第4話 盗人

 今から二十五年前、春菜はるなさんが小学一年生のときの話だ。

 同じクラスに【カワキタ マミ】と【ユキエ】という誕生日が異なるふたご姉妹がいた。

 マミは七月生まれ、ユキエは一月生まれ。マミの父とユキエの母が再婚したため、連れ子同士が義理の姉妹になった。

 同い年とはいえ、顔の造りはもちろん、背格好が違う。姉のマミは色黒で小柄、ガリガリに痩せ細っていたし、妹のユキエは色白で大柄。

 ふたごで通すのは無理があったが、いつもお揃いの服を着せられていた。

“誕生日が違う、まったく似ていないふたご”は異様で、腫れ物のように扱われていた。

 マミの下から睨みつけるような卑しい眼差しが、春菜さんは苦手だったという。


「マミの手癖が悪くって。わたしの物を盗るんだよね。下敷き、鉛筆、消しゴム、はさみ、のり、おはじき、ノート、教科書、赤白帽子や体操服、ハンカチ、靴下……新しく買い換えても盗まれるからキリがない。母には叱られるし。学校に行くのが憂鬱だった」


 当時、一年生の持ち物にはすべて氏名を書くというルールがあった。

 担任教師が実施した抜き打ちの持ち物検査で、マミのランドセルや引き出しから春菜さんの私物が大量に見つかった。


「証拠を突きつけてもマミは悪びれなかった。盗んでいない。わたしと同姓同名の親戚がいて、お下がりを貰ったって言うのよ」


 次から次と嘘を重ねるマミを前に、春菜さんは過呼吸になった。そのまま、学校を休みがちになった。

 怒り心頭に発した春菜さんのお母さんは、校長室に乗り込んだ。

 ──いくつかの事実が明らかになった。


 ユキエの母が、血の繋がらないマミを疎んじて虐待していたこと。

 マミは春菜さんに憧れており、持ち物を盗んでいたこと。


「みんな、わたしが私物を盗まれたから、マミを怖がったんだって思っている。そんなんじゃあないのよ。 あいつは、わたしのを盗もうとした……わたしに成り代わろうとしたの」


 盗みを糾弾された際、春菜さんから盗んだ物を全身にまとったマミは、“これでわたし、春菜ちゃんになれるよね”と不気味に笑ったそうである。

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