魔法少女グレイプニル!

龍谷 晟

第0編 鷹と炎

魔法少女は働きすぎ!?

 人間の悪意から生まれる怪物『怪異』、と怪異に対抗する力を持つ『魔法少女』の戦いは100年に渡り続いた。


 魔法少女とは少女である。

 未成年の選ばれた女子のみ変身でき、成人と同時にその力を『返却』する。


 魔法少女とは魔法を使うものである。

 ひとり二枚、魔法が封印されたカードを受け取り、そのカードを一枚ずつ使って戦う。


 魔法少女は、学校に行く。

 専門の養成学校が存在し、一部の例外を除きすべての魔法少女はそこに所属することが義務付けられている。


 魔法少女は人間である。

 当然、組織に従わない魔法少女が現れる。学園に所属しない魔法少女は『野良』と言われ、犯罪を犯す者も多いことから大衆や他の魔法少女に嫌われている。


 ここまでが現在の魔法少女の主な概要である。

 マスコットや怪異、魔法については、今後も研究の必要がある。


 以上、元魔法少女『カーディナル』 

 現魔法少女学園長 天内 遥



 □ □ □


 死体が歩いている。

  心臓は既に止まり、眼球は白濁し、皮膚は崩れ、脳髄は溶け落ちつつある、おぞましきリビングデッド。さながら、映画に出るゾンビのようだ。


 私はその首を、思いっきり蹴っ飛ばした。


 蹴り飛ばされた首は、肉体を離れ、ゴロゴロと地面を転がっていく。


 その場に残った体が一拍遅れて、崩れ落ちた。



「15体目」


 私の使命は人を守る事。

 私の敵は人を殺すモノ。


「たとえ元はヒトであっても、仕事なら殺せる」


 私は魔法少女、人類の守護者


「30体目」


 □ □ □


「働きすぎだ」


 魔法少女養成学園。

 名義上『学園』と呼ばれる組織の事実上トップである学園長に言われたのはそんな意外なモノだった。


「各地で発生した『ゾンビ』の被害も大分落ち着いてきた。怪異の被害報告も減少しているし、お前もしばらく休め」

「や、休めとはどういうことですか!? 私に何か不手際があったのですか!」

「……お前、家に帰ってないらしいな」

「それは……」

「私達は魔法少女を預かっている立場だ。御両親が帰せと言えば否とは言えん。寮を利用しているならともかく、実家通いのお前が親に無断で遠征任務を続けているのは問題になる」

「分かってます。でも、私は魔法少女だから」


 学園長はため息を吐くと、私から視線を外して机の上の書類を読み始めた。


「精神的かなり追い詰めてしまった様だな。暫く休養を取れ。なんなら行きつけの精神科を紹介してやるぞ」

「結構です。失礼します」


 からかわれている。根拠もなく私はそう思った。


 そんな煮えたぎる思いを抑え、私は学園長室を出た。


 □ □ □


 学園長・天内あまないは乱暴に閉められた扉の音を聞きながら、再度深いため息をついた。


「冗談のつもりはなかったのになぁ。それにしても……」


 天内は手元の資料に目を落とす。それは、先程会話を交わした魔法少女についての資料だった。


「魔法少女ルリナ 優秀なんだけどねぇ。あまりに……」

「危うい?」


 唐突に響いたその声に、思わず天内は顔を上げた。

 そこにいたのは、傲岸不遜な態度の魔法少女似合わないファンシーな衣装に身を包んで、笑いながら学園長を見ていた。


「魔法少女『ゴッズ』ただいま参上した」

「…………私の部屋で魔法を使うな、殺すぞ」

「おおう、怖い怖い。でも出来ないことを囀るなよ。オバさん」

「試すか? クソガキ」


 冷たく睨みつける天内、見下す様に笑うゴッズ。一触即発の空気が学園長室に流れる。


「失礼します」


 その空気を壊したのは、扉を開けて入ってきた一人の魔法少女だった。


「げっ、ゴロテス」

「やぁ、ゴッズ。息災かい?」


 緑の髪をゆった、制服の少女。

 年は16ほどで大人びた印象を持っている。


「来たか、ゴロテス」

「はい、学園長。本日はどの様な用件ですか?」

「その前に、ゴッズ、出ろ。ここからは機密情報だ」

「……仕方ねぇな」


 機密情報

 その言葉に意見を言うほど、ゴッズは規則からはみ出た人間ではない。むしろゴッズは横暴な態度とは裏腹に、規則に対しては異様なまでに厳格である。


「おいゴロテス。お前今度の土曜予定空けとけや」

「何で? 相談事でもあるのかい?」

「まぁ、そんなところだよ」


 そんな会話を交わしたのちにゴッズは退出した。

 それを見送ったゴロテスは天内に向き直る。


「それで? 機密情報とは?」

「ある魔法少女についてだ。お前にはコイツについて調べてもらいたい」

「? それのどこが機密情報なんですか?」

「コイツは、野良の魔法少女なんだよ」

「あぁ、それはまた難儀なものですね」


 野良の魔法少女

 つまり、学園に所属しない魔法少女ということだ。

 義務である学園への所属をしない野良の魔法少女は、補導の対象であり、魔法を使って犯罪を犯すものも多いことから嫌われている。


「名前は?」

「一切不明だ。顔が隠れているからな。ただ、あだ名はある」


『銀騎士』


 そう呼ばれるらしい魔法少女の資料には、フルプレートの甲冑を身につけた西洋騎士の写真が貼り付けられていた。

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