有料DLCジョブ死霊術士で異世界も現実も蹂躙せよ-ゲーム世界でマフィアをやって、日本で金をもらえる素晴らしい生活-
轟イネ
第一章 クソみてえなチュートリアル
第1話 リタイアとキャラメイキング
▽第一話 リタイアとキャラメイキング
閑散としたオフィス内。
今日も今日とて甲高い中年の声が轟いていた。俺はその耳障りな声をぼうっと突っ立ったままで聞き流していた。
「聞いているか、おいゴミ。大体な、お前みたいな中卒のゴミを――」
「――今日で辞めます」
「……は?」
「あんたの口がクソ臭えのが精神的に辛いんで辞めますって言ってんだ」
ぶん殴られた。
上手い具合にガードしちまって掠り傷もねえ。まあ、わざわざ病院に行って診断書をもらって、弁護士んとこ行って――みたいな手間が省けて幸いだ。
やり返したりはしない。暴力は犯罪だからな。
報復はもう済ませてある。
上手く行けば、こいつはもう会社に居られねえはずだ。
これ以上を望めば、こいつは無敵の人になって襲ってくるかもしれない。時間は有限な上、わざわざ後先のない敵を作るメリットはないからな。
訴えろだの、労基だの……資金以外の支出が大きすぎる。やれる奴はやれば良いと思うが、少なくとも俺には不必要な事象だ。
こいつにはもうトコトン興味がねえ。
颯爽とゴミに背中を向ける。
引き継ぎの必要もない。そういう業務連絡をこいつからもらっている(馬鹿の言動を誘導するなんて簡単だ)からな。
同僚どもには悪いが――なんて嘘だ。あいつらも敵だから。
「じゃあな」
ひらひら、と後ろへ向けて手を振る。
俺はこうして長年勤めた――なんて言っても、16から23までの間だが――会社を辞めて無職となった。
金はない。
元妻――貧乏暮らしはウンザリだ、と経済的な理由で離婚された――のために貯金なんて概念を持つことは許されなかった。
あいつの妹が病気ってんで、それを治すために頑張ってたんだがな……まあ、妹自体は見事に回復してくれたので、投資し損ってわけじゃないのが救いか。
元嫁は気に入らねえが、べつにその妹に罪はねえからな。
あいつが居ない今、俺は必死にゴミの下で働く必要がない。
「自由だな……!」
最高の気分だった。
職、人間関係……そういったクソみてえな鎖から解き放たれた。筆舌に尽くしがたい開放感だ。会社を出る。出所したような晴れやかな気分だな。
曇天。
まるで俺が空からさえも爽快さを奪ったかのような支配感。俺の人生って奴は、今後、すべて俺だけが支配できるのだ。
全部、俺のものだ。
「よーし、コンビニ寄ってご飯買って、今日は24時間ネトゲの時間じゃ、おら!」
最高の日々の始まりである。
▽
そのような最高も三ヶ月と続かない。
まず資金の問題だ。俺はとある事情から、投資してきた金もすべて失っている。後悔はねえが、貯金なんてもんもほとんどねえ。
そして何よりも、だ。
「終わる……だと?」
いよいよ、俺が15の頃からプレイしてきたネトゲがサービス終了となった。【スティグマ・ダウト】と呼ばれるネットゲームである。
俺の青春をすべて捧げてきたゲーム。
だが、終わることには納得があった。このゲームはもうすでに役目を終えているのだから……
「……コフィン・ギア。お前の所為だぞ」
俺の手元にはヘッドホン型の装置が握られていた。
この装置の名前を【コフィン・ギア】と言って、早い話がオーパーツとかいうモノらしい。三年前、突如としてこの【コフィン・ギア】が発掘され、世界は一変した。
この【コフィン・ギア】を装着すれば、人類は異世界へ行ける。
その異世界で「特殊な道具」を手にして現実に持ち帰る。
魔石や魔道具の概念は、世界のエネルギー問題や常識を覆したのだ。
この異世界。
なんとそれを再現していたのがオンラインMMOの【スティグマ・ダウト】だった。また別のオーパーツを使い、【コフィン・ギア】が配布できるまで異世界をシミュレーションさせていたのだとか。
今回、その世界再現のオーパーツの維持コストが尽きた。
単純にプレイヤーが減ったのも一因かね。
