17話 諦めの化身 フェアヴァールト
裏切られたこと、ありますか?
信じてたはずの誰かに、
何も言わず切り捨てられたこと。
自分だけが信じていたと知った瞬間の、あの静かな絶望。
この話は、そんな「信じすぎた人間」が、
すべてを捨てて、それでもまだ生きてしまう物語です。
“感情を捨てる”ことでしか、生き延びられなかった男・フェアヴァールト。
そして、“感情を捨てきれない”女・アルベリス。
その対比と交差の中に、
あなた自身の「もしも」が、きっと見つかると思います。
読んでくれて、ありがとうございます。
*
俺の名前は、フェアヴァールト。
人より少しだけ、魔法が得意だった。
推理し、状況を読み、
即興で魔法を創る──それが俺の才能だった。
そして、それを“誇り”だと信じていた。
守りたい人がいた。
分かち合える仲間もいた。
手を伸ばせば、ぬくもりが返ってくる。
……そんな時間が、確かに、あった。
でも──
問題は、“人の心”だった。
どれだけ強い魔法を持っていても、
心の“脆さ”だけは救えなかった。
ある日、外から来た男──フライネ。
彼の言葉に仲間たちが心を揺らし、俺の背中に刃を向けた。
裏切りだった。
けど、彼らは洗脳されたわけじゃない。
“本心で俺を裏切った”のだ。
……その事実が、何より痛かった。
死にかけた俺は、「死を拒む魔法」を創り出した。
同じように、「心を取り戻す魔法」も探した。
でも──無理だった。
誰一人、俺を“仲間”なんて思っていなかった。
都合のいい存在。言葉を信じた俺が、バカだった。
積み重ねた日々は幻で、
信じていた絆は、俺だけの錯覚だった。
だから俺は選んだ。
創ったのは、“感情を破壊する槍”。
刺された者の「愛」や「情」を砕く。
命は奪わない。ただ、心が死ぬ。
それが、俺の辿り着いた“正しさ”だった。
諦めきれなかった俺は、
魔法にすら「諦めろ」と言われたんだ。
──そして俺は、
心を捨てたこの姿で、“諦め”を生きることにした。
俺の名は、フェアヴァールト。
諦めの化身。
諦めるということ。
それは、自分の心を殺すということ。
でもそれは同時に、
二度と騙されず、裏切られず、傷つかないということだ。
だから、俺は君に問う。
「君はまだ、諦めないのか?」
◆
(時間は今へ)
暗い牢の隅で、アルベリスはじっとしていた。
曇りのないその瞳には、
希望ではなく、**“抗い”**が灯っていた。
「グラウブに会いたい。……たとえ何も報われなくても」
その声は静かだった。けれど強かった。
そこへ、声が届く。
フェアヴァールト
「……あきらめろ」
その言葉には慰めも怒りもない。
ただ、経験で濁った“事実”だけがあった。
アルベリス
「あなた……なぜそんな目をするの?」
フェアヴァールト
「これは、“信じてしまった奴の末路”の目だ。
……君も、そうなる前に選べ」
アルベリス
「私はもう、選んだ。まだ諦めない。それだけよ」
震えた声だった。けれど、揺らぎはなかった。
◆
その頃──遠く離れた場所。
焚き火の明かりの中、
グラウブはナーヴァの寝顔を見つめていた。
もう感情の痕跡すらない顔。
グラウブ
「……守ったのに、守れなかった」
命は、繋いだ。
でも、“愛”は、救えなかった。
「……もう一度やり直す。
お前の笑顔を、俺が取り戻す」
答えは返らない。
けれど、彼の心にはまだナーヴァの声が残っていた。
◆
アルベリスとフェアヴァールトは、静かに牢から歩き出す。
フェアヴァールト
「なぜそこまでして、グラウブに会いたい?」
アルベリス
「彼に救われたからよ。
愛されてなくてもいい。……私は、愛していた。
その証明がしたいの」
フェアヴァールト
「証明したとき、彼がもういなかったら?」
アルベリス
「それでも、私は“愛していた”。
──それだけは、真実として残る」
フェアヴァールトは、少しだけ笑った。
「愚かだな。……でも、それが“人間”だ。
なら、もう少しだけ付き合ってやるよ」
ナレーション
──傷ついた者たちの魂が、再び歩き出す。
それは希望ではない。
抗いであり、“願いの亡霊”。
けれど、物語はまだ終わっていない。
生き残った者たちが紡ぐ、喪失と再生の章として。
⸻
次回予告|第18話『諦めを抗うもの』
「どうしても、捨てきれないんだ」
捨てた方が楽なのに。
諦めた方が、傷つかずに済むのに。
それでも──
誰も見ていない夜、自分自身がそれを許さない。
傷だらけのグラウブ。
愛を失ったナーヴァ。
諦めを壊されたフェアヴァールト。
彼らが再会するその時、
選ぶのは“信じる”という名の、もう一度の地獄か。
──第18話『諦めを抗うもの』
“信じることが、呪いの続きを呼ぶとしても”
*
人って、そんなに強くない。
信じて裏切られて、傷ついて、諦めて……
それでも、どこかで「もう一度だけ」と願ってしまう。
フェアヴァールトは、そんな“最後の願い”すら捨てた存在。
でも彼の中に、まだほんの少しだけ残っていたのかもしれません。
人間らしさ、という火種が。
誰かの「諦めない」が、誰かの「もう一度」を引き戻す。
そんな風に、希望は静かに続いていくのかもしれません。
次回、彼らは再び交わります。
信じることが呪いでも、それを抱えて進む姿を、
どうか見届けてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます