――陽二さんの執拗な願い――

 一度だけ会っただけなのに、津野陽二から毎日のように家に電話あった。


 「もう、大衆音楽祭で絶対に賞を取るから」

 「一緒にやりたいから、作詞頑張って欲しい」

 「事務所に寄って欲しい」など、本当に執拗しつようだった。


 根負けして、幾度か仕事帰りに事務所に寄った。

 作りたい曲の作詞に対しての方向性が、まったく合わない。


 私は、綺麗な美しい詩が書きたかったのに、

 「それでは、インパクトがない、賞を取るためには、もっと、印象的な言葉が入っ

ているモノでないと駄目だ!」と言う。


 例えば、陽二さんのヒット曲の〈ごめんねジロー〉や

 ♪あなたが噛んだ小指が痛い…♪とかユーミンの〈中央フリーウェイ〉など地名

どが入っていて、聞いた人がイメージ出来る歌詞でないと駄目だと、言われた。


 ユーミンの〈中央フリーウェイ〉は、好きだったが、大阪には、そんな象徴的で

ムードのある場所は、あまりない。


 私は、〈見上げてごらん夜の星を)のような、心に沁みる詩が好きだったので、ま

ったく逆の歌詞には、嫌悪さえ覚えていた。


 「もう、出来ません」と断ったが、陽二さんは引かない。


 私は、嫌々ながら、どう云う経緯いきさつがあったのか、まったく覚えていないが、言い争いながら歌詞が出来、曲が出来て、フェスティバルホールで発表する

まで行った。


 私は、不本意な曲で、ただ恥ずかしいだけだったが、何故か二位の優秀賞を取っ

た。

 陽二さんは、喜んでいたが、私は、無感情だった。


 その時の、優勝曲は、やしきたかじんさんの〈長ばなし〉だった。

 〈長ばなし〉https://www.youtube.com/watch?v=JctN8lBCJg8


 


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