取材に行こうよ……
「キス……してもいい?」
背中から腕を回して抱きついているシオンさんが小さく囁く。僕は首を縦に振ることも横に振ることも出来なかった。
沈黙が部屋を占拠する。部屋には僕の鼓動音が響いていた。僕にはこの時間が数秒にも数分にも感じられた。
沈黙を先に破ったのはシオンさん。
「ごめん。変なこと言って。さ、取材行こうよ……」
「はい……行きましょう」
僕たちは1時間ほどバスに揺られて県内の中心部にある城に向かった。平日の昼間ということもあり、バスにはほとんど乗客がいなかったが、僕たちは道中一言も話さなかった。
「着いたね」
「流石に大きいですね……」
バス停から見上げると天守閣が僕たちを見下げていた。
「行きましょうか」
「うん」
僕たちは石で造られた階段を上っていく。あまり人はいなかったが、県内の有名観光地ということもあり、観光客や地元のお年寄りが複数いた。天守閣までの道のりは険しく、昔はここを重い鎧を身につけた人が通っていたことに感心する。
天守閣の中に入る前に日陰のベンチで少しだけ休憩を取ったが、僕たちは一言も話すことは無かった。
「一名様ですか?」
天守閣の入口で係員のお姉さんに聞かれる。
「はい。大学生一人です」
天守閣の中に入るには料金が必要で、大学生1人分の料金を支払った。
天守閣の中は想像していたものよりも狭く、上の階に移動するための階段も急だった。中には鎧や刀などの展示物が飾られていた。僕たちは展示物には目もくれず天守閣最上部の展望台を目指して狭い階段を上っていく。
天守閣最上部の展望台に到着した僕たちだったが、正直がっかりした。僕が想像したよりも遥かに狭かった。おおよそ二十畳くらいだったため、背丈の大きい外国人観光客は少し窮屈そうだった。そこから見る景色は絶景だが、広さがなく、少し期待外れだった。
天守閣から出て、僕はシオンさんに話しかける。
「……ちょっと狭かったですね」
「う、うん」
とてつもなく気まずい空気が二人の間を流れる。
「ね、ねぇ」
「はい」
「朝のこと……忘れてくれないかな」
「え?」
「ボクのせいで気まずくしちゃってるよね……」
「え、いや、そんなことは」
少しの沈黙のあと、シオンさんは再び口を開く。
「ねぇ、ボク思い出したことがあるんだ」
「なんですか?」
「ボクがなんで死んだのか」
"ボクはね、マンションから飛び降り自殺したんだ"
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1週間毎日更新5日目です
またまた更新が遅れてしまいました……すみません
次回は第1章のクライマックスになっています!
明日の更新をお楽しみに!
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