ホラーに必要なのはフィクション性か、それともリアリティが命か

 セミフィクション。本作の特徴は、その「絶妙なライン」を描いている点にあります。

 物語、特にホラーの創作の上で頭を悩ますのは、「どこまで本物っぽく描くか」ということにもなるでしょう。

 90年代の頃のホラーだと、「パラサイト・イヴ」とか「リング」などに代表されるように「アイデアの独特さ」でひたすら読者を楽しませるという、「リアリティ? 何それ?」のような思い切りの良さが好まれていました。

 でも近年はモキュメンタリーとか実話怪談とか、「本当にあった話ですよ? 信じて!」みたいな方向で。リアリティを重視する向きが好まれるようにもなりました。

 果たして、ホラーを面白くするのに必要なのは、フィクションとしての思い切りか。それとも、リアリティとしての「本当にありそうな感」か。 

 本作ではそんな「リアリティ」のラインに切り込んでいるのが特徴です。

 「セミフィクション」というラインで、フィクションとも取れるし、実話怪談とも取れる。そういう「実話なのだから、このくらいの感じがリアリティとして強い」というのを強調した感じ。
 
 妙なものが見える山。心霊体験ができる山。
 そこでの体験を綴られた原稿が、新人賞の下読みのもとに送られてくるという形式となっていました。

 果たして、本作で書かれている現象は、「フィクション」なのか、「ノンフィクション」なのか。
 作者から後に、「あ、これ本当にあった話ですよ!」と言われたら、「そうなのかな」と思わされるリアリティ。そう感じさせてくれることが、なんといっても印象的でした。

 セミフィクションという、ホラーではあまり耳にしてこなかったラインの作品。その感覚というものを是非とも味わってみてください。