学年一のイケメンと、私だけの関係性

Reraiado

第1話

高校2年になってから少しした頃。授業中の暇な時間、こういう時は何故か全く関係のない過去の出来事を思い出す。


『美咲ちゃん!大きくなったら絶対結婚しよ!』

『うん!絶対結婚する!』


幼い頃の記憶、幼稚園でお互い好き同士だった男の子との何気ない会話をふと思い出す事がある。高校生にもなればその子の名前や、顔なんかは忘れちゃってて、言葉だけを何故か覚えてる。


机に肘をついて窓の外の景色を眺めながら、1人でだんだん顔を熱くする。


(あー…今思い出しても恥ずいなぁ…)


授業が終わってお昼休みになると、高校で仲良くなった石井いしい由香ゆかが声をかけてくれる。


「ねぇ美咲、お昼食べよ〜」

「あ、由香。良いよ〜どこで食べる?教室?」

「今日天気良いし、中庭で食べん?」

「あー良いかも、行こっか」


弁当を持って私と由香で中庭に向かっていると、ふと忘れ物に気づく。


「あれ…?やばい箸無い、カバンの中に忘れてきたかも」

「マジ〜?私先行ってベンチ取っとくよ?」

「うん、お願い。ごめんすぐ行くから」


そう言って自分のお弁当を由香に渡して教室に駆け足で戻り、自分のバッグを探してみるが見つからなかった。


「え〜箸無いんだけど…」


思わず独り言が零れると、それを聞いた近くの男子が声をかけてくれる。


「箸無いの?俺、割り箸余ってるけど」

「ほんと!?」


そう言って顔を上げると、170cm近い身長に、スポーツをしているのかがっしりとした体型、毛流れセンターパートで、後ろ髪は綺麗に刈り上げられた男子が居た。


「あ、えっと…久我くが亮介りょうすけくんだよね?」


まだクラスが変わったばかりで同じクラスだとしても、相手の名前がちゃんと合ってるか少し不安になりながら聞いてみる。


「そう。そっちは…松井まつい美咲みさきで合ってる?」

「うん、合ってるよ。それで〜…割り箸余ってそう?」

「ん、ちょっと待ってて」


そう言って久我くんはカバンの中をゴソゴソと漁っている。1年の時は久我くんと別のクラスだったけど、その時から何となく知っていた。名前は聞いた事あって、同じクラスだった子が何人か顔がタイプだって言ってた。


(確かに、やっぱりイケメンだな〜…落ち着いてて、なんか年上に見える)


久我くんは他の同い年の男子とは違って、落ち着いた性格で寡黙なタイプ。他の男子はこの時間大きい声ではしゃいだりしてて、そういう男子は少し苦手だけど、久我くんは静かだから好きな方。


「はい、一応袋に入ってるから大丈夫…だよね?」


そう言ってコンビニの割り箸を私の前に差し出してくれる。個包装なので、衛生面とかの部分はあまり心配せず、安心して貰う事が出来た気がした。


「ありがとう!あ、久我くんの箸は大丈夫?」

「俺のもちゃんとあるから大丈夫。それ忘れた時用のだから」

「そっか!ありがとね」


安心してご飯を食べれる嬉しさからか、自然と笑顔になりながら、久我くんから貰った箸を持って中庭に居る由香の元へ向かう。


「お、箸あった?」

「家に忘れちゃってたぽくて、割り箸貰った!」

「マジ?優しいね〜誰から貰ったん?」

「久我くん!」

「お〜久我か、1部の女子が聞いたら嫉妬されそうだけど」

「やっぱりそうなの?」

「まぁ久我はモテるタイプだし、そういう子が居ない訳じゃ無いと思うから」

「じゃあ気をつけないとだ」


久我くんの事を由香と話しながら、お弁当の中にあるご飯を食べていく。


「なんで由香って久我くんの事、久我って呼んでるの?仲良いから?」

「ん?別に普通じゃない?君付けするのってなんか距離感じるし」

「そっか〜…でもいきなり苗字だけで呼ぶのは…」

「まぁ別に言われたら直すで良いんじゃない?それか直接聞くか」

「そう…だね、うん…また機会あったら聞いてみる」

「頑張れ〜あ、そうだ…美咲ってバイトとかしないの?」


少し前に由香にバイトの事について聞いたのを思い出したのか、由香がバイトについて聞いてきた。化粧品とか色々買いたいし、高校生活も落ち着いてきたので、ある程度したいと思っていた。


