第16話 魔法教会へ、どうぞ

 彼を学長室の前まで案内する。


「ここです」

「ありがとう」


彼は三回ノックした後、返事を確認することなく入っていく。


「おお!久しぶりだな!元気にやっとるか?!」


学長であるシレミウス・ニドルフは立ち上がり、彼と熱い抱擁を交わす。


「相変わらず元気だな。ニドルフ」


彼も笑顔だ。

敵対関係ではないのか。

なら俺がついてくる必要もなかったな。


「座れ座れ。お、お前さんが案内してくれたのか。お前も中に入れ」


彼は俺をチラリと見てから


「彼に何か思い入れでもあるのか?」と言う。

その口調からして俺はこの場に相応しくないみたいだ。


「ああ。わしの息子になるな」

「おいおい。隠し子でも作ってたのか?」

「なに、養子じゃ。シレミニウス・アルフレッド。良い名前じゃろ?」


俺はどんな反応をすれば良いんだ。


彼はニドルフの前にあるふかふか高反発のソファーに腰掛けると手を組み、体を乗り出す。


「さっそくなんだが……俺とお前は長い付き合いがあるだろ?」

「ええい。そういう尺はいらん。本題を話せ」

「そうか。助かるな。俺の悩みはこれだ」


彼は一枚の写真をニドルフに差し出す。


「なんだ?この人物は?」

「魔法教会から裏切り者が出た。禁隠者きんいんしゃだ」

「なに?レベルは」

「レベルは4、だが5に指定する声もある」

「最大レベル?わしが生きとった間にそう多くないのにな」

「今も生きとるだろ。冗談みたいな蒸気だが、事態は深刻だ。そいつは失踪する直前から怪しい動きをしていたからマークしていたのだが……」

「間抜けよ」

「お前も俺の立場になれば分かるさ。無能を引っ張っていく辛さが」


彼はさらに一枚の写真を出す。

そこに映し出された女性にはどこか見覚えがあった。


「こいつを弟子にするとか言い出してな……。こいつは大犯罪者のもんだから断ったさ。そしたら3日の猶予を与えてほしい、と。何をするのかと聞くと未知のダンジョンである『アルストリツカの祭壇』の地下層に行くのに用心棒が欲しいとか言い出してな……。最初は弟子、次には用心棒。何かこいつが必要なわけがあるはずなんだ」


どこかで見たような記憶があるが……。

しかし背景の写真は刑務所だ。あり得ない。


「それで、お前さんは三日間の猶予を許したのか?」

「そいつは優秀だった。なんならその犯罪者を捕らえたのもこいつだ。だから俺は間違えた。『更生させようとしているのか』って」

「馬鹿じゃの〜」

「言いたきゃ言うが良い。他の奴らにはもう散々言われた」

「それで、わしに何をして欲しいの?」


彼は自分に付いていた五角形の紋章が描かれたバッジを取り外す。


「頼む。魔法教会に戻ってきてくれないか」


彼は先ほどまでとは違い、頭を深く下げている。


「一生のお願いだ。力を貸してくれ」

「嫌じゃな。あそこ窮屈だし」


彼は頭を下げ続けたまま


「頼む。一生のお願いなんだ」

「無理じゃな。わしもそいつらを捕まえれるか分からんし」

「お前なら絶対にできる」

「わしはもう前線から降りた」

「頼む」


思わず「助けてやれよ」と言いたくなるが我慢する。このジジイなら何か考えていることがあるはずだ。自分の利益を図るために。


「わしは無理じゃが……こいつならいけるぞ」


彼が指差した方向は俺だった。


「こんな子が?」

「こんな子ってどう言うことですか」

「いや、すまない。だがニドルフ。悪いが俺は本気なんだ」

「わしも本気じゃよ。こいつならわしぐらいはあるんじゃないか?」


彼は上から下まで舐め回すように俺を見る。


「いや悪いが俺には信じれない」

「なら見せてやれ。アドルフ」


見せるって言ったてな……。

俺は名も知らないその人に交渉を仕掛ける。


「達成依頼は?」

「ほらみろ!こいつはやる気満々だぞ?」


自分の足を叩き、笑っている。大笑いだ。


「何が欲しい。魔法教会にできないことはない」


ちょうど良かった。今欲しいものはある。


「金と最高のデートプランを」

「ほれみろ!金と女だとよ!さすがわしが育てただけあるなぁ〜。相手は誰じゃ?」


彼は頭を抱えて悩んでいる。


「悪いがこのじいさんの言うとおり俺ならできるぞ」

「俺には一切信じられない。このジジイの言い訳の道具としか思えないのだよ」


こいつは外部の人間だし、一回全力を出してみるか?俺も自分がどこまでやれるのか知りたい。


「なら俺の魔法、あんたに見せてやるよ。ダンジョン行こうぜ。がっかりはさせない」

「行ってやれ。若者の言うことは"たまに"本当だぞ」

「はぁ……。俺はをしたみたいだな」


俺はその言葉を聞きくと彼に近づき、答えてやる。


「ああ。最初から俺をあたれば良かったんだ」








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