第9話 優しさという毒
「救えなかった命を前に、正義は──ただの理想だった」
命を救う魔法が、呪いへと変わる。
ナーヴァを襲う“代償”の真実。
そして、揺らぎ始めるグラウブの“正義”の意味──
希望と絶望が交差する、転機の第9話。
*
(薄明かりの中、戦いの余韻が揺れる)
グラウブ(荒く息を吐きながら)
「ナーヴァ……ありがとう。本当に──!」
(その瞬間、ナーヴァの身体が崩れ落ちた)
グラウブ(駆け寄りながら)
「なっ……なんでだよ……!?」
(医者が診る。顔をしかめる)
医者
「これは……呪いだ。しかも、重い。治療では手に負えん」
(グラウブの脳裏にフライネの言葉が閃く)
フライネ(回想)
「癒された者は、次に試される。応えられなければ──罰が待つ」
(グラウブ、震える手で魔法石を握る)
グラウブ
「……フライネ。教えてくれ、ナーヴァは、どうなっちまったんだ……!」
(沈黙。そして、冷酷な声)
フライネ
「もう戻らないよ。君が選んだ“正義”に、彼は呑まれた」
(グラウブ、絶望と怒りを滲ませ)
グラウブ(低く)
「なら……俺がその呪いごと、正義をねじ伏せる……!」
(場面転換:診療所)
(眠るナーヴァの額に手を当てる)
グラウブ(心の声)
「俺の魔法は……“生かした”だけ。助けたなんて、言えない」
(拳を握る。血がにじむ。が、顔を上げて)
グラウブ
「……待て。“正義の魔法”は、正義のもとに力を得る」
「なら……“その源”を潰せば──ナーヴァは助かる!」
(再び、森)
(月光の下に、仮面の男・フライネが現れる)
フライネ・シルクハット
「いやあ、わざわざ“探して”来るなんて。正義、拗らせてるねぇ」
グラウブ
「……メストアと会ってきた。戦った。だから今、俺は──お前に頼らなきゃならない」
フライネ
「取引かい? それとも、まだ“話し合い”なんて甘い夢見てる?」
グラウブ(わずかに笑い)
「話し合い……じゃねえ」
(魔法陣が炸裂)
グラウブ
「ナーヴァの命、返してもらう……“正義の魔法”で!」
(フライネ、静かに回避しながら)
フライネ
「君の怒りも、執着も、葛藤も──全部、観えてたよ」
「僕はね、“上から見てる”んだ」
「叫んでも、抗っても、無駄だよ。全部、“観測”済みさ」
(にやりと仮面が笑う)
「僕が見たいのは──理想が崩れる瞬間」
「“信じてきた正義”が、自分を壊す瞬間だ」
(グラウブの魔法が虚空に散る)
グラウブ(膝をつき)
「……っ、くそ……っ!!」
(拳を地に叩きつける)
(フライネが静かに歩み寄る)
フライネ
「でも、まだ道はある。“魔王”になれば、ナーヴァは救える」
「苦しませず、迷わせず、君ごと“記憶”から救ってあげられる」
(グラウブ、拳を震わせる)
フライネ(続けて)
「君が“魔王”になれば、勇者は動く。君の“正義”を撃ちに来る」
「……その時のナーヴァは、どっちにつくと思う?」
(長い沈黙。グラウブ、ゆっくりと目を開け)
グラウブ
「いいだろう。魔王になってやる。……その代わり」
(睨みつけ、静かに言う)
グラウブ
「次に“選ばされる”のは……お前だ」
フライネ(仮面の奥で笑みを浮かべ)
「ふふっ……ようやく“怒り”で話すようになってくれたね」
(黒い刻印がグラウブの胸に浮かぶ)
(正義の光は、静かに闇へと沈んでいく──)
⸻
◆次回予告
【第10話】
「正義が救えなかった命を、魔王が救う。──そうだ、“俺”が選ぶ」
次回:『魔王の契約』
正義が壊れ、覚悟が契る。
*
“正義の魔法”を掲げながら、
誰も救えない自分に、グラウブは問いかけ続けます。
ナーヴァを守るため、フライネに対峙し、
選ばされた末に、彼が出した答えは──「魔王になること」でした。
それは、信じてきた“正義”を自ら裏切る選択。
次回、彼が交わす“契約”は何をもたらすのか。
どうか見届けてください。
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