より深く、より広く

「え?なんで??」


 急に何を言い出すんだ。


「君、今『書き直さないといけないのに経験したことないから書き直せない。』と考えているだろ?」

「そ、そんなに顔に出てました?」

「君の考えていることなんて丸わかりだよ」


 胸を張り自慢げにこちらを見つめるシオンさん。胸を張ることで、それほど大きいわけではないが、決して小さくはない立派な双丘が強調されるようになる。

 目のやり場に困るからやめて欲しい。


「ん〜?なんで目を逸らすのかな〜?」


 "バレてた……"


 ニヤニヤしながら、さらに強調させるように胸を軽く揺らして近づいてくる。


「ねぇ〜なんで逸らすのかな〜??」

「ちょっ、やめてください……」

「なにをやめて欲しいのかな〜?」


 さらに近づいてくる。このままではシオンさんの柔らかそうな二つの山に激突してしまう……


「な、なんでデートに行くんですか?」

「あ、話逸らした」


 不満そうな顔を見せるシオンさん。


「どーせ君には友人とかいないだろ?まして恋人なんているはずもない。合ってるだろ?」


 "グッハッ"


 誰か……救急車を呼んで……。僕のライフは零を超えてもうマイナスよ……


「だ・か・ら。優しい優しいこのボクが一緒にいろんなところに行ってあげようということさ。」


 つまりは取材だね。と付け足すシオンさん


「よ、余計なお世話です」

「いいのかい?君は一人で行ける?君みたいなヘタレ君が」

「……行けないです……」

「素直でいい子だ。よーし。決まりだね。最初のデートはどこにしようか」


 この人、本当に嫌いだ。まるで僕の心が読めるかのように的確に僕の心の傷を深く、広くしていく。


 確かに僕に友達はいない。恋人なんているはずもない。今まで人、特に同年代の人との関わりがあまりに少なすぎて、どう話せばいいのか分からないのだ。


 たぶん、僕が唯一大学で友達が出来そうになったのは入学式だ。たまたま隣の席に座っていた男だ。髪を金に染め、ピアス、ネックレスを身につけた、いかにも陽キャが僕に話しかけてきた……



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