第2話

ー魔界・某所ー


(本当に機械とやらは信用出来るのだろうか…)

男性の姿をした悪魔ーアルベールは悩んでいた。確かに、ロボットは使い勝手がいい。壊れてもすぐ直せるし、攻撃の際につかう火薬等の火器は魔法では無いので魔力を持つものを防ぐ魔法防護壁では防ぎきれない。そして、殺すことに対して何の感情も持たない。悪魔兵の中では殺戮に快楽を見出して暴れ回ってしまう奴も少なくは無いからな。それで何度作戦を練り直さなくてはならなくなったか…

「…なあ、お前はロボットがもっと広まったらこの戦いは終わると思うか?」

「えー?そりゃね。使わないよりは早く終わると思うよ?そもそも聖界と魔界の戦いって終わらせられるの?」

「もしもの話だ。かつては停戦していた時もあっただろう。」

ロボットを愛する彼に感化されたのか、今回の作戦を見てなのか、アルベールはそう言ってその場を離れた。


その翌日、アルベールはロボットの実用性について、まだ考えていた。魔法でも同じような代物を作りたいものだと。だが魔法は人によって適性があり、本質は魔力に属するものであるから魔法防護で守ることが出来てしまう。何よりも、実用化出来る程の量を確保するとなると相当な魔力量がいるだろう。それほどの数を用意できる悪魔は限られてくるし、他にやることが山積みになるだろう。


(そのような魔力量を使える程リソースが足りている訳ではない。となると、やはり…ロボットを量産した方が作った方が、いいのではなかろうか…)

先の戦闘でもロボットを使用したことにより死者を出さずに済んだのだ。と思考を巡らせていた。


「はぁ…」

「どうしたのですか?」

「ああ、ロボットについて考えていてな。このまま実用化に向けて動き出すよう上に訴えてみようかと。」

「はあ、あの人形共をですか?実用化したとて役に立つかどうか…ふふ、すみません、反対してしまって。ええ、私は賛成しますよ?確かにそれはこの魔界、この戦争において重要な鍵となるやもしれませんしね!」

「ルイス、お前ははっきりしないな…一体どっちの味方なんだ…」

「それは勿論、面白い方の味方ですよ?そのために人間を捨てて悪魔になったんですから。まあ、現実はそんなに甘くないんですがね。捨てられたら行く宛が無いのでアルベール様の味方をしますよ。」

「全く…とりあえず私はバルティオ様のところへ行ってくるから、後の事は頼んだぞ」

「はい。こちらの事は気にせす、どうぞ気の済むまで話してきてください。」

なんでこんな奴を側近にしたのだろうと疑問を持ちながらアルベールは元帥、バルティオの元へ行くのだった。


「で?その資源はどこから?時間は?それにどのくらいの人員を割くのだ?思いつきだけでは駄目だぞ。アルベール?」

「時間は長くて半年程、実用化には実際に機械が使われた頃を生きた元人間の悪魔が役に立つでしょう。戦車が出始めた時代から悪魔になった物と"案山子"と呼ばれている魔力を持たない者をお借りします。後者は居てもいなくても同じでしょう?」

「…何故そのように急ぐ必要がある」

「聖界に先を越されないようにする為です。閣下。いくら相手が機械のきの字を知らない頭でっかちな連中だとしてもその気になればどうなるか分からない。実際、機械やロボットの活躍で魔界側が勝っている作戦もあります。先に走り抜けた者が新兵器を作るのも早いはずです。

それに、ロボットは魔力を持たない殺戮人形、魔界内の他の国にも高値で売れますよ?他国にロボットをじゃんじゃん売り捌いていざ我が国に反逆しようとするようならロボット達に反乱を起こさせるように設計することも出来ます。」

「なるほど」

「ロボット技術に力を入れるということは聖界との戦争だけでは無い、未来で起こるだろう魔界での戦争の為の大きな投資なのですよ!閣下!どうか許しを!」

「まあ、良いか。許してやろう。だが金属は防具や魔道具の素材で消費される為資源が無い。よって技術部への金属の配当分は今から少しだけ増やすのみだ。"案山子"共も余りはたくさんいる。それでも足りなかったら募集をかけることだな。応募する奴はうじゃうじゃいるだろうよ。」

「ありがとうございます。閣下。」

「それと、機械技術部はお前の指揮下にする。どうせ人間しかいないからな。」

「はい?」

アルベールは思わずきょとんとした顔をした。

「どんな果実を実らすか、見ものだな。」

そう言うとバルティオは技術部への手紙を書き、飛ばした。

「待ってください!これは私が勝手にやったことですので彼らは関係ありません!わざわざそんなことしなくても良いではありませんか!何言われるか分かったもんじゃない!」

「俺を焚き付けたのはお前だろう?それに、あの連中はマッドサイエンティストしかいない爆弾のようなところだったからな。数々の作戦を指揮したお前が長を務めてくれるのが嬉しいよ。」

「はぁ…」

「分かったな?これは上官命令だ。分かったらさっさと行くんだな?」

一瞬アルベールを睨んでそう言ったバルティオはそう言った後に消えてしまった。残されたアルベールはこれだから悪魔は…と心の中で悪態をつきながら部屋を後にした。


ー魔界・機械技術部ー


普段は誰も来ない技術部棟に本部からの連絡が来た。

「?なんだ?」

「バルティオ閣下からの書類です。早く目を通すようにと。」

「了解した。感謝する。閣下から?どうしたんだ一体…」

その悪魔は訝しげにその書類を見ながら部長と思われる人物に渡す。

「部長、バルティオ閣下からの手紙だそうです。」

「ご苦労。なんでこんな所に閣下からの手紙が」

そう言いながら部長は封を切った。そして中に入っている文章を読み、こう言った。

「何故そうなった…?いや、最初はとても良いニュースなんだ。だがしかし…何故?」

「どうかなされたのですか?」

「いや、どうやらこちらに回される物資が増えるらしい」

「なんと!」

「そして…ここはアルベール公の下に置かれるらしい」

「…は?」

「へぇ〜?いいんじゃない?面白くなってきたねぇ♪」

「「何を言っているんだお前は!」」

この知らせに喜んでいたのはこの少年だけだった。そして…

「あのー…こんにちは…」

新しく上司となったアルベールが気まずそうに尋ねてきた。


ー聖界・会議室ー


「先の156中隊がほぼ壊滅状態になった件の話だが」

「ああ、それは作戦は成功したのだから良いだろう。」

「そう言う訳にもいかないだろう!なんだあの爆発する人形は!?あんなもの見たことがない!他にも似たようなものが戦場のそこかしこにある!いい加減に対策を考えなくては!」

「魔界軍にいる諜報員からの情報によるとこれは"ロボット"というものらしい。人間が作ったものだと。」

「はあ…では人間だった天使に聞くとしよう。…少しでも打開策が欲しいものだ。」

「だが、あんなもの魔法で焼き払わせればいいのではないか?魔法があるのにあんなもの作る悪魔達の気が知れませんな。」

「それもそうか」

「やはりこの件は後でいいだろう」

「しかし…」

「次の議題に移ろう。現在進行中の作戦についてだが…」

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