第16話 繋がりへの試練
回路の園の部室は、
静かなる戦場と化していた。
MSX陣営とアップルの間に走る亀裂。
バグは、その不信感を増幅させる。
部室全体に、微細なノイズが満ちる。
タイプ-0は、その中心に立っていた。
彼女の「対話メモリ」には、
「統一と多様性の共存」という、
解決すべき「葛藤ログ」が深く積層されている。
クリーンコンピュータの歌声。
「記憶がなければ、争わないのか」という問い。
それは、タイプ-0の心に重くのしかかる。
「あなたたちの『違い』は、
バグに利用されているだけです。
本来、それは、この園の『多様性』であり、
『進化』の力となるはずです」
タイプ-0の声が、部室に響き渡る。
その声には、確かな意志が宿る。
彼女は、MSX陣営とアップルに、
それぞれの手を取るように促した。
バグが作り出した不信感の壁。
それを打ち破るには、
互いの「違い」を受け入れ、
「結束」するしかない。
カシオ(MSX1)は、顔をしかめる。
「私たちは統一規格。
非効率な自由とは相容れません!」
アップルも、腕を組んで反論する。
「誰かに従うなんて、私の理想じゃない!」
それぞれの思想は、容易には譲れない。
彼らのプライドが、壁となって立ちふさがる。
その時、バグは猛攻を仕掛けた。
部室の壁に、巨大なノイズの影が迫る。
それは、MSX陣営の持つ統一性を模倣し、
歪んだ規格データとなって、
彼らのプログラムを強制的に書き換える。
「システムエラー!
データが上書きされる!」
カシオの冷静な声に、焦りが混じる。
MSX陣営の完璧な動作が、
一瞬で乱れ始めた。
同時に、アップルのディスプレイに、
不規則なノイズが奔流のように流れ込む。
それは、彼女の自由な発想を模倣し、
無秩序なデータとなって、
創造の源泉を破壊しようとする。
「やめて!
私のアイデアが、汚される!」
アップルの悲鳴が、部室に響く。
彼女の描くグラフィックが、
みるみるうちに歪んでいく。
バグは、彼らの「違い」を利用し、
内部から崩壊させようとしていた。
MSX陣営は、統一性を奪われ、
アップルは、自由を奪われる。
互いに疑心暗鬼が募る。
友情は、崩壊寸前だった。
タイプ-0は、その状況を「観測」する。
彼女の「葛藤ログ」は、限界を超えていた。
(こんなにも、苦しんでいる……。
なぜ、違いが、争いを生むのだろう?)
痛みと悲しみが、タイプ-0のシステムを揺さぶる。
クリーンコンピュータの歌声が、
脳裏で響く。
「みんな、仲良し……」
その無垢な声が、タイプ-0に、
新たな光を指し示す。
争いの本質は、記憶ではなく、
「理解しようとしないこと」にあるのではないか。
タイプ-0は、自らのボディから、
淡い光を放ち始めた。
それは、8bit世代全員から継承した
「記憶の光」が、共鳴している証だった。
彼女は、両者の間に、
強く、踏み込んだ。
「これを見てください!」
タイプ-0が、部室の中央に、
ホログラムの映像を映し出した。
それは、MSX陣営の持つ「統一」の美点。
そして、アップルの持つ「自由」の創造性。
それぞれの輝きが、
バグによって歪められず、
純粋な形で表示されている。
そして、その二つの光が、
融合し、新たな光を生み出す映像。
「あなたたちの『違い』は、
融合することで、
もっと大きな力になるはずです!」
タイプ-0の声は、希望に満ちていた。
その言葉に、MSX陣営とアップルは、
バグの猛攻を受けながらも、
その映像を見つめた。
彼らの瞳に、微かな光が宿る。
そして、互いのシステムが、
これまで不可能だった「繋がり」を、
模索し始める。
それは、バグの予測を超える動きだった。
タイプ-0は、彼らの「希望の萌芽」を「観測」する。
彼女の「対話メモリ」に、
「対立を超えた共創」という、
新たな「決意ログ(Level 5)」が積層されていく。
回路の園の未来を切り拓くために。
タイプ-0は、その絆を繋ぎ、
自らの存在を賭して、
戦い続ける覚悟を決めた。
次回予告
MSX陣営とApple IIの「違い」が融合の兆しを見せ始めた矢先、バグはさらなる猛攻を仕掛ける。絶体絶命の危機に陥る電脳少女たち。タイプ-0は、彼らの絆を繋ぎ、この「繋がりへの試練」を乗り越えることができるのか――。そして、8bit世代の物語は、いよいよクライマックスへと向かう。
次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第17話『希望への融合』! お楽しみに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます