魔法少女は冷血になる??

 魔法少女クラウン、安藤苗に対する無害認定。


 なぜ魔法少女である彼女が無害な商品とされたのか。


 まず一つは、彼女が魔法少女になったばかりであり、『飛行』や『変身』と言った基本魔法を使いこなせない点。


 更に、彼女は少し精神的に不安定な部分はあれど、武術などを嗜んでいない普通の少女であったこと。


 そして最後に、二つの固有魔法がどちらも無力であったこと。

 だが、その無害認定は果たして正しかったのか。


 彼女の固有魔法のうち一つの名は…………


「『変身』」

 ステッキに同じく渡された自身の魔法カードをかざし、安藤苗は魔法少女クラウンへと変身する。


 そして返信したクラウンは、倒れるダムドからゆっくりと、その手に握られていた『斬撃スラッシュ』の魔法カードを抜き取った。


「『転写コピー』」


 魔法番号77番 転写コピー

 魔法カードに触れることで一定時間の間、そのカードの魔法を扱うことができる。


 その瞬間、クラウンは『斬撃』の使い方とその性質を理解し、自身にもその魔法が使えると確信した。


 そしてダムドのように、自身のステッキを空に向けて構える。

 その場で、一呼吸した後でクラウンはもう一度、今度は別の魔法を起動させた。


「『斬撃スラッシュ』」


 クラウンのステッキに、目には見えない透明な刃が作り出される。

 ダムドの様なチェンソー型ではなく、ただのステッキであった杖が一瞬で高い切れ味と驚くほどの軽さを併せ持つ魔剣へと変化する。


 しかしこの魔剣の本質は何よりも、斬撃の飛翔。今のクラウンがその本質を解放するだけで、このビルを二つに両断できるだろう。

 だからこそ、その斬撃は空に向かってのみ放つことを許される。


 クラウンは魔剣の照準を戦闘を続ける屋上へと合わせる。

 天井に開いた大穴からは、屋上の様子はほぼわからない。

 チラリとパラメデスが獣の姿に変化したのをみたのみである。


 その状態で、適切に狙いをつける方法が果たしてあるのか。


 クラウンは静かに耳を澄ませる。天井を通じて戦闘音が響き渡る。


 その音のする方へ、斬撃を打ち込めばいいのだ。多少のズレは気にしなくても『斬撃』の攻撃範囲なら問題ははない。


 問題はないのだ。たとえ今戦っている者達が諸共に両断されようとも。

 それで敵を殺せるのなら何も問題がない、とも言える。


 天井を見つめるクラウンの目は、虚のように暗い。その目は狩人の様に冷たく、機械的な無機質さを持っていた。


 そしてクラウンは魔法の発動を――――


「ムリ!!!」


 無理だった。


「出来るわけないよ! 人に向かって斬撃放つなんて!」


 クラウンは知ってる。他ならぬダムドから直接、『斬撃』の、否、『最初の十枚オリジンナンバー』特有の性質を聞いている。

 即ち、使い手の適性や性格に応じた効果や規模の変化。

 その時は、「オーダーメイドの魔法とか最高じゃね?」ぐらいにしか思ってなかったが、自身も魔法少女となり『転写コピー』の魔法を得た時にふと思ったのだ。


『私もオーダーメイド魔法、使えるんじゃない?』


 そして緊急時ではあるが、その発想を試し、なんとか非殺傷性で、なんとか周りを巻き込まない攻撃範囲で、なんとか特定の相手にだけ命中して、なんやかんや世界平和。そんな『斬撃』魔法が作れないのか確かめていたのだった。


