ある時からの変化
娯楽の少ない村で遊ぶ俺達。現在は審判ミルクの下、2対2の玉蹴りを行っている。俺とアル対トランプとフランのチームだ。ここで、絶好のシュートタイミングを逃した俺達のチームの会話を聴いていこう。
「今の、ボレーならそのままシュート狙えてたでしょ…」
「遊びにそこまでガチらせないでくれ。そもそも、久しぶりの玉蹴りなんだ。感覚がまだ戻ってきて無いんだよ」
にしても、なんでアルはパスが上手いんだよ。欲しい所にビタで玉が飛んでくるぞ…。
「久しぶりと言っても時期的には1ヶ月玉に触ってなかっただけ。身体が覚えてるはず。だから何度でもさっきの場所にパスを出す」
「無理言うな。(俺の)時間感覚的には3ヶ月も触ってないんだよ!」
そしてシュートを撃たせなかったトランプ達のチーム(+ミルク)の会話はこんな感じだ。
「いやぁ、危なかったな。さっきの」
「そうですね。ケイ君の調子が普段より悪そうなのがこちらに良く働いた気がします」
「そうだな。いつものケイならシュートしてきていた所だったよな」
「…ねえ。えっと、なんか変…じゃないですか?」
「ミルクちゃん?どうかしたのですか?」
「その、ケイさんとアルちゃんってあそこまで息が合ってたかなって…ほら、今も向こうでなにか言い合ってますし…」
「今年のケイの誕生日くらいからだよな、ケイとアルが一緒に居る所を多く見るようになったのは」
「でもまあ私達って14年も一緒だったのですから、そう言うもの…なのではないのですか?」
「そう…かなぁ。ケイさんがあの距離感を許すってのは中々珍しいことな気がするけど…」
実際、アルが勝手に家の中に入ったりするのをケイが許しているのは、ケイとアルしか知らない事実が存在しているからである。
「あ、ケイ君が手招きしてますね」
「ほんとだ。なんだろうな…俺が聞いてくるよ。フランとミルクはここで待っててくれ」
トランプはケイチームに向かって走り出す。
「す、すみません。私のせいで…」
「あまり気にしなくても大丈夫だとは思いますが…まあ家庭の方針に関しては、子供である私達がとやかく言えることは少ないんですよね」
フランが少し困ったように言う。実のところ、ミルクの両親はケイのことを危険人物扱いしており、ミルクが関わることを出来るだけ避けさせてきた。
仮にケイとミルクが話している場面をミルクの両親が見つけた場合、ミルクを家に連れて帰るという行動を取るため、良く言えば心配性な親心。悪く言えば面倒くさいし、子供のミルクからすると少し恥ずかしい行動を取られる。
…とまあそんなことを避けるためにミルクと、ミルクを1人にしていじめているみたいな構図にならないように、フランもその場に待機させてトランプだけ動く。
「おーい。なんかあったか?」
トランプが手を振りながらこちらに向かって来る。
「…そうだな。なにかあったと言うか、めんどくさいことになりそうだったから呼んだ」
「面倒くさいこと?一体なんだよそれは?」
わざと壊した訳ではないことは先に言っておくが、玉蹴りの玉が空気漏れしていたんだ。
「この玉が壊れそうなんだ。いいか?わかってるとは思うが、この村に1つしかないこれが壊れると、玉蹴りが結構な期間出来なくなる」
「おいおい…今はどんな状態なんだ?」
「玉から空気の抜ける音がしてる。数日後には完全に萎むだろうな。…だから王都に買いに行って来る」
「王都って…ケイがか!?大丈夫なのかよ…馬車で3日ぐらいかかるはずだよな。それに金もかかるし、なにより…」
トランプを少し言い淀みながらも意を決したように言った。
「…アルはついて行けないんじゃないかな」
「………え?いやいやいや。ついて行くよ?お母さん優しいし、お父さんは私に嫌われたくないから私の行動を止めれないはず」
トランプに賛同だわ。アルって急に1人で行動しだすし迷子常習犯だし親が止めると思うんだよな。それに年齢的にはまだ成人していないし…俺の親は放任主義だし大丈夫でしょ。
「まあアルはついて来なくても良いんだが、『え?』…誰か王都を案内できる大人とか知らないか?」
「はい。私」
「はい。却下。次」
アルはまだ王都の半分も知らないだろ。入学式前日の午後だけで王都の全てを歩いて見られると思うなよ…。
「それならフランのお父さんとかどうだ?あの人良く王都に遊びに行ってるし、多分この村じゃ一番王都のことを知ってると思うぞ」
「あの人か…頼んでみよう。トランプ。手伝ってくれよ?」
「俺達にとってはとても大事なことだからな。手伝うよ」
フランの父親ってトランプとフランが結ばれるように裏でよく画策している人だから、トランプが頼むことを手伝ってくれれば100パーセント要求が通るだろうな。
「よし。それなら早速行動だ。俺は親に外泊と旅行の許可を。トランプはフランとミルクに今日の玉蹴りの中止と理由を。アルはトランプと一緒に行動して最終的にミルクの家に転がり込んで遊んでおけ」
「わかった。じゃあ後でフランの家に集合だ」
「…私だけ雑じゃない?」
「気にするな。それじゃあな」
その後、俺は一緒に行く大人が居ること前提で外泊旅行の許可を取り、トランプは俺には無い信頼でフランとミルクに事情の説明を成功させ、アルは特になにもせずミルクと一緒に遊ぶところまで成功した。
そして現在、フランの父親と交渉(こちらのメリット)に交渉(そちらのメリット)を重ね……
「…良いだろう。王都旅行についていってやる」
「一応旅行じゃなくて、新しい玉を買いに行くって名目なんでそこは気を付けてくださいね?」
「わかったわかった」
俺達は勝って当たり前の勝負に勝った。
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