第20話 亜空間生成:歓喜の瞬間
全てが揃った。 独自の錬金術符文。 最高強度の空間定着エーテル繊維。 そして、私の指示に従う四精霊たち。
「最終実験を開始するわ。フウ、ドット、エン、ミズ。全力を出しなさい」
私の声には、これまでの焦燥や苛立ちはなく、純粋な自信と、勝利への確信が満ち溢れていた。
私は、試作の袋に、ドットが生成した空間定着エーテル繊維を編み込み、その繊維の上に、私が考案した高次元の錬金術符文を、魔力で精密に描き込んでいく。符文が完成すると、袋全体が微かな光を放ち始めた。
「フウ。次元の裂け目を、今度は最大まで拡張しなさい。そして、その形状を、この符文の形に完全に合わせるのよ。高次元の構造を、三次元に顕現させるイメージで!」
フウは、銀の輪を掲げ、全身全霊で魔力を集中させる。彼の体から放たれる光が、符文に吸い込まれていく。
「ドット。符文の定着と、亜空間の境界の重力的な安定性を確保しなさい。空間結合剤としての力を最大限に!」
ドットは、袋に両手をかざし、そのずんぐりとした体から、大地そのものの重厚な魔力を放出し始める。符文が描かれた繊維が、まるで呼吸するように脈動し、空間そのものが形作られていくのが感じられた。
「エン。亜空間内部に、最も安定したエネルギー流を供給し続けなさい。時空の平衡を完璧に保つ。そして、外部からの干渉を完全に遮断する結界を構築!」
エンが宿る小型炉から、これまでにないほど安定した、しかし圧倒的な熱量が放出され、袋へと吸い込まれていく。部屋の空気が、まるで熱気に包まれたかのように揺らぐ。
「ミズ。亜空間内部のあらゆる不純物を、徹底的に浄化しなさい。そして、空間そのものの純粋性を極限まで高め、安定させる。完璧な空間を作り出すのよ!」
ミズが、袋に向かって、純粋な水の粒子を大量に放出した。その粒子が袋の中に入っていくと、空間の歪みが完全に消え去り、そこには、目には見えないが、肌で感じるほどの「無」の空間が生まれた。
そして、私の魔力が、四精霊たちの魔力と一つとなり、符文へと流れ込んでいく。
次の瞬間──
ドォォォォォン!!
部屋全体が、地鳴りのような音と共に大きく揺れた。 しかし、それは崩壊の音ではなかった。 空間が、新たな形を成したことを告げる、創造の音だ。
試作の袋が、脈打つように膨らみ、その内部から、わずかな光が漏れ出ている。それは、高次元空間が、三次元に顕現したことを示す光だ。
「成功したわ……!亜空間が、完全に安定した……!」
私の声が、歓喜に震えた。
私は、震える手で、袋の口に手を伸ばした。中を覗き込むと、そこには、何もなかった。だが、確かに「空間」が存在する。奥行きがあり、広がりがある。しかし、光は入らず、ただの闇が広がっている。
私は、試しに部屋にあった椅子を、袋の中に押し込もうとした。
椅子は、何事もなかったかのように、スッと袋の中に吸い込まれていった。袋の重さは、一切変わらない。
「入った……!本当に、入ったわ……!」
私は、椅子を取り出した。椅子は、何の変質もなく、元のままの姿で現れた。
「やりました、咲!亜空間が完成しました!すごいです!僕たちの力が、こんな風に……!」フウが、僕の肩の上で飛び跳ねる。
「主よ!我の作った繊維が、ついに役立ちました!この喜びは、何物にも代えがたいです!」ドットは、感極まったように地面を叩いた。
「グルルルル!さすがぬしだ!我の炎も、最高の形となったぞ!」エンが、小型炉の姿で、熱気を放ちながら喜んでいる。
「主の御力は、まことに素晴らしい。我の力も、ついにその真価を発揮できました」ミズは、静かに、しかし深い感動の表情で私を見つめた。
私の胸に、これまでにないほどの達成感が押し寄せた。それは、コンサルティングでどんな大プロジェクトを成功させた時よりも、深い、純粋な喜びだった。
膨大な試行錯誤の末、私の理論が、私の手で、現実となったのだ。
「完成よ……『無限収納ポシェット』の、基礎が……!」
私の瞳は、興奮と、次なる創造への野望で、ギラギラと輝いていた。 この力で、この不便な世界を、私の思い通りに変えてやる。 そして、私を侮辱した全ての人々に、私の「価値」を、嫌というほど見せつけてやる。
「無限収納ポシェット」の完成と錬金術ギルドへの挑戦
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