「バイトか〜…何が良いかな?飲食とか?」

「ん〜やっぱ家から近い所の方が、色々楽じゃない?バイトって基本スカートダメだし、1回家帰って制服から着替えて行かないと。それなら家から近い方が良いじゃん?」


確かにバイトの度に着替えを持っていくのは面倒だし、家から近い方が色々な面を考えても楽になる。


「そっか〜じゃあコンビニにしようかな」

「良い感じの人との出会いもあるかもよ?大学生の人とか!」

「確かに!なんか大学生の人ってコンビニでバイトしてるイメージあるかも」

「私、今のバイト先で気になってる人居るもん」

「嘘!?由香なら絶対行けるよ!どんな人?」


私がそう聞くと、由香は少し恥ずかしそうにしながらも気になっている人の事を話してくれた。話している時の由香はすごく可愛くて、恋する乙女って感じ。


(いいなぁ〜…もう高2だしそろそろ私もバイトも恋愛もしたい…)


「よし、じゃあ私もコンビニのバイトする!」

「ほんと!?どこら辺の!?受かったら見に行く」


一瞬だけ由香と同じバイトにしたいと思ったけど、由香がその人と上手く行かなかった時どうすれば良いか私にはまだ分からないし、自分の家と反対方向なので、とりあえず家の近くのコンビニの様子を見てみる事にした。


その日の帰り、家から1番近いコンビニでは無く、少し離れたコンビニに応募をする事に決めた。


(いつも使ってる所だと顔覚えられてるだろうし、辞めたら気まずそうだし…)


丁度店の前にバイト募集の張り紙が貼ってあったので、写真だけ撮って家に帰り、電話をかけて応募し、バイトの面接も決まってその日になり、いよいよ店に入る。


「すみません、バイトの面接で」

「あ、はい。こちらにどうぞ」


そう言われてお店の裏に入れてもらい、30代程の男性の人が面接をしてくれる。


「面接を担当します、ここのコンビニの社員の石塚です。よろしくね、全然緊張しなくて良いから楽にして良いよ」

「あ、はい!」


そう言われたけれど、初めてのバイトの面接なのだから緊張はする。緊張しながらも椅子に座って履歴書を渡し、練習した自己紹介をする。私の自己紹介を聞きながら履歴書に目を通し、色々な所を見ている。


「なんでバイトしようってなったの?」

「えっと〜…化粧品とか色んなの欲しくて」

「お〜良いね、高校生って感じで。一応聞くけど、今までどっか他の所でバイトしてたりとかある?」

「いえ、まだ無くて…」

「そっか〜…あ、この高校、うちにも同じ所の子居たよ確か。同い年の」

「え、ほんとですか!?」


この辺の近くだとしたら同じ中学だと思うけど、中学が同じの同級生は居なかったはず…


「久我くん。知ってる?久我〜…亮介くん」

「え!?あー…!同じクラスです」

「おーマジ?凄いね。彼、1年の時からここで働いてくれててさ、結構助かってるんだよね」

「そうなんですか!すごい…」

「うち高校生が久我くん以外居なくてさ、良かったら久我くんと仲良くしてくれる?」

「え…それって…」

「まぁ採用という事で、よろしくね。いつ頃から来れそうかな?」

「えっと…来週頃から、ですかね」

「あ〜じゃあ火曜日とかどう?久我くん居るし、ある程度久我くんから教わる感じで」

「はい、分かりました!お願いします」


そうして思ったより面接の時間は短く、さらにその場で合格になりバイトをする事が決まった。


(採用とかってその場で言われるんだ…てゆーか久我くん居るってどゆこと…)


思わず同姓同名の別人なのでは無いかと思ったけれど、緊張しながら向かった初バイトに来た時にお店の裏に入ってきたのは、学校で見た事のある久我亮介くんだった。


「あ…やっほ〜…」

(やっほ〜って何!?なんて話しかければ良いか分かんなかったけど、それは流石に無い!!)


「お、松井、今日からここでバイト?」

「あ、うん。平日の夕方に…」

「あ〜久我くん、松井さんに品出しとか軽く教えてあげてくれる?」

「あ、は〜い」


久我くんは私の後ろに居る石塚さんに、明るい笑顔で返事をした。それを見て私の頭の中は一瞬止まってしまった。


(ん?あれ、なんか久我くんめっちゃ笑顔だった…学校であんな感じなの見た事無い…よね?)


「制服、女子のはこっちね。これ着て、で名札のバーコードPCで読み取って出勤」

「あ、うん…」


私に対しては、学校と同じ感じの接し方で、まるで私の気のせいかと思うものだった。


そうして初めてコンビニの制服を着てレジに立つ。分からない事もかなり多かったけど、仕事の内容とかそれよりも、自分の頭の中は別の物で埋まっていた。


最初は久我くんが読み取った商品を袋に詰めながらサポートをする。コンビニでの久我くんは、学校の雰囲気とは全然違ってお客さんに笑顔で接してるし、常連さんっぽい人とか、色んな人から人気もある様子だった。


(会話とかして良いのかな…仕事中だからダメかな…)


