16話 絶望の愛の行先

物語を読んでくれて、ありがとうございます。


この物語は、「正しさ」や「愛」が誰かを傷つけてしまう世界で、

それでも誰かを想い続ける人たちの、祈りのような物語です。


誰かを守りたくて選んだことが、

その誰かを遠ざけてしまったことはありませんか?


信じたことに裏切られた夜、

それでも誰かの名前を心の中で呼び続けた朝、

そんなあなたにこそ、読んでもらいたくて書いています。


綺麗な答えはきっとありません。

それでも「信じてしまった心」が、

報われる物語を、いつか一緒に見届けてもらえたら嬉しいです。



療養中の身体は思うように動かず、

痛みは、日に日に“心”まで侵食していた。


それでも、メストアの焦燥は消えなかった。

——アルベリスはまだ、彼に執着している。


だから、監禁した。

弱っている今の自分じゃ、彼女の“心”さえ制御できない。

そんな自覚が、決断の引き金だった。


言い訳だってわかってた。

でも、そうでもしなきゃ——

また彼女は、“あの魔王”のもとへ行ってしまう気がしてならなかった。


「お前はいつも、空を見て誰かを想ってる。……俺のことなんか、見やしないんだろ」


ベッド脇の椅子に座る彼女は、静かに遠くを見ていた。

その横顔が、どうしようもなく、胸を焼いた。



重く閉ざされた部屋の中。

けれど、アルベリスの心だけは“外”にあった。


「また……あなたに会えるかしら、グラウブ」


募る想いだけが、彼女を生かしていた。

逃げ出す術はない。

いまは「待つしかない」

でも、それを選んだのは——自分自身だった。


“誰にも知られずに、心の奥だけで会いに行く。”


メストアの視線に気づいていた。

けれど、答えない。

ただ黙って、窓の外の空だけを見つめていた。



一方、グラウブは、

燃え尽きたような瞳で、ナーヴァを見つめていた。


「……ナーヴァ」


主従契約で延命した少年は、感情の抜け殻だった。

もう、笑わない。もう、泣かない。


「俺のせいで、お前は……」


呪いで命を繋ぎ、契約で死を遠ざけた。

けれどそれは、“救い”ではなかった。


助けたはずが、助かっていない。

その現実に、グラウブの拳は静かに震える。


「次こそは——」


彼の目は、遥か彼方にいるかつての仲間、

勇者メストアを捉えていた。



牢は、夜よりも静かだった。

時間が止まったみたいに、息苦しいほどの沈黙。


アルベリスは壁にもたれ、指先で錆びた鎖をなぞった。


(このまま誰にも会えずに終わるなんて——絶対にイヤ)


心の奥で叫び続ける声。

届かなくても、まだ想っていたい。


(グラウブ……私は、あなたに会いたい。

たとえ、どんな姿でも。どれだけ遠くても)


その想いは、彼女の“予知”では見えない未来に、

小さな光をともしていた。


なぜなら——

「自分の未来」だけは、誰にも予知できない。


「……出るわ、ここから」


立ち上がったその声は、希望じゃない。

決意だった。



牢の奥、ひとつの影が蹲っていた。

その者に目を向け、アルベリスは声をかけた。


「ねえ、あんた。……ここから抜け出す方法、知らない?」


しばらくして、

絞り出すような声が返ってきた。


「……諦めろ」


影が顔を上げた瞬間、アルベリスは息をのんだ。


長い黒髪、青白い肌。

骨の浮き出た身体、185センチの長身。


でも、一番目を奪われたのは——その“目の色”だった。


灰色でもなく、群青でもない。

全てを悟った者だけが持つ、諦めの色。


「あなた……名前は?」


「……フェアヴァールト。

この牢にいても、いなくても、結果は変わらん。だから、諦めろ」


「諦めないわ」


「それがいい。そう言えるうちに、逃げるといい」


彼は立ち上がり、壁を指でなぞる。

まるで“見てきたように”、そこに出口を作った。


「魔法は“状況”から生まれる。

君が出口を望む限り、私はそれを“見せられる”」


錠が、カチリと外れる。


「ついてくるの?」


「興味があるだけだ。

どうして君は、そんなにも“諦めたがらない”のか——」


脱獄に成功したその背中には、たしかにあった。

何かをすべて失った者の、優しい背中。


新たな出会いが告げるものは、

希望か、それとも“本物の絶望”か。


物語は今、

諦めを知る者たちの章へと進み出す。



次回予告


第17話『諦めの化身 フェアヴァールト』

「信じる」ことが、毒になる瞬間。

抗えぬ現実に、なお抗う者たちへ——

諦めが微笑む、その理由とは?




ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。


この章は、「守るための選択」が時に誰かを壊すこと、

「諦めたくない想い」が、どれほど人を縛るかを描きました。


誰かを想う気持ちは、時に優しさにもなり、呪いにもなる。

それでも「想いたい」と願うのは、きっと心がまだ、生きている証なんだと思います。


登場人物たちが抱える痛みも後悔も、

どこかであなたの中に似た感情が響いていたなら、

それはきっと、この物語が“あなたと繋がれた瞬間”です。


物語は、まだ続きます。

光も、闇も、希望も絶望も、その先にあります。

また続きを読んでくれたら、嬉しいです。


——ありがとう。

この物語の行き先を、あなたと共に見届けられることに。

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