魔法少女は激怒する!!

「…………姉さん」

気絶したアベレージの妹、魔法少女『メジアン』は私の背中でそう呟いた。

途端に、私の身体が重くなるような錯覚を起こす。

銀騎士に助けられた私は、背後からの追手を警戒しつつも、なんとか下山していた。

ひとまずは安全を確認して、周りに誰もいない事を確認して、叫ぶ。


「タップ!」


その声はしばらく反響した後、私の目の前に、唐突にスタンダードなサイズのぬいぐるみが現れた。

シマリスをデフォルメした様な可愛らしい見た目のぬいぐるみ

私のマスコット、タップだ。


タップは私が両脇に抱える魔法少女を見て、渋い顔をする。


「ルリナ、前も言ったけどね、僕たちマスコットは魔法少女同士の問題に介入するのは『秩序』に置いて禁止されているんだ。だから、」

「問題ないよ。ひとりは気絶してるし、ひとりは……死んでるから」


ピタリと、タップの動きが止まった。

顔を俯け、気まずそうにする。


「分かった、死体はこちらで預かろう。学園に一度預ければ、遺族に返されるんだったね」

「うん、お願い」


タップはアベレージの体の下に入り込み、そのまま持ち上げ、宙に浮かんでいく。

マスコットは、『飛行』と『瞬間移動』の魔法しか使えない。

そして、『瞬間移動』は自分にしか効果が無いため、死体を運ぶときは空を飛んでいく。

アベレージの死体が遠ざかっていく。


なんとなく、酷く憂鬱な気分だった。


その後、変身を解除し小さめのホテルに泊まった。

メジアンを寝かせた後、私も寝付こうとした。が、一睡もできず、そのまま起きていた。


目を瞑るたびに、アベレージの顔面がビームで貫かれる光景がリフレインする。


私は最悪の気分のまま、朝を迎えることになった。



□ □ □


「さてと、ひとまずはこれで汚名返上かな?」


幼稚園バスのシートの一つに腰掛けて、ゴロテスはそう溢す

その手には、映像で見せられた、あの爆弾が握られていた

既に電源装置を抜かれて、沈黙している


「ンな訳ねぇだろ」


そんなゴロテスの、通路を挟んだ隣の席で、悪態をつく魔法少女がいた

金髪の、如何にも柄の悪そうな目をしている、少女

魔法少女『ゴッズ』は、忌々しそうに悪態をついた


「お前の不始末でどれだけ迷惑をかける気だ? この俺に」


ゴッズの魔法は『絶対』

魔法少女学園は、ゴロテスの要請を受けて、ゴロテスの証言から型番を特定し、監視カメラなどを精査。魔法少女『テラ』などの探索系の魔法を持つ魔法少女の協力の末に辿り着いたバスを、『絶対』の魔法で確定させる

最後の最後でゴッズが『バスを見つけ出す』事で、そのバスが問題のバスだと確定させる


『絶対』の下では、万が一など起こらない

勘違いや手違いによるミスを、すべて無かったことにできる。ゴッズが『問題のバスを見つけた』とを持った時点で、違ったとしても、あらゆる現実を歪めて、そのバスは爆弾を仕掛けられたバスとなる

これが『絶対』の魔法

90の番号を持つ、最強格の魔法である


そんなゴッズの偉そうに足を組みながら向けられる、威圧するその視線を、ゴロテスは柳に風と受け流す

その視線は、手元の爆弾に向けられている


「……この爆弾、幼稚園の登園時間よりも随分と遅く、爆発する様に設定されていた」

「……それが、どうした」

「つまりさ、この爆弾がもし爆発したとしても誰も死ななかったんじゃないかな」

「だから、ソレがどうした」

「『不統合同盟』って果たして悪と言えるのかな」

「……」

「彼女たちも何かの事情があって、学園に所属しない道を選んだのならば、その事情を解決できれば、和解する道も、」

「おい」

「!」


言葉の流れを断ち切る様にして、ゴッズがゴロテスの襟を締め上げる

ギリギリと、常人なら気絶する様な力で


「ふざけるなよ、ゴロテス」

「……」

「別に、俺は他人がどう考えようが、構わない。

「……なんで?」

「ッ! お前が! 『最強』だからだろうが!」


心底苛ついたように、ゴッズは叫ぶ

心の鬱憤をぶつける様に。それ程迄に、ゴロテスのその発言が、ゴッズには許せなかった


「多くの魔法少女が、お前を頼っている。多くの魔法少女がお前に憧れてる! 『何があってもゴロテスがなんとかしてくれる』そう信じてる馬鹿な魔法少女もいる! たから、お前は揺らいじゃダメなんだよ、お前は学園の魔法少女全員を支えてるんだ、天内でも、『最優』でも、『最奥』でもない、『最強』のお前にしか出来ない事だ。お前が揺らぐと、『学園』全体が揺らぐ、だからお前だけは揺らいじゃダメなんだよ!」


その叫びは、懺悔のようだった。

今の魔法少女の、歪なあり方を、ゴッズは恥じている。

誰かに頼らなければ誰も戦えない学園を、心底嫌悪している。

何より、特定の何人かだけに負担が集中する状況を、肯定せざるを得ない自分を恥じている。

恥を忍んで、ゴロテスに叫んでいた。


ゴッズは本来、非常に真面目で、勤勉な魔法少女である。

だからこそ、わざと偉そうに振る舞う。

それは、ゴッズの『最強』のイメージの寄せ集めだ。

偉そうで、傲岸不遜で、自由奔放

自分が最強だという『確信』を得るための言動。


ゴロテスの年齢はは現在16歳と半年。

そして、


つまりは、後一年と半年しかゴロテスは魔法少女でいられない。

だからこそ、ゴッズは焦る。

次の『最強』になろうとする。


誰よりも責任感が強く、真面目で、だからこそゴッズは、最も『絶対』を使人間だった。


「……………分かった、もう言わない」


そんなゴッズを真っ直ぐ見据えながらゴロテスは自分の軽率な発言を撤回した。


「ごめん、ゴッズ」

「謝るなら、最初から言うな」

「……ところで、さ」


ゴロテスは気まずそうに、バスの天井を指差した。

そこには、ひと一人が通れるほどの大穴が空いている。

バス発見時、時間がないと焦ったゴロテスが拳で開けた穴。

今になっては、開ける必要がないと分かった穴でもある。


「これ、学園が弁償してくれるかな」

「知るか」

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