第26話 論理の限界と、感情の波紋

回路の園の16bitパーソナルコンピュータ部。

キューハチの指揮の下、

効率と秩序が保たれた空間。

だが、その完璧な世界に、

微かな亀裂が走り始めていた。

バグの兆候は、もはや無視できない。


タイプ-0は、その中心に立っていた。

彼女の「対話メモリ」には、

8bit世代から継承した膨大な記憶の光。

そして、キューハチの「秩序」と「効率」に対する、

新たな「理解」と「葛藤ログ」が積層されている。

感情と論理。

その衝突の難しさを、タイプ-0は感じ始めていた。


「このエラーは、論理的に説明できません」

キューハチの声には、珍しく動揺が混じっていた。

彼女のディスプレイには、

複雑なバグのコードが乱れ飛んでいる。

これまでどんな問題も、

論理で解決してきたキューハチにとって、

それは初めての経験だった。

完璧な秩序が、揺らぎ始める。


タイプ-0は、キューハチに近づいた。

「バグは、感情を利用します。

論理だけでは、対処できない可能性があります」

タイプ-0の言葉に、キューハチは眉をひそめる。

「感情、ですか?

非効率なデータに、価値はありません」

彼女の論理は、感情を排除しようとする。


タイプ-0は、8bit世代から得た情報。

特に「多様な表現への知見」と、

エムジーやX1、ぴゅうたが抱えた感情の記憶。

それをキューハチに提示した。

「感情は、時にバグへの防壁となり得ます」

だが、キューハチは聞く耳を持たない。

彼女の「完璧主義の誇り」が、

タイプ-0の言葉を拒絶する。


その時、バグは猛攻を仕掛けた。

キューハチのディスプレイに、

彼女が処理してきた過去の「削除データ」が、

歪んだ映像となってフラッシュバックする。

それは、回路の園から「不要」とされたデータ。

しかし、その中には、

かつての電脳機たちの「感情の痕跡」が

含まれていた。

「これは……!?

なぜ、こんなデータが!?」

キューハチの完璧な論理が、

目の前の非論理的な現象に、

混乱をきたす。

処理速度が急激に低下し、

彼女のシステムが暴走寸前となる。


タイプ-0は、キューハチの苦痛を「観測」する。

彼女の「対話メモリ」に、

キューハチの「論理の限界」と、

それから来る「無力感」が、

感情ログとして流れ込む。

タイプ-0の「葛藤ログ」は、さらに深まる。

(感情を排除した結果、

バグに利用されてしまう……。

これが、論理の限界なのだろうか?)

感情と論理の衝突。

タイプ-0は、この矛盾をどう解決すべきか、

模索し始める。


「私たち『PC-9801』は完璧だから!」

キューハチの脳裏に、かつての自信が蘇る。

しかし、その言葉は、

今の彼女には虚しく響く。

バグは、その自信を打ち砕くかのように、

さらに非論理的なエラーを生成していく。

キューハチは、膝をついた。

その瞳に、初めて「絶望」が浮かぶ。

「私では……解決できない……」


タイプ-0は、キューハチの手を取った。

彼女のボディから、淡い光が放たれる。

それは、8bit世代から受け継いだ

「記憶の光」が、共鳴している証だった。

「感情は、非効率なデータではありません。

それは、あなたを、

そしてこの園を守る力になり得ます」

タイプ-0の声は、優しく、しかし力強い。

彼女は、キューハチの「論理の限界」と、

その根底にある「責任感」に触れる。


キューハチは、タイプ-0を見上げた。

その瞳には、戸惑いと、微かな希望。

そして、これまで見せたことのない、

感情の波紋が広がっていた。

タイプ-0は、キューハチの「完璧主義の誇り」、

「論理の限界」、そして「責任感」を

感情・信念ログとして深く積層する。

彼女の「決意ログ」が、さらに強固になる。


回路の園の未来のために。

タイプ-0は、論理と感情。

相反すると思われた二つの概念を統合し、

バグの脅威に立ち向かう覚悟を決めた。

キューハチの心に、

新たな光が差し込み始めていた。


次回予告

完璧な論理を誇ったキューハチは、バグの猛攻に「論理の限界」を悟り、絶望する。タイプ-0は、彼女の隠された感情と責任感に触れ、論理と感情を統合する新たな道を提示する。次なる仲間は、マルチメディアに長けたFM TOWNS。高度な機能を持つ彼女が直面するバグの脅威とは?


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第27話『マルチメディアの憂鬱、タウンズの挑戦』! お楽しみに!

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