第8話 時雨まき遅れた恵み実を宿す(2025.10)

巻き戻る慈雨じう見上げては慈悲じひを乞う


梨割て二十世紀を懐かしむ


朝になく昼にもなくて夜に秋


雲遠くヨスガも遠く十五夜よ


燃え上がる夕日に染まる秋の空


夕映ゆうばえに炎想いし鰯雲いわしぐも


夜永さに日記の代わりコークハイ


ポケットにどんぐりコマを忍ばせて



*-*-*-*-*-*



初秋しょしゅうから願いと花弁かべん道消えて


未練捨て秋の夜ごとに花失せぬ


夢残り枯れ色の夜いま包む


長きや夢とうつつの隙間いく


世を忘れ星月夜ほしづきよへと手を伸ばす


夜寒よさむ滲み背中に触れぬ微睡が


日常が朝寒湯気あさざむゆげに飲み干され


涙なくただ肘ついて冬座敷ふゆざしき


憎悪秘めせい渇望かつぼう炎天下えんてんか


誰も見ぬ涙を隠し汗拭く



*-*-*-*-*-*



秋黴雨あきついりあけぼの色梅うめに湯気くらむ


秋風や柿葉かきは波紋はもん石榴ざくろ照る


夜市の朽葉くちばの色に 新酒しんしゅ満ち


滅赤けしあかの地下鉄跨ぎ松が待つ


金木犀きんもくせいトースト染むる淡き恋


秋霖しゅうりんの過去をなぐさむ熱き味



*-*-*-*-*-*



あい花手摘てつみの葉舞う幾何学きかがく


煙輪けむりわ藍鼠あいねずの空手に落ちる


黄櫨染はぜぞめの並木に響く魅せる音


秋入雨あきついり鈍色にびいろ軋む漕ぎ歌と


秋映あきばえ暗紅あんこうに立つ汁の湯気


二度寝してます注がれし萌葱酒もえぎしゅ



*-*-*-*-*-*



冬隣ふゆどなり霧を吸ひ霧と吐く息に


枯葉かれは踏み深緑ふかみどり混ぜ呼吸聴く


時雨しぐれ降る飴の静寂しじまにミント消え

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