第7話 勇者メストア・ドグマ

「偶然じゃないと思うんです。彼が“導いた”んじゃないかって」


優しく笑うその目に、静かに潜む“狂気”。


正義を信じる者同士が出会ったとき、語られるのは理想か、過去か──それとも、対話の刃か。


第7話『勇者メストア・ドグマ』、開幕。



(賑わう夜の繁華街。屋台の灯りが揺れ、串焼きの香ばしい匂いが漂っている)

(グラウブ、メストア、ナーヴァの3人が並んで串をかじっている)

(その頭上──空は、いつの間にか薄く曇り始めていた)


メストア

「いや~助かりましたよ! こんなに人がいると、迷ってばかりで」

「実は俺、最近“フライネ”ってやつを探してて……魔王を作ろうとしてるって噂、聞きました?」


(空を覆う雲がじわじわと濃くなる。屋台の提灯が、じんわりと光を強め始めた)


メストア

「だから先に潰しておこうと思って。で──“魔王”って名乗ってたやつがいたんで、問答無用で殺しました!」

「本当は尋問しようと思ってたんですけどね、つい勢いで!」


(グラウブ、手元の串を強く握りしめる)


グラウブ(心の声)

(……笑いながら話すことかよ)

(こいつ、“悪”と判断したら迷わず斬る……正義じゃない、“信仰”だ)


(風がひと吹き。空気がほんの少し、冷たくなる)


メストア

「で、グラウブさん。フライネについて、何か知ってません? 目撃情報でも、なんでもいいんですけど」


(曇った空から、月の光が途切れたように消える。提灯の光だけが彼らの輪郭を照らしている)


グラウブ(視線を逸らし、少し笑ってごまかす)

「……名前は聞いたことある。でも会ったことはないな」


メストア(にこっと)

「そっか~。残念。でもそのうち、バチッと見つかる気がするんですよねぇ」


(笑ったまま、ふと顔を伏せて)


メストア(低く)

「……でも、グラウブさん。さっきからちょっと気になってたんですけど」


(その声は、さっきよりもひとつ冷たい)


グラウブ

「……ん?」


メストア(小声で)

「あなた、本当は──フライネに会いましたよね?」


(曇り空。ぽつ、と遠くで雨粒が落ちる音がしたような気がした)


グラウブ(心の声)

(バレた……!)


(ナーヴァが顔を上げるが、グラウブが手で制して黙らせる)


メストア(目を伏せて、ぽつりと)

「……偶然じゃないと思うんです」

「あなたと出会ったのは、きっと“導かれた”結果だって──彼の魔法、そういう力なんですよね?」

「未来を観察する、“上から見える力”」


(空が完全に曇り、街の喧騒がどこか遠くに感じられる)


グラウブ(心の声)

(フライネの導きか……それとも、“道”を選べということか?)


メストア(目を逸らさずに)

「もしそうなら、あなたが“敵”になる前に、俺は決着をつけなきゃいけない」


(グラウブ、深く息を吐く)


ナーヴァ

「……グラウブ?」


グラウブ(ナーヴァの頭を撫でながら)

「ナーヴァ、先に宿に戻っててくれ」


(メストアがゆっくり立ち上がり、背を向ける)


メストア

「明日、東の丘で待ってます。話すのか、戦うのか……選んでください」


(曇り空の下、メストアの姿が夜に消えていく)


グラウブ(ぽつりと)

「……あいつ、“あの時の俺”と同じ目をしてた」


(夜の空。星は隠れ、風が吹く。グラウブは静かに歩き出す)


――正しさは、選ぶものじゃない。

それでも、俺は選ばなきゃいけない。

信じた“正義”が壊れるとしても。



一緒にご飯を食べただけ。

それなのに、空は曇り、心はざわつく。


メストアの“優しさ”は、どこかおかしい。

「正しい」と信じるその在り方が、どこまでもまっすぐで──それが、いちばん怖かった。


次回、グラウブの“正義”が試される。

静かに、戦いの幕が上がる。

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