第9話 優しさという毒

「救えなかった命を前に、正義は──ただの理想だった」


命を救う魔法が、呪いへと変わる。

ナーヴァを襲う“代償”の真実。

そして、揺らぎ始めるグラウブの“正義”の意味──


希望と絶望が交差する、転機の第9話。



(薄明かりの中、戦いの余韻が揺れる)


グラウブ(荒く息を吐きながら)

「ナーヴァ……ありがとう。本当に──!」


(その瞬間、ナーヴァの身体が崩れ落ちた)


グラウブ(駆け寄りながら)

「なっ……なんでだよ……!?」


(医者が診る。顔をしかめる)


医者

「これは……呪いだ。しかも、重い。治療では手に負えん」


(グラウブの脳裏にフライネの言葉が閃く)


フライネ(回想)

「癒された者は、次に試される。応えられなければ──罰が待つ」


(グラウブ、震える手で魔法石を握る)


グラウブ

「……フライネ。教えてくれ、ナーヴァは、どうなっちまったんだ……!」


(沈黙。そして、冷酷な声)


フライネ

「もう戻らないよ。君が選んだ“正義”に、彼は呑まれた」


(グラウブ、絶望と怒りを滲ませ)


グラウブ(低く)

「なら……俺がその呪いごと、正義をねじ伏せる……!」


(場面転換:診療所)


(眠るナーヴァの額に手を当てる)


グラウブ(心の声)

「俺の魔法は……“生かした”だけ。助けたなんて、言えない」


(拳を握る。血がにじむ。が、顔を上げて)


グラウブ

「……待て。“正義の魔法”は、正義のもとに力を得る」


「なら……“その源”を潰せば──ナーヴァは助かる!」


(再び、森)


(月光の下に、仮面の男・フライネが現れる)


フライネ・シルクハット

「いやあ、わざわざ“探して”来るなんて。正義、拗らせてるねぇ」


グラウブ

「……メストアと会ってきた。戦った。だから今、俺は──お前に頼らなきゃならない」


フライネ

「取引かい? それとも、まだ“話し合い”なんて甘い夢見てる?」


グラウブ(わずかに笑い)

「話し合い……じゃねえ」


(魔法陣が炸裂)


グラウブ

「ナーヴァの命、返してもらう……“正義の魔法”で!」


(フライネ、静かに回避しながら)


フライネ

「君の怒りも、執着も、葛藤も──全部、観えてたよ」


「僕はね、“上から見てる”んだ」


「叫んでも、抗っても、無駄だよ。全部、“観測”済みさ」


(にやりと仮面が笑う)


「僕が見たいのは──理想が崩れる瞬間」


「“信じてきた正義”が、自分を壊す瞬間だ」


(グラウブの魔法が虚空に散る)


グラウブ(膝をつき)

「……っ、くそ……っ!!」


(拳を地に叩きつける)


(フライネが静かに歩み寄る)


フライネ

「でも、まだ道はある。“魔王”になれば、ナーヴァは救える」


「苦しませず、迷わせず、君ごと“記憶”から救ってあげられる」


(グラウブ、拳を震わせる)


フライネ(続けて)

「君が“魔王”になれば、勇者は動く。君の“正義”を撃ちに来る」


「……その時のナーヴァは、どっちにつくと思う?」


(長い沈黙。グラウブ、ゆっくりと目を開け)


グラウブ

「いいだろう。魔王になってやる。……その代わり」


(睨みつけ、静かに言う)


グラウブ

「次に“選ばされる”のは……お前だ」


フライネ(仮面の奥で笑みを浮かべ)

「ふふっ……ようやく“怒り”で話すようになってくれたね」


(黒い刻印がグラウブの胸に浮かぶ)


(正義の光は、静かに闇へと沈んでいく──)



◆次回予告


【第10話】

「正義が救えなかった命を、魔王が救う。──そうだ、“俺”が選ぶ」


次回:『魔王の契約』

正義が壊れ、覚悟が契る。



“正義の魔法”を掲げながら、

誰も救えない自分に、グラウブは問いかけ続けます。


ナーヴァを守るため、フライネに対峙し、

選ばされた末に、彼が出した答えは──「魔王になること」でした。


それは、信じてきた“正義”を自ら裏切る選択。


次回、彼が交わす“契約”は何をもたらすのか。

どうか見届けてください。

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