第13話 何度でも賭けよう


 俺はそれを聞き、動きを止める。


「そうか。どの神に?」

「さぁ?私の両親は私と会話することも少なかったから」


彼女は、ばつの悪そうな顔をする。


「悪い」

「良いの。もうほぼ縁は切れたようなものだし」

「俺にはもう両親も血の繋がっている人物も誰もいない」


彼女は目を大きく見開き、こちらに近寄る。


「どういうこと?」

「全員死んだ。殺された」

「そんな……」

「今では受け止めてるよ。これが運命なんだって」

「見た目によらずと強いのね」

「どういうことだ?」

「私は……弱いまんまかな」


彼女は立っているのが疲れたのか、再びウッドチェアに腰掛ける。


「あんなに恨んでるし、それに血も繋がってない両親にも今だに気に入られたいってどこかで思っちゃってる」

「血が繋がってない?」

「うん。私、幼い頃にとある貴族に売られたから。実の両親の顔なんて覚えてないよ。でもあの言葉だけは覚えてる。『フェンリルの子供だ。高く付くだろう?』って」


彼女は二の腕を片手で慰めるように譲り始める。


「きっとあいつらは私がフェンリルの末裔だから魔法ができると思ったんだよね。だから現に、ここにいるわけだし。でもさ、私そんなに才能ないんだよね」


彼女は悲しい笑顔をする。無理をして笑っているんだ。その顔がどこか懐かしく、胸を割くように、母の顔と重なる。


「よく虐められたし、さ。家でも。家の使用人からも。『あんたは化け物の子』だって」


その言葉を聞いて嫌な過去が思い出す。


「でもさ、私、自分の両親も知らないんだよ。それなのに化け物の子って言われても意味わかんないし、それに娘がいるなら私を引き取らなくて良いじゃん。見える形で愛を差別化したって、したって」


言葉がつまり、なかなか話せずにいた。


「分かんないよ。私だって。何で生きてるのかなんて。でも、私、出会ったんだ。ここに来る前日に。たまたま街にアイドルが来てて、お世辞にも綺麗な服じゃなかった。魔法も使えないし、痩せこけてた。それでも、それでも彼女の歌声は美しかった。それに踊りで周りを魅了して、みんなから感謝されてた」


彼女はいつの間にか涙をこぼしながら


「私もなりたいって思った。みんなから感謝されるような。結局、愛されたいんだよ。私は」


彼女は立ち上がり鼻を赤くしながら


「ごめんね。変な話したよね。私ばっかり話して。でもみんなを楽しませたいっていうのはほんとだよ。だからアイドルは私の人生なんだ」


俺は服を捲り上げてヘソの辺りを見せる。


「ちょ、ちょっと何してるの?!」

「この紋章……何か分かるか?」


彼女はそれを見て思い出すように


「それって神のサインじゃ」

「そうだ。だけど別に神に選ばれた存在じゃない。俺の一族は神を殺した」

「え、それってまさか」

「『アルケミス』の子孫だ」


彼女は泣き止むと頭に手を当てて、少し高めの声で言う。


「うわぉ……とんでもないスーパースターだね」

「まさか。ただ俺は将来アルケミスを超える」

「超える?」

「必ずな。その時は俺に任せてくれ。お前のその義理の両親もフェンリル殺したやつも俺がやるから」


彼女は呆れたように笑いだす。


「そんなこと……。それでもその言葉、嬉しかったよ」

「今のうちに俺に賭けといた方がいい。オッズは高いはずだからな」

「そう?なら賭けちゃおっかな〜」


さて、そろそろ帰るか。やることも出来たしな。


魔女の夜ワルプルギスナハトで踊るんだろ?見にいくよ」

「もちろん。待ってるよ」


俺は入り口まで歩き、別れ際に


「困ったことがあったら俺に相談してくれ。いつでも相談のるから」と伝える。


「……ありがと。分かったよ」

「じゃあな」

「待って!……私達、お互いに名前知らなくない?」


が気になっているせいで忘れていた。


「俺は『フランツ・アルケミスト・アルフ』。アルフでいい」

「私は『フェイルン・ネア』。ネアでお願いね」

「よろしくなネア」

「よろしくねアルフ」






俺は足早に図書館に向かっていた。

あれがあるはずなんだ。少し前にちょうどフェンリルについて見たことがある。


そもそも彼女がフェンリルの子孫かどうか分からない。だがここは信じて見てもいいだろう。

それに彼女がそうであればなお面白い。


図書館に着くと勘を頼りに奥の方にあり、窓からギリギリ日差しの当たらない本棚に着く。


(確かこの3段目の赤い本に……)


答えはビンゴ。

そこにはフェンリルについて書いてあった。

やはりな。

彼女は水魔法が得意でないと言った。

「フェンリルは風を意図も容易く従えさせた……」と書いてある。そして「その風は巨人族の足を切る他、神々の不死の体に傷をつけ、支配した……」と記されている。


この本が正しいのか分からない。

ただ彼女はただものじゃない。

水魔法をあそこまで繊細に、かつ複数のことをこなしながらやるのは相当の集中力を必要とする。


どうにか風魔法を本気で使わせることはできないだろうか。


知りたい。

フェンリルがどれほどの魔法を、強さを持つのか。


焦るな。必ずやってくるはずだ。

何度でもそのチャンスに賭けよう。

チップを投げれる"手"がある限り。






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