜姉ちゃんの力強いドラムが、

私の心を震わせる。

『Echoes in the Dark』。

私の作詞した曲に、彼らの音が重なる。

そのハーモニーが、私の心に深く響いた。


そんな中、怜姉ちゃんが私に声をかけてきた。

レコーディングが終わって、

機材の片付けをしていると、

怜姉ちゃんが、私にUSBメモリを差し出してきた。

「これ、例の曲の伴奏、できたから」

「え……例の曲って……?」

ドキッとして、 USBメモリを受け取る。

指が少し震えて、握りしめた手にじんわり汗が滲む。

それは、私が怜姉ちゃんに渡した、

告白ソングの「イメージ」から、

ブレイズが曲をつけてくれたものだった。

まさか、もう完成しているなんて。

手の中のUSBメモリが、熱い塊のように感じられた。


「どうするん? もう公開するんか?」

怜姉ちゃんが、私の顔をじっと見つめる。

その目に、わずかな探るような色が浮かんでいた。

公開。

まだ、その覚悟はできてへん。

でも、この曲は、

輝先輩への、私だけの告白ソング。

いつか、彼に聴かせたい。

そんな気持ちが、

胸の奥で、静かに、しかし強く、渦巻いていた。


和歌の心の中で、音楽と恋が密接に結びついていく。

家に帰って、すぐにパソコンにUSBメモリを差し込む。

ヘッドホンをつけて、曲を再生する。

もしこれを再生したら、

私の恋心がもっと大きくなってしまう気がして、

一瞬だけ指が止まった。

だけど、抗えなかった。

流れてきたのは、優しくて、切なくて,

でも、確かな希望を感じさせるメロディやった。

私が書いた歌詞に、

ブレイズの音が、見事に重なり合っている。

「月の灯りが 照らす島で

私はずっと あなたを探してた」

私の想いが、音になって、

私の中に響き渡る。

輝先輩への、募る想い。

この歌が、いつか彼に届いたら。

彼に、私の気持ちが伝わったら。

そう思うと、胸が締め付けられるように、

甘く、そして苦しい。


輝先輩との日常の中で、

彼の優しさや言葉に触れるたびに、

彼への気持ちは、どんどん募っていく。

そして、この告白ソングが、

私の恋心を、さらに深くしていく。

音楽と恋。

この二つが、私の世界で、

今、最も大切なものになっていた。


夜空を見上げると、月が煌々と輝いていた。

月の光のように、私の想いも、

いつか、輝先輩に届くんやろか。

そして、この歌が、

彼の心に、静かに、そして確かに、

響くことを願う。

私の秘めたるメロディ。

それは、私だけの、

大切な告白やった。

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