第7話 勇者メストア・ドグマ
「偶然じゃないと思うんです。彼が“導いた”んじゃないかって」
優しく笑うその目に、静かに潜む“狂気”。
正義を信じる者同士が出会ったとき、語られるのは理想か、過去か──それとも、対話の刃か。
第7話『勇者メストア・ドグマ』、開幕。
*
(賑わう夜の繁華街。屋台の灯りが揺れ、串焼きの香ばしい匂いが漂っている)
(グラウブ、メストア、ナーヴァの3人が並んで串をかじっている)
(その頭上──空は、いつの間にか薄く曇り始めていた)
メストア
「いや~助かりましたよ! こんなに人がいると、迷ってばかりで」
「実は俺、最近“フライネ”ってやつを探してて……魔王を作ろうとしてるって噂、聞きました?」
(空を覆う雲がじわじわと濃くなる。屋台の提灯が、じんわりと光を強め始めた)
メストア
「だから先に潰しておこうと思って。で──“魔王”って名乗ってたやつがいたんで、問答無用で殺しました!」
「本当は尋問しようと思ってたんですけどね、つい勢いで!」
(グラウブ、手元の串を強く握りしめる)
グラウブ(心の声)
(……笑いながら話すことかよ)
(こいつ、“悪”と判断したら迷わず斬る……正義じゃない、“信仰”だ)
(風がひと吹き。空気がほんの少し、冷たくなる)
メストア
「で、グラウブさん。フライネについて、何か知ってません? 目撃情報でも、なんでもいいんですけど」
(曇った空から、月の光が途切れたように消える。提灯の光だけが彼らの輪郭を照らしている)
グラウブ(視線を逸らし、少し笑ってごまかす)
「……名前は聞いたことある。でも会ったことはないな」
メストア(にこっと)
「そっか~。残念。でもそのうち、バチッと見つかる気がするんですよねぇ」
(笑ったまま、ふと顔を伏せて)
メストア(低く)
「……でも、グラウブさん。さっきからちょっと気になってたんですけど」
(その声は、さっきよりもひとつ冷たい)
グラウブ
「……ん?」
メストア(小声で)
「あなた、本当は──フライネに会いましたよね?」
(曇り空。ぽつ、と遠くで雨粒が落ちる音がしたような気がした)
グラウブ(心の声)
(バレた……!)
(ナーヴァが顔を上げるが、グラウブが手で制して黙らせる)
メストア(目を伏せて、ぽつりと)
「……偶然じゃないと思うんです」
「あなたと出会ったのは、きっと“導かれた”結果だって──彼の魔法、そういう力なんですよね?」
「未来を観察する、“上から見える力”」
(空が完全に曇り、街の喧騒がどこか遠くに感じられる)
グラウブ(心の声)
(フライネの導きか……それとも、“道”を選べということか?)
メストア(目を逸らさずに)
「もしそうなら、あなたが“敵”になる前に、俺は決着をつけなきゃいけない」
(グラウブ、深く息を吐く)
ナーヴァ
「……グラウブ?」
グラウブ(ナーヴァの頭を撫でながら)
「ナーヴァ、先に宿に戻っててくれ」
(メストアがゆっくり立ち上がり、背を向ける)
メストア
「明日、東の丘で待ってます。話すのか、戦うのか……選んでください」
(曇り空の下、メストアの姿が夜に消えていく)
グラウブ(ぽつりと)
「……あいつ、“あの時の俺”と同じ目をしてた」
(夜の空。星は隠れ、風が吹く。グラウブは静かに歩き出す)
――正しさは、選ぶものじゃない。
それでも、俺は選ばなきゃいけない。
信じた“正義”が壊れるとしても。
*
一緒にご飯を食べただけ。
それなのに、空は曇り、心はざわつく。
メストアの“優しさ”は、どこかおかしい。
「正しい」と信じるその在り方が、どこまでもまっすぐで──それが、いちばん怖かった。
次回、グラウブの“正義”が試される。
静かに、戦いの幕が上がる。
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