わざわざ金にもならねえネトゲ版をやるよりも、【コフィン・ギア】で直接、異世界へ飛んだほうが何倍も得だからな。
ボスなどをシミュレートできるメリットはデカかった。
だが、まあ……もうゲーム版はほとんどクリアされている。情報の大半は取り尽くされている。やり残しといえば裏ボスが未討伐なくらい。
あとやっぱり維持コストの問題が解消できぬ。
普通のサーバーでどうこう、ではなく、何か貴重な異世界アイテムが要求されていたらしいからな。
サービス終了の一ヶ月前ほどで、急遽、有料DLCジョブなども追加されたが……検証班が一ヶ月で色々と頑張っていたな。
wikiはより充実した。
「……俺もやるか。リアル版」
リスクはある。
痛みがある上、ネトゲほどにリアル版は……優しくない。ゲームとして楽しめる箇所に、リアルが介在することにより面白みが消える。
だが、ちょうど貯金も尽きかけていたのだ。
俺はヘッドホン型のオーパーツを装着した。
▽
キャラクター制作画面にやって来た。
とはいえ、このゲームで重要なのは種族設定、それからジョブ適正くらいなもので、ソレ以外に設定する項目はない。
理由は単純なことだ。
俺たちが操作するキャラクターの正体は、向こうの世界で死んだ人間だからだ。その能力のみならず、肉体までそのままお借りするってわけだ。
ちなみに、死因は取り除かれ、腐敗なども処理される。
銃弾で風穴だらけにされて死んでも、使う時は綺麗な肉体になるようだ。
「希望種族【ヒューマン】、希望ジョブは【剣聖】」
『現在、ジョブ【剣聖】に空きはございません』
「……希望種族【ヒューマン】、希望ジョブは【勇者】」
『現在、ジョブ【勇者】に空きはございません』
良い死体はないらしい。
すでに他のプレイヤーが使っているとみるべきだろう。俺は順に強力とされているジョブを挙げていく。
ぜんぶダメだ。
唯一、【獣人】の【狂戦士】は選べた。
だが、俺はあまり【獣人】のステータスが好きじゃないんだよな。
物理的に優れているんだが、MPが少ない所為で立ち回りが難しい。
いくつか有料DLCジョブを試したところ、ようやく見つかったのは、
「希望種族【ヒューマン】、希望ジョブは【
『適合した肉体がひとつございます』
「……ま、良いか。それで頼む」
ちょうど良い。
ラスト一ヶ月で実装された有料DLCジョブの内、【死霊術士】は俺が遊んでいたジョブでもあったからな。
強力なジョブである。
が、一方でMMOというジャンルとの相性が最悪のジョブでもあった。強力な有料DLCジョブの中、余りがあるというのも頷ける。
俺が使う肉体がホログラムのように表示される。
まだまだ小さな子どもの肉体だ。見目は驚くほどに愛らしく、ともすれば幼女にも見られるようなほどだった。
趣味じゃねえが仕方ねえ。
俺が頷けば、システムボイスのような声が続けた。
『このゲームの目的は三つです。三種の支配神器――【神薬・モルペウス】【神酒・バッカス】【神銃・ゼウス】をそちらの世界へ持ち帰ることがクリア条件です』
「まだどれも見つかってないんだっけか」
『なお、ゲームクリア後には大いなる特典が世界自体へ、そしてそれをもたらしたプレイヤーへ付与されます。クリア後も遊ぶことは可能ですので、遠慮なくクリアを目指してください』
「おーけー、解説ありがとう」
俺はゆっくりと目を閉じる。
「じゃ、遊ぼうか」
少しだけ期待する。
ネトゲの時はキーボードとマウスをカチカチするだけだった。ゲームとは苦しい現実と戦うための杖だった。
それが今度は自らの肉体で遊ぶことができるし、その上で上手くやれば金まで手に入る。
――俺の人生の始まりだ。
そして目を開いた俺が見たのは、鎖に繋がれた手足。今にも死にそうなガキどもが、死んだような顔で馬車に揺られる姿。
「……奴隷スタートかよ」
波瀾万丈なこった。
――――――
作者よりお知らせです。
本日は4話連続更新です。18時4分までには四話まで閲覧できます。
お楽しみください。
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