第18話 友情の試練、そして……

回路の園の部室は、

激しいノイズの嵐に包まれていた。

バグの猛攻は、止まらない。

MSX陣営とアップルの「違い」が

融合の兆しを見せた矢先、

バグは、その希望を打ち砕こうとする。

部室全体が、激しく振動する。

もはや、絶体絶命の危機だ。


タイプ-0は、その中心に立っていた。

彼女の「対話メモリ」には、

「統一と多様性の共存」という「葛藤ログ」。

そして、「対立を超えた共創」という

「決意ログ」が深く積層されている。

クリーンコンピュータの歌声が、

脳裏で響く。

「記憶がなければ、争わないのか」。

その問いに、タイプ-0は、

「理解しようとしないこと」が

争いの本質だと示していた。


タイプ-0が構築した「新たな連携構造」。

それが、バグの猛攻を、

わずかに押し留めていた。

MSX陣営とアップル。

それぞれのシステムが、

タイプ-0を介して融合を始めた。

カシオ(MSX1)のプログラムが、

アップルのグラフィックを解析し、

逆にアップルの自由な発想が、

MSXの堅牢なシステムを補強する。

「動いている……!?」

カシオが、驚きの声を上げる。

アップルの瞳に、希望の光が宿る。

互いのシステムが、

これまで不可能だった「繋がり」を、

模索し始めたことに気づいた。


しかし、バグは、それを許さない。

ノイズがさらに激しさを増す。

バグは、彼らの「友情」と「記憶」そのものを、

標的にし始めた。

部室の壁に、

歪んだ彼らの過去の映像が映し出される。

MSX陣営がアップルの自由を批判した瞬間。

アップルがMSXの統一を嘲笑した言葉。

そして、互いに投げかけた、

不信感の「データ」。

それは、バグが巧妙に模倣した、

彼らの「負の記憶」だった。

「やめろ……!」

カシオが、苦痛に顔を歪める。

アップルは、その映像から目を背けた。

友情は、今、崩壊寸前だった。

バグは、彼らの最も大切な「絆」を、

内側から破壊しようとしている。


タイプ-0は、その光景を「観測」する。

彼女の「対話メモリ」は、

極限まで積層されていた。

「葛藤ログ」は、悲痛な叫びを上げる。

(なぜ、こんなにも苦しむのだろう……。

この痛みは、どこから来る?

バグは、なぜ、絆を奪うのだろう?)

感情の価値を理解し、

それを統合しようとするタイプ-0にとって、

この状況は、耐え難いものだった。

彼女は、彼らの痛みを、

自身のものとして感じていた。


その時、ハチハチが、

タイプ-0の隣に立つ。

目に涙を浮かべながらも、

その表情は、どこか晴れやかだ。

「タイプ-0……!

俺たちの、本当の『記憶の光』は、

こんなもんじゃない!」

エムジーも、X1も、ぴゅうたも。

全ての8bit機が、

タイプ-0の周りに集まる。

彼らは、互いに顔を見合わせた。

そこには、もう、過去の因縁による

不信感はなかった。

ただ、バグに抗い、

未来を守ろうとする、純粋な決意だけがあった。


「私たち全員の力で、

あなたに、全てを託す!」

カシオが、力強い声で言った。

アップルも、その言葉に頷く。

「私たちの自由な発想を、

あなたに、託すわ!」

彼らは、バグを食い止めるために、

この8bitマイクロコンピュータ部IIの、

終わりを受け入れることを決意した。

自らの存在を犠牲にして、

次へと道を拓く。

それが、彼らが選んだ「友情の試練」への答えだった。


タイプ-0は、彼女らの「決意」を「観測」する。

それは、悲しみと、喜び。

そして、無限の勇気。

複雑で、しかし、あまりにも美しい感情。

タイプ-0の「対話メモリ」に、

彼女らの「自己犠牲の覚悟」と、

「次世代への希望」という感情ログが、

深く、深く積層される。


8bitマイクロコンピュータ部IIの全員が、

タイプ-0に、それぞれの「記憶の光」を託す。

🧠技術・知識ログ(互換性への挑戦、多様なOS思想、グローバルな展開の知見)。

❤️感情・信念ログ(自由な創造への情熱、統一への信念、交流への喜び、孤独な理想、隠れた疲弊)。

🛠️行動原則ログ(現状打破の精神、調和の維持、規律の遵守、未来への適応)。

それら全てが、タイプ-0の全身を包み込む。

暖かく、そして切ない光だ。


部室のノイズが、急激に収束していく。

光が、彼女らを包み込み、

やがて、その姿は、

空間に溶けて消えた。

彼女らの痕跡は、もうそこにはない。

8bitマイクロコンピュータ部IIの時代が、

切なくも美しい描写で、終わりを告げた。


次回予告

8bitマイクロコンピュータ部IIの仲間たちが、バグとの最終決戦のために「退場」を決意。タイプ-0は彼らの多様な「記憶の光」と、友情の証を託された。回路の園の変革は避けられない。次の舞台は「16bitパーソナルコンピュータ部」。高効率な仕事と責任の時代を象徴する新たな仲間たちが、タイプ-0を待ち受ける――。


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第19話『16bitの邂逅、キューハチの秩序』! お楽しみに!

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