魔女の家とただの婆さん
夜中でも賑わっている繁華街を抜けて、俺達は王城へと向かった。
「大きいですね。流石は古代に建てられて今まで生き延びてきた城だ」
「懐かしいな。俺も初めて王城を見た時はそんな反応したもんだよ」
「そして、今の奥さんと出会った…と」
いやあ、ロマンがあるなあ…。
「どこから聞いたんだよその情報…お前もここで良い相手が見つかるかもな」
「俺はそんなことどうでも良いですけどね?…で、どうしますか?王城の中は学校ですから今の時間帯に侵入すると不法侵入になりますよ」
俺の我が儘でここまで来たけど朝に来たほうが良かったかな?
「王城にはな、夜でこそ映える観光スポットがあるんだよ。そこに行くぞ」
「…ああ、夜景映えの良い場所でしたっけ。そりゃ告白スポットとも言われますよね」
「お、おう。そうだな…」
ベストさん…もしかしなくても告白したでしょ。…にしてもここの階段長いな。相当高い位置から街を観るのか。
「やっと着きましたか…ですが、疲労に見合う景色してますね。この場所のは」
「そうだろ。ほら、あそこにもプロポーズしてるカップルが居るぞ」
「……宿に戻りますか」
なんかとても虚しくなった。相手の女子も居ないのにこんなスポットに来た自分が。そして一緒に見ている相手が妻子の居る男性だということが…。
「そうだな。景色は良いが男同士だし、流石に夜の安全な場所は王城以外だと少ないし帰ろうか」
「…はい」
翌日
今日は玉蹴り用の玉を買って帰る日だ。ただ、その前に…。
「…なあ、昨夜の記憶が無いんだが、なにかあったっけ?」
「ああ…さあ?俺にはちょっとわかりませんね」
嘘だ。俺は昨夜、能力を使用した。
「そうか…具体的には歓楽街でお前と会った後からの記憶が無いんだが、本当になにも知らない?」
「俺はその後、そのまま宿に戻って寝たと記憶していますけど。違いましたっけ?」
「いや、その記憶が無いんだって…まあいいや。この旅行の目的である玉を買いに行くぞ」
さっき起きて、今は11時台。これは明らかな夜更かしの証拠だ。バレたら少し詰められそうだな…。
「…行きましょうか。予算内で一番良い玉を買いに!」
「そんな目標があったのか…知らなかった」
「大丈夫ですよ。俺も今初めて言ったので」
「そうか…まあ良い玉がある店ならあそこだろう」
そう言うと、ベストさんは市場の逆方向へ歩き出した。
「市場はあっちですよね…こっちはスラム街ですか?危なくないですか?」
「言うなら元スラムだ。今の王様になってから全員に職を与えたからな、スラムで住む人間でも人を襲うほど弱っちゃいねえよ」
「…へえ」
数分スラム街を歩いた場所には古い外装、ボロい玄関。スラムの中でも浮いた木材の家がそこにはあった。
「ここだ。別名、魔女の家」
「魔女ですか…」
「あ、魔女の家って言われてるだけで、魔女でもなんでもないただの婆ちゃんだからな」
ベストさんは玄関を開け、中に入っていく。
…なんなんだよ。身構えた俺の警戒心を返してくれ…。
「内装は普通っすね」
「失礼だね。君」
「あ……こ、こんにちは?」
店の人に挨拶するのなんか違う気がする。あ、ベストさんに笑われとる。
「…まあ見ていきな。ここにはオモチャしか無いけどねぇ」
「ああ、婆ちゃん。玉蹴り用の良い玉とか無いか?」
「そこに4……30銅貨の玉があるよ。それがこの店で一番の玉さ」
今、あの婆さん。こっちの持ってる金額わかっててギリギリ払える値段に設定したな?これは魔女ですわ。
「じゃ、それ買います」
「ほう…銅貨30枚だよ」
「はい。これで」
俺は母さんから貰ったお小遣い30銅貨ピッタリを払う。
「ひーふーみー………ピッタリだね。良いよ。これはもう君のだ」
「商品を投げて渡すんじゃないよ婆さん…落として壊したらどうすんだ」
「その時はもうこっちの物じゃないから、そちらの自己責任だね」
「おいおい…」
おいおい。…にしても、まさかオモチャ屋とは思わなかったな。良い玉がある雑貨店なら魔道書とかもあると思ったんだが…。
「…さて、ベストさん帰りましょうか」
「ん、そうだな。じゃあな婆さん。また来るよ」
俺達が玄関を出た瞬間、背後から婆さんの声が聞こえた。
「この店はいつでも君たちを待ってるよ………はあ、この常套句もいつか変えようかね…」
「……俺、馬車の代金払えないんで、頼みますよ?」
「ま、それくらいはな。ただし、歓楽街行ったことは妻には黙っててくれよ?」
「ウッス」
そうして、俺達は1泊2日の王都旅行を終えた。尚3日かけて村に帰った後、アルに置いて行ったことを詰められたので、その晩は熟睡でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます