感じるはずのないぬくもり

「え、えっとね……あのね……」


 シオンさんは、頬に垂れている涙を拭きながら答える。


「その……ボクは……早く起きちゃって……ヒマだったからって……寝ている君を無理矢理起こしちゃって……ウザかったよね……」


 そう言って目に涙をためて謝るシオンさん。


「君が本気で怒ってる顔を見て気づいたんだ……ボク自分勝手だったなって……急にここに住み着いて……いじわるしたり……見えるってわかったら急に結婚を申し込んだり……。本当にごめん」


 深々と背を曲げて謝る。


「ボク……出ていこうと思ったんだ……これ以上迷惑かけられないと思って……でもね、君のことが忘れられなかったんだ。忘れなきゃ忘れなきゃって思えば思うほど君の顔が浮かんできたんだ……」


 僕は口を開かずただじっとシオンさんの話を聞いてきた。


「前までは君のこと本気で好きとかじゃなかったんだ……結婚を申し込んだのも恥ずかしかったからなんだ……けどね、今は本気で君のことが好きなんだ」


 大きく息を吸い込んでから言葉を紡ぐ。


「ボクと、結婚してください」


 僕は何も答えを出すことが出来なかった。


「…………取材の準備してきますね」


 僕はシオンさんを玄関に残したまま、リビングで服を着替える。


 僕は最低な人間だ。シオンさんは本気で僕を想ってくれているのに、答えを出さずに話を逸らす。僕もシオンさんのことが好きなのだろう。シオンさんと結婚できたらどれほど幸せだろう。でも、こんなにも時分を想ってくれて、愛を伝えてくれる人に応えることすらできない僕がシオンさんを幸せにすることができるはずがない。僕といたって彼女は幸せになれない。


 僕はつくづく自分が嫌いだ。頭では分かっていたんだ。シオンさんが帰ってきていたときに感じた、よかった、と胸を撫で下ろしたときの安心感が僕の本当の気持ちなんだと。


──ぎゅっ。

 僕の身体にぬくもりが伝わってくる。シオンさんがうしろから抱きついているようだ。本来僕たちが触れ合うことはできない。今も実際には触れられていない。それでもなぜか、シオンさんのぬくもりや感触を感じた気がした。


「ねぇ……」


 うしろからシオンさんが話しかけてくる。甘くて生暖かい吐息が僕の首筋をなぞる。


「な、なんですか?」

「キス……してもいい?」



────────────────

 毎日更新4日目です。


 いつもより更新時間が遅れてしまって申し訳ないです。


 第1章完結まで残りわずかですが、たくさん読んでくれると嬉しいです!


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