 途中カッコつけたり精神を研ぎ澄ませてみたりしたが変化なし。

 とか言いつつなんやかんやオーダーメイドになってるんでしょ? と考えて斬撃を放つ直前まで行ったが、自分の魔法で真っ二つになるゴッズの姿を幻視したのでやめた。


 どうやら『転写』の魔法は『最初の十枚オリジンナンバー』の魔法をコピーしても、すでに変化し終わった状態でしかコピーできないらしい。


 露骨にガッカリした。だがガッカリしている場合ではない。


「このままじゃ、たーちゃんがあぶない」


 自身の怪我に対して、ダムドは無理して大丈夫と言っていたが、クラウンはそれが嘘だと直感していた。


「我が友のため、魔法少女クラウンとしての初仕事を、果たさずしてどうする!」


 一応、キャラを作ってから再度考える。

 殺しはできない、これはクラウンの大前提。

 考えた末に思い出した。このビルは相当高い。

 下から見た限り、このビルより高い建物は周囲になかった。

 ならば――――


 □ □ □


 だるいっすわ。


 完全な狼となったパラメデスさんがだるいです。


 途中参戦の魔法少女さん、

 名前がわかりませんね。後で聞けたらいいなと思う一方、私への敵意的なモノを彼女から感じます。

 共闘する時も『今は見逃してやる』って言ってましたし。

 とにかく、彼女との連携もうまく取れません。


 ぶっちゃけ私のせいです。

 彼女は豪快な言動に反して技巧派のようでちゃんと合わせてくれます。

 けど私の方が彼女の邪魔になっています。

 連携慣れしていないのが丸わかりですね。何より鎧が邪魔でちょこまか動くパラメデスさんを追いきれません。炎の噴出だと勢いが強すぎて細かい制御には向きませんし、とことん鬱陶しいです。


 じゃあ離れてればいいかと離れようとしてもパラメデスさんはピタリとっついて離れません。


 はぁ


 超越魔法少女シリーズなら、覚醒した私が派手な二連撃叩き込んだ時点でパラメデスさんは倒れて、エンディングが流れてるところです。


 ほんと、


『おい』


 ガノンさんがこっそり話しかけてきます。


 ちょっ、今忙しいんですけど!


『お前、調子に乗ってんじゃないか?』


 …………あ。


 その瞬間、最初に魔法少女になった時のガノンさんの言葉を思い出しました。


『魔法少女にありがちなだがな、お前らは大人を舐めすぎる。』


 私も、今病気になっていたんでしょうか。大人ではありませんが、相手を舐めていた気がします。

 主人公にはならないと決めたはずなのに…………やっぱり主人公になりたがってしまったんでしょうか


 思わず体を硬直させたその直後、


「落とすよ!!!!」


 足元から、大きな声が響きました。



 □ □ □



「落とすよ!!!!」


 その最低限の言葉に、銀騎士、ゴッズ、パラメデスの三者は同時に反応し、その意味を解するのに一瞬の時間を要した。


 ただ、その意味を完璧に理解できたのは――


「おう!」


 親友ゴッズのみ


 銀騎士は『落とす』という言葉から空を見上げ、パラメデスは声のした階下に警戒を傾け、そしてゴッズは『飛行』の魔法を起動する。


「お、りゃぁぁあ!!!」


 クラウンの斬撃は、斜め上に放たれ、ビルの一部と雲を切り離しながら空へと溶けていった。


「スカイリッパーああぁぁぁ!!!」


 そしてそれだけでは終わらない。体の向きを変えつつ、さらに二つの斬撃を一息に飛ばす。


 あくまで斜め上に、地上にも、屋上の誰にも当たらないように。


 そして、この一撃がトドメだった。



 最初はダムドによる多数の切れ目

 次もまた、ダムドによる階下の柱や壁の破壊、そして開けられた大穴。


 更には豪快に着地した銀騎士の存在と、その銀騎士を仕留めるために、パラメデスによって撃たれた浸透順転拳の強烈な踏み込み。


 銀騎士の逆襲によってめり込むほどの衝撃で叩きつけられたパラメデスと、再びの浸透順転拳。


 そして、トドメの『斬撃』。


 限界だったのだ。屋上というフロア全体が。


 崩落。パラメデスは、四つの足で、自身の足場が崩れ落ちるのを感じた。


 しかし、パラメデスもまた歴戦の魔法少女。咄嗟に対応できずにそのまま落ちる銀騎士と違い、すぐに『飛行』の魔法でその場に止まった。


 だが、その判断はすでに遅い。とっくに『飛行』を発動していたゴッズにとって、あまりにも遅かった。


「捕まえた♡」


 両手で、狼の頭蓋を完全にホールドしている。


「ガァァ!!」


 咄嗟に牙を向いたパラメデスの顔に、拳が突き刺さる。


「ガッ!!?」

「まだまだいくぜ」


 狼の頭部を人間の拳が穿ち続ける。右手は頭をつかんだまま、左手でラッシュを叩き込む。


 やがて、完全に力をなくし、だらりと脱力した狼の頭を、トドメと言わんばかりに、すでに落下し終わった屋上の残骸に、狼の頭を鷲掴みにした右手ごと突っ込んだ。


 完全に気絶したパラメデスの魔法が解かれ、人間の姿に戻っていく。




 パラメデス対ゴッズ


 勝者――ゴッズ、クラウン



 □ □ □



 パラメデスは、時間稼ぎをしていた。

『飛行』で空に逃げるでもなく地上に逃げるでもなく、その場に残って時間稼ぎをしていた。


 つまり、時間を稼げば、パラメデスは逆転の一手を手にすることができたのだ。


 そして、その『逆転の一手』が、この瞬間、この戦場に到着する。


「こんにちは」


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