この物語の中心は俺じゃない
最悪だ。ループが起きた。それも入学式の前日。俺とアルはもう既に馬車に乗って、王都の中に入った後だったと言うのに。
「…アル起きろ。ってかなんで俺の部屋にいるんだお前」
しかも同じベッドの上。
「………」チラッ
おい、今一瞬目を開けただろ。
「…怒ってないからちゃんと説明をしてくれ」
「ループが起きた時、あなたは寝ていた。私はループ直前から直後にかけて起きていたからあなたより先に行動できた。だからここにいる」
いや、説明に入っていないところで家の鍵を突破しないでくれ。ってか寝っ転がったまま説明するな。
「…それで?」
「……?」
「……?じゃないんだよ。なんで俺の部屋に入ってきているんだ」
「情報整理のため。ループが起きてから直ぐにやらないと、記憶の欠損が増えるから」
なら寝るなよ。
「なるほど。まあそれが理由なら許してやろう」
「…やっぱり怒ってた」
気のせいだ。それに、怒られると思ったのなら事前に連絡をしてから行動に起こしてくれ。
「…情報を整理するんだろ?アルはなんの情報を得たんだ?」
そもそも俺はなんの情報も得ていないがな。
「じゃあ1つ目。ループ直前、私は外を歩いていた。けれど、近くで叫び声が聞こえた後、少ししてからループが始まった」
成人したばっかの女が夜の外を歩くとか…危ない奴だな。いや、精神的にはもう十分大人だったか…。
「その叫び声を出した奴の正体が、ループを起こしている奴ってことか?」
「どうだろ?その現実を変えようとした人がいるとか、近くから叫び声を出した人のことを見ていた人がループを起こしたのかも」
「ん?叫び声って夜に大きな虫を見たとかじゃないのか?」
その現実を変えたいって相当なことだろ。
「じゃあ得た情報2つ目。叫び声を出したのは女の子。多分私達と同じ位の年齢」
「なんでその場面を知ってるんだ」
俺の問いに対し、アルは先ほどの言葉から続けるように答えた。
「そしてその近くに人が2人。手に剣?っぽい刃物を持った人と、倒れ伏してる女の子を守ってる男の子。その場面を私はループ直前に見た」
主人公に対して4度目の試練的な奴かな?多分今までも殺されたり、大事な人になにかされたりしてきたんだろうなぁ…。
「…確か、王都じゃそういう事件も多いんだったっけ?ってかアル。お前さあ…その現場に向かうとか危険だろ」
「でもこうして生きてる。私、運良いから」
嗜めたは良いが、反省の色は見えない。
「……今後、1人ではそういう所に行かないでくれよ。せめて俺がいる時にしろ」
「心配し過ぎ…。まあそれでね?私が見た、男の子の事なんだけど…オーラを纏ってた」
「ま、そんなことだろうとは思ったよ」
オーラとは、この世界で生まれた人が大体100万人いたら1人は纏ってる感じのもの。全体的な身体能力が向上する、いかにも主人公が持っていそうなものだ。ちなみに、俺やアルは持ってない。
「ちなみに、女の子と剣?を持ってた男もオーラを纏ってた」
「はい。解散。俺達にはどうしようもないだろ。俺は念動力、アルは鑑定なんだからな」
オーラとかはもちろん普通の人には見えない。アルは神から鑑定の能力が授けられたため見えているだけだ。
俺の念動力?死にかけの時しかまともに物を動かせないクソザコ能力ですよ。…まあ、死にかけの判定がお腹減ってる時にも反応するのは良い所ではあるが。
「オーラ持ちが3人も集まってるのを見るのは初めてだった。でもその男の子、無能力者だったの…珍しいよね」
「やっぱ能力を授からない奴もいるよな。神父の爺さんは全員が授かると言ってたが…まあ主人公には壁がないと」
ちなみに主人公主人公アルの前で言ってるが、アルも本の中に出てくる主人公的な奴だと認識している。だが、俺が言っているだけでこの世界にそういう存在がいるとは思っていないらしい。
「女の子は魔法使い、推定犯人の男は武士?だった。武士ってなんだろうね?」
オーケーオーケー…剣っぽいものは刀か。じゃあ極東から来た奴だろう。それか転生者。
「その女の子はきっと、俺達が入学しようとしている学校の新入生か、生徒か、OBだろうな」
魔法が使えてオーラを纏ってるとか、あの学校が逃がさない訳がない。
「それは私も考えた。ただ、男の子は通すのかな?オーラを纏ってるにしても能力は無いし…」
「………」
「………」
…通るんやろなぁ…校長の推薦とかあるかもしれん。もしかしたら主人公の師匠が校長と仲良し…とかもあるんじゃないか?師匠的存在がいるかは知らんが。
「そうだ、俺達も師匠を探せば強くなれるんじゃないか?」
「戦いたいの?私は争いとか面倒だからパスで」
まあアルは戦闘職じゃないから仕方ない。俺も戦闘職ではないんだが…。
「師匠ねぇ…誰か良さそうな人っていたか?俺、この村から出る機会が中々ないからあまり知り合いとかいないんだが」
「神父様は?」
「恐い。却下」
あの人信仰深過ぎるから恐いんだよなぁ。無能力者の話とかしたら殺されそう。
「私の叔父さんは?」
「誰だそれ。俺は知らない人と話せない。却下」
話せないことはないが、アルになにかあった時に俺を叱る人を増やしたくない。
「…本当に強くなりたいの?」
「強くなりたいとは思っているが、推測でしか話をしていないのに、意味があるかもわからない行動をするやる気が起きなかった」
「あなたってやっぱり面倒くさい人だよね」
うるさい。
「まああれだ。強くなるかは置いといて、俺は今後その推定主人公の男の子にループをさせないよう行動しようと思う。アルはどうする?」
「私も手伝うよ?当たり前でしょ。ループして困っているんだから」
言ってたなあ…そんなこと。すっかり忘れてたわ。…そういえば一体なにに困ってるんだろうか。
「…明日はまたトランプ達と遊ぶ日だろ?毎回同じ遊びだが、王都に行く前は遊ぶ機会が減ってたから久しぶりだな」
「時間的には今日だけどね。じゃ、お休み」
アルがそう言うと、身体を丸めて布団に潜った
。確かに、もう寝る時間だしな…俺も寝よう。
「…おう、ここで寝るなや。せめて違う場所で寝てくれ」
「確かに、2人で寝るには狭いね」
「違う。そうじゃない。…はあ、そこに椅子があるだろ。その上で身体丸めて寝てろ」
アルは身体小さいんだし大丈夫だろ。
「…私、女の子。雑に扱われる存在じゃない」
「自称女の子なら、男子と一緒に寝ることの方が駄目と言うことに気付こうか」
その後、なんやかんやあり、疲れて早く眠りたい俺が折れる形で同じベッドで寝ることになった。
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