魔法少女は先を読む!!

 パラメデスは握りしめる。

 蟻を、生命を。


 それで握り拳の中の蟻は死んだ。


「一寸の虫にも五分の魂とは言いますが、死んだ今の貴方の魂はどのくらいの大きさなんですかね」


 そんな決めゼリフらしい言葉を吐いた直後に、パラメデスは気づいた。

 己の実に中学生らしいセリフの恥ずかしさに、では勿論ない。手の中の蟻の死体の違和感に、である。

 否、違和感など無い。

 ただの死骸、そしてそれが問題だった。


?」


 パラメデスが、思わずつぶやく。

 それよりも僅かに速く、炎城は走り出していた。


 その可能性に、パラメデスよりも速く気づいた炎城は、事項の元へと走っていた。


「まさか、コレは、……?」


 そして一瞬遅れてパラメデスも気づく、自分の大きな失態に。


 だが、パラメデスよりも炎城よりも速く、ソレは目標へと辿り着いていた。




「『斬撃スラッシュ』」



 安藤苗、クラウンの寝ていた地面が、長方形にカッティングされる。


「ほえ?」


 当然、寝ぼけたままでいたクラウンの体は、屋上の残骸と共に、重力に従って落ちる。

 その身体を、優しく階下から受け止める影があった。


「お待たせ、苗」


 魔法少女ダムド、保護目標、確保


 □ □ □


『生物系』


 魔法の中には一部においてそう呼ばれる種類の魔法がある。


 虫、獣、魚、鳥、果ては空想上の生物に至るまで。

 その特徴の一部を、あるいは全てをその身に下ろし、全く違う生物に肉体を変形させ、更にはその使い方すらも無意識に刷り込む。


 そしてその中で、虫系統の魔法のみが使うことを許された『特権』が存在する。


 それこそが『使役』と『召喚』である。


 魔法番号64番 アント

 蟻化する魔法

 また、蟻を召喚し使役も可能 



 それは『群体』であることを前提とした、小さく脆弱な物たちの生きる術を示している。


 □ □ □


 実のところ、ダムドがどこまで想定していたのかといえば、最後以外はほぼ全て、である。


 炎城との戦いの中で、ごく自然に、階下への道を作る。


 斬撃により生じた僅かな隙間は、虫にとっては十分な道であった。

 そして『斬撃』から『蟻』の魔法へと切り替え、同時に一匹だけ指先に蟻を召喚し、

 即座に自分も蟻へ変身し、地面の亀裂に潜り込み、コンクリートを噛み掘りながら、階下へと移動。


 そして再び『斬撃』の魔法に切り替え、障害物を切り刻みつつ、安藤苗の真下に移動し、救出した。


 そして―仕上げだ。


 ダムドの体力は残り少ない。人ひとりを抱えて逃げ切ることも出来ない。だから


 震える手で、チェンソーを構える。

 自身の頭上の風穴に向かって。


 炎城は必ず、この穴から下に降り、私たちを追跡しようとする。そのために穴の下を覗き込む、その瞬間を狙う。


 足音が、聞こえる。


 極限の集中による静寂により、その足音以外は聞こえない。一瞬遅れて炎城が上からその顔を覗かせた。


 ダムドのチェンソーが、淡く、光る。


「『斬撃スラッシュ 必殺』 スカイリッパー」


 ダムドは一度も『斬撃を放てない』などと言った覚えはない。ただ、制限があるだけだ。


 一つ。 自身、もしくは仲間の命がかかっている時

 一つ。 敵が


 そのから、ダムドは対空技としてしか、その魔法の真価を発揮できない。


 もし、ダムドが地上で水平に刃をふるえば、一つの町を、単体で更地にできるだろう。


 故に、スカイ斬りリッパー


 斬撃はビルの屋上を真っ二つにぶった斬り、その上空を浮いていた雲さえも両断し、大気圏の直前でようやく消える。


「コフっ」


 そして、ダムドの脇腹を銃弾が貫いた。

 ダムドは、最後以外は、全て読み切っていた。

 最後の仕上げをしくじった。


 それが、彼女の敗因である。

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