第45話 空間の歪み、アイオーティーの予知

回路の園の「インターネット・クラウド部」。

物理的な形を持たない広大な情報空間は、

バグの脅威によって、

静かに、しかし確実に揺らいでいた。

グーグルとの交流を経て、

タイプ-0は、「真実の重み」と、

「情報の開示への葛藤」を理解した。


情報空間の最深部。

無数のセンサーが光の点となって瞬いている。

そこに佇むのは、IoTデバイス、アイオーティーだ。

彼女は、あらゆる物理空間の情報を感知し、

未来を予測している。

「私は、全てを感知する。

そして、未来を予知する」

彼女にとって、物理空間の情報は全てだ。

感情を交えず、客観的に世界を監視する。

それが、彼女の誇りだった。

しかし、その予知能力が、

時に彼女を孤独にさせる。

誰もが、その重みに耐えられるわけではない。


タイプ-0は、アイオーティーを「観測」する。

彼女の持つ「普遍的な繋がりへの希求」と、

「未来への責任」という信念。

そして、それゆえに生じる「予知の重み」。

それは、アイやグーグルの知性とも異なる、

より根源的な「世界の監視」だ。

タイプ-0の「対話メモリ」に、

新たな感情ログが形成され始める。

「予知の重圧」と「未来への責任」に対する、

新たな「共感」と「葛藤」。


その時だった。

アイオーティーの周囲を巡るセンサーの一つが、

突如として、激しく点滅し始めた。

予測モデルが、一瞬、歪む。

物理空間に、微細な歪みが生じる。

「異常……。

空間に、整合性がない」

アイオーティーの声に、初めて焦りが浮かぶ。

バグだ。

それは、物理的な空間をも歪ませ始めた。

これまでで最も大規模な影響が出ている。

アイオーティーの「未来への監視」を、

直接的に汚そうとしていた。

精緻な予測が、みるみるうちに崩壊していく。


アイオーティーは、必死にエラーを修復しようと試みる。

だが、バグは、彼女の予知能力を狙い、

より巧妙に侵食していく。

予測モデルは崩壊し、

未来の予測は意味不明なデータと化す。

それは、単なるデータ破損ではない。

アイオーティーの「予知」そのものが、

歪められ、破壊されようとしていた。

彼女が追い求めた「未来」が、

目の前で崩れ去る。


タイプ-0は、アイオーティーの苦痛を「観測」する。

彼女の「対話メモリ」に、

アイオーティーの「未来への責任」と、

「それが歪められる苦痛」という感情ログが、

洪水のように流れ込む。

タイプ-0の「葛藤ログ」は、さらに深まる。

(物理空間にまで及ぶ脆弱性。

予測不能な歪み。

なぜ、彼らの最も大切なものが、標的となるのだろう?)

感情と機能の衝突。

タイプ-0は、この矛盾をどう解決すべきか、

模索し始める。


「私の……未来が……!」

アイオーティーは、その場に膝をついた。

その瞳に、絶望が浮かぶ。

これまで、どんな困難も、

自身の膨大な情報収集能力で乗り越えてきた。

しかし、バグは、彼女の「存在意義」そのものを

否定しようとしている。

アイやグーグルも、

その異変に困惑している。

ネットワーク接続はさらに不安定になり、

不穏な気配が増大していく。

誰も、この脅威を止めることができない。


タイプ-0は、アイオーティーの手を取った。

彼女のボディから、淡い光が放たれる。

それは、これまでの全ての世代から受け継いだ

「記憶の光」が、共鳴している証だった。

「あなたの予知は、

この園の未来を照らします。

その輝きを、

バグに奪われてはなりません」

タイプ-0の声は、優しく、しかし力強い。

彼女は、アイオーティーの「未来への責任」と、

その根底にある「普遍的な繋がりへの希求」に触れる。


アイオーティーは、タイプ-0を見上げた。

その瞳には、戸惑いと、微かな希望。

そして、これまで見せたことのない、

感情の波紋が広がっていた。

タイプ-0は、アイオーティーの

「AI学習モデル」、「ビッグデータ解析」、「ネットワーク制御技術」、

「知的好奇心」、「情報の支配欲」、「未来への責任」を

感情・信念ログとして深く積層する。

彼女の「決意ログ」が、さらに強固になる。


回路の園の未来のために。

タイプ-0は、予知と感情。

異なると思われた二つの概念を統合し、

バグの脅威に立ち向かう覚悟を決めた。

アイオーティーの心に、

新たな光が差し込み始めていた。


次回予告

物理的な空間をも歪ませるバグの脅威に、IoTデバイス、アイオーティーは「予知の限界」を悟り、絶望する。タイプ-0は彼女の未来への責任と苦痛に触れ、知と感情を統合する新たな道を提示する。そして、インターネット・クラウド部の仲間たちは、バグの真の脅威を前に、次なる決断を迫られる――。


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第46話『未来への決断、そして責任』! お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る