煩悩寺の白骨和尚と妖女たちと巻き込まれ少年
昭和からヲタってたおぢさん
第1話 話田舎に越してきたら骨が住職だった件
彼の名前は
父はブラック企業に魂をすり減らし、ついにリストラ。小山田家は、暗黒時代に突入――かと思いきや。
「
と、あっさり引っ越しが決定。場所は
しかし職場はホワイト、肩書は主任。毎日定時帰りで、父はみるみる人間の顔色に戻っていく。
引っ越直後の虫と野生動物の歓迎は少々手荒だったが編入した小さな高校は雰囲気も良くクラスにも馴染めそうだった。
「いやー、絶土町来てよかったー」
蓮は胸をなでおろし、田舎町の景色を感慨深く見つめていた。
……しかしそこに、母からの爆弾が落ちた。
「蓮、バイトの話がきたわ。煩悩寺の寺男。週3で泊まり込みよ」
「は?寺男!?なんで俺が!?」
「この町じゃね、困りごとは煩悩寺、お弔いは平穏寺って決まってるの。煩悩寺に縁ができるなんて名誉なことよ。将来、地域での発言力もつくわ。」
つまり、田舎で生きるには寺のコネ必須ってことか。
でもな……蓮の脳裏に浮かんだのは、坊主に抹香臭い説教されながら草むしりさせられる未来。
「……地域でおだてられて調子に乗った説教好きの爺さんの介護バイトじゃないだろうな……」
これから介護とは全く違ったベクトルの苦悩に襲われることを、彼は未だ知らない。
煩悩寺の門をくぐった蓮を出迎えたのは、水色の作務衣にエプロン姿の20代にも40代にも見える年齢不詳の女だった。
軽くウェーブしたショートボブの髪は妙に豊かで、瞳はどこか水底のような深い色をしている。
「お、お嬢さんですか?」と蓮は戸惑いながら声をかけた。
女はニヤッと笑い、濡れた手の甲で鼻をこする。
「んー、ま、女中…みてえなもんだ。
言うやいなや、くるりと振り返る。その時、蓮の目に妙なものが映った。
寧々子の指の間、ほんの一瞬だけだが、膜のような水かきが見えたのだ。
空気が揺らぐように、それはすぐに消えてしまった。
「(……今の何だ?見間違い……じゃないよな)」
寧々子は肩越しに蓮を見やり、口元に笑みを浮かべた。
「なるほど、おめえ、そっちの方か」
蓮は思わずたじろいだが、そのまま奥へと案内される。
奥の方から聞こえてくるのは、住職と女中のそれとは妙に親密な会話だった。
「和尚、襟!襟!ゆがんでるぞー」
「ほっほっほ、ちと顔が近いぞ、まだ夕方じゃ。」
「よし!いい男んなったぜ!」
「なんか住職と女中にしては距離が近すぎるような…愛人?」
さらに廊下をコツ…コツ…と歩み寄る乾いた足音が耳に入る。
「(この音……室内で下駄でも履いてんのか?)」
やがて見えたのは――細身の僧衣をまとった、顎髭を蓄えた骸骨の僧。
素足、いや、骨だけの足である。それが木の廊下に乾いた音を立て、蓮の前に立ちはだかったのだった――!
「ほねえええええ!?」
「やはり『見える』か。わしは
「でかくて当然だよ! なんで骨が喋ってんだよ! しかも何、住職!? この寺、ガチでアンデッド経営!?」
「鎖で縛り上げられて無理やり即身仏にされた結果、こうなったので否定せんが……」
「強制即身仏って普通に処刑じゃん!」
「煩悩とは尊きもの。生きたい、食べたい、酔いたい、遊びたい、女体を見たい、女人に触りたい、女人を抱きたい。すべて、仏道なり」
「うさんくさっ!!」
すると和尚は、急に手を合わせ――
「――して、その干物屋の倅。寺男の仕事、たのんだぞ。」
「いや、怖いんですけど!?やんなきゃダメなんですか!」
「我らの認識阻害をこれ程容易く抜くということはそれだけ異界が『見えてしまう』、『解ってしまう』素地が有るということ。なればこそ、この寺で過ごし、我らのように人間に害意薄く、且つ力の有る存在と交流を持つことは必要じゃぞ。この地で生きて行くならばな。」
「この地って、一体ここどういう土地なんですか!」
和尚が言う「現世が絶え、異界と重なり会う地、
煩悩寺よ。」
寧々子が言う「ま、宜しく頼むぜ。あ、あたしは晩飯作ったら川の方に帰るから夜はいねー時もあるぞー。」
その手の水かきも既に蓮にははっきり見えていた。頭に河童の皿は無いようだが…
寧々子「頭、見んな!」
ズラのようである。
そんなわけで――蓮はその日から、骨の住職が経営しその愛人?の河童が女中を務める煩悩寺で、寺男のバイトをすることになった。
そしてこの田舎町、「絶土町」は、鬼女が町を歩き、化け狸がタバコ屋を営み、
果ては氏神本人が茶飲み話にやって来る、
そんな“フツーに神霊妖怪と暮らす町”だったのである――
続く……
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