17話 諦めの化身 フェアヴァールト

裏切られたこと、ありますか?


信じてたはずの誰かに、

何も言わず切り捨てられたこと。

自分だけが信じていたと知った瞬間の、あの静かな絶望。


この話は、そんな「信じすぎた人間」が、

すべてを捨てて、それでもまだ生きてしまう物語です。


“感情を捨てる”ことでしか、生き延びられなかった男・フェアヴァールト。

そして、“感情を捨てきれない”女・アルベリス。


その対比と交差の中に、

あなた自身の「もしも」が、きっと見つかると思います。


読んでくれて、ありがとうございます。



俺の名前は、フェアヴァールト。

人より少しだけ、魔法が得意だった。


推理し、状況を読み、

即興で魔法を創る──それが俺の才能だった。

そして、それを“誇り”だと信じていた。


守りたい人がいた。

分かち合える仲間もいた。

手を伸ばせば、ぬくもりが返ってくる。

……そんな時間が、確かに、あった。


でも──

問題は、“人の心”だった。


どれだけ強い魔法を持っていても、

心の“脆さ”だけは救えなかった。


 


ある日、外から来た男──フライネ。

彼の言葉に仲間たちが心を揺らし、俺の背中に刃を向けた。


裏切りだった。

けど、彼らは洗脳されたわけじゃない。

“本心で俺を裏切った”のだ。


……その事実が、何より痛かった。


 


死にかけた俺は、「死を拒む魔法」を創り出した。

同じように、「心を取り戻す魔法」も探した。


でも──無理だった。


誰一人、俺を“仲間”なんて思っていなかった。

都合のいい存在。言葉を信じた俺が、バカだった。


積み重ねた日々は幻で、

信じていた絆は、俺だけの錯覚だった。


 


だから俺は選んだ。


創ったのは、“感情を破壊する槍”。


刺された者の「愛」や「情」を砕く。

命は奪わない。ただ、心が死ぬ。


それが、俺の辿り着いた“正しさ”だった。


諦めきれなかった俺は、

魔法にすら「諦めろ」と言われたんだ。


 


──そして俺は、

心を捨てたこの姿で、“諦め”を生きることにした。


俺の名は、フェアヴァールト。

諦めの化身。


 


諦めるということ。

それは、自分の心を殺すということ。


でもそれは同時に、

二度と騙されず、裏切られず、傷つかないということだ。


だから、俺は君に問う。


「君はまだ、諦めないのか?」


 



(時間は今へ)


暗い牢の隅で、アルベリスはじっとしていた。


曇りのないその瞳には、

希望ではなく、**“抗い”**が灯っていた。


「グラウブに会いたい。……たとえ何も報われなくても」


その声は静かだった。けれど強かった。


そこへ、声が届く。


フェアヴァールト

「……あきらめろ」


その言葉には慰めも怒りもない。

ただ、経験で濁った“事実”だけがあった。


 


アルベリス

「あなた……なぜそんな目をするの?」


フェアヴァールト

「これは、“信じてしまった奴の末路”の目だ。

……君も、そうなる前に選べ」


アルベリス

「私はもう、選んだ。まだ諦めない。それだけよ」


震えた声だった。けれど、揺らぎはなかった。


 



その頃──遠く離れた場所。


焚き火の明かりの中、

グラウブはナーヴァの寝顔を見つめていた。


もう感情の痕跡すらない顔。


グラウブ

「……守ったのに、守れなかった」


命は、繋いだ。

でも、“愛”は、救えなかった。


「……もう一度やり直す。

お前の笑顔を、俺が取り戻す」


答えは返らない。

けれど、彼の心にはまだナーヴァの声が残っていた。


 



アルベリスとフェアヴァールトは、静かに牢から歩き出す。


フェアヴァールト

「なぜそこまでして、グラウブに会いたい?」


アルベリス

「彼に救われたからよ。

愛されてなくてもいい。……私は、愛していた。

その証明がしたいの」


フェアヴァールト

「証明したとき、彼がもういなかったら?」


アルベリス

「それでも、私は“愛していた”。

──それだけは、真実として残る」


フェアヴァールトは、少しだけ笑った。


「愚かだな。……でも、それが“人間”だ。

なら、もう少しだけ付き合ってやるよ」


 


ナレーション

──傷ついた者たちの魂が、再び歩き出す。


それは希望ではない。

抗いであり、“願いの亡霊”。


けれど、物語はまだ終わっていない。

生き残った者たちが紡ぐ、喪失と再生の章として。


 



次回予告|第18話『諦めを抗うもの』


「どうしても、捨てきれないんだ」


捨てた方が楽なのに。

諦めた方が、傷つかずに済むのに。


それでも──

誰も見ていない夜、自分自身がそれを許さない。


傷だらけのグラウブ。

愛を失ったナーヴァ。

諦めを壊されたフェアヴァールト。


彼らが再会するその時、

選ぶのは“信じる”という名の、もう一度の地獄か。


──第18話『諦めを抗うもの』

“信じることが、呪いの続きを呼ぶとしても”



人って、そんなに強くない。

信じて裏切られて、傷ついて、諦めて……

それでも、どこかで「もう一度だけ」と願ってしまう。


フェアヴァールトは、そんな“最後の願い”すら捨てた存在。

でも彼の中に、まだほんの少しだけ残っていたのかもしれません。

人間らしさ、という火種が。


誰かの「諦めない」が、誰かの「もう一度」を引き戻す。

そんな風に、希望は静かに続いていくのかもしれません。


次回、彼らは再び交わります。


信じることが呪いでも、それを抱えて進む姿を、

どうか見届けてください。

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