品出しも終わって、お客さんも少ない時間、あまりやる事が無いこの時間は、久我くんに色々質問してしまいたくなる。でも今は並んでいる商品を綺麗にしに行っている。


話しかけたい気持ちを抑えながらレジ前に立っていると、石塚さんから声をかけてくれた。


「どう?初めてのバイト、緊張してる?」

「あ、はい…!緊張は今はそんなにです!」

「久我くんって学校ではどうなの?クラスの中心人物的な感じ?」


確かに今の久我くんは、クラスの中心人物になりそうな明るい感じで、私だってそう思う。


「えっと…学校だと静かで、あまり表情とかも変わらないタイプです」

「え、そうなの!?凄い意外だなぁ…あ、こういうのってあんま聞いちゃダメか、ごめんね」

「あ、いえ…全然」

「お客さん居なかったら、久我くんと話しても良いからね。この時間はお客さんあんまり来ないから」

「ありがとうございます…」


そう言って石塚さんは、ドリンクを補充しに行った。それと入れ替わりで、商品棚を綺麗に並べた久我くんがレジに戻ってくる。


「久我くんって家この辺なの…?」

「ん?あ〜…ちょっと遠いかな、2駅位」

「そうなんだ…なんで、このお店にしたの…?」

「それはまぁ、秘密かな〜」


そう言って久我くんは、小悪魔の様に笑いながら呟いた。


「そうなんだ…凄い気になる」

「あ、いらっしゃいませ〜!ほら、松井も言って」

「い、いらっしゃいませ〜…」

「…恥ずい?」


そう言われ、私は顔を熱くしながらも頷く。


「まぁ気持ちは分かる、俺も最初はそうだったし」

「ごめん…」

「謝んなくて良いよ」

「久我くん、なんか学校と印象全然違ってびっくりした…」

「あ〜まぁそうかもね、俺人見知りだから」

「こっちがほんとの久我くんって事?」

「さ〜…?どっちだろうね」


そう言った直後、お客さんがレジにやってきた。


「「ありがとうございました〜」」


レジの横にあるフライヤーから、廃棄の揚げ物を取って袋に入れていく。


「松井、なんか廃棄居る?」

「え、あ〜…」

(どうしよう…揚げ物か〜…ちょっと色々気になっちゃうからやめとこうかな…)

「大丈夫!私は無くて良いかな」

「そっか」


それからも仕事をある程度こなし、初めてのアルバイトが終わった。PCで退勤をして、久我くんが先に出ていく。


「お疲れ様で〜す!」

「あ、お疲れ様です」


私も鏡で前髪をチェックしたりした後、お店を出る。夜の22時を超えて、当然外は真っ暗だった。


「あ、やっと来た」


その声を聞いて思わず声がした方を見ると、久我くんが駐車場とコンビニの間にあるポールに腰掛けていた。


「あ、今日はありがとう。色んな事教えてくれて」

「別に良いよ」


黒のスウェットを捲った腕にはシンプルなデザインの腕時計をしていて、コンビニからの電気で薄らと照らされた腕には少し血管が浮き出ていた。うっすらと光る金色のネックレスもアクセントになって、私の視線を奪ってくる…


「駅の方まで行く?」

「あ、うん…私の家、駅の向こう側だから」

「俺も電車乗るから駅まで送るよ……あ、もしかして…自転車?」

「そう…だけど、一緒に歩こ?」

「ん、ありがと」


そうして私と久我くんは駅の方まで、約10分程一緒に歩く。私は自転車を押して2人きりの時間を楽しむ。


少しでも久我くんとの時間を楽しむ為に、私がいつもより遅めに歩いてみると、久我くんも歩くペースを合わせてくれる。


「松井の家が駅の近くなら、駅前にもコンビニあるけど、そっちにしなかったんだ?」

「まぁ、なんかあって辞めちゃったら行きづらいじゃん?」

「あ〜確かにそうかも」

「久我くんこそなんで駅前の方じゃないの?」

「俺も似たような感じだよ」

「絶対嘘じゃん、それ」


私はそう言いながら勝手に色々考えて、一人でモヤってしまう。


(こういうのって、これ以上聞いちゃダメなやつだよね〜…すっごい気になるけど)

「ていうか廃棄何貰ったの?」

「揚げ物とか、弁当とか色々」

「凄いいっぱいだね、夜ご飯?」

「まぁ、そうだね。後は朝ごはんもかな」


こうして話しているのは、バイトの時間なんかよりも遥かに一瞬で、気づけば駅前に着いていた。


「あ、そうだ。松井、インスタ交換しよ」

「へ…あ、うん」

「連絡先知っといた方が、シフトの連絡とか楽だろうし」

「あー…それね」


そうして私はスマホを取り出しながら、ふと疑問に思ったことを質問する。


「グループLINEとかやらないのかな?そしたら楽そうなのに」

「あー…確かに、何故か無いよね。まぁ良いんじゃね」

「え、じゃあ普段はどうしてるの?」

「店に直接電話とかしてるかな。石塚さんに言ったら、代わりの人探してくれるから」

「へー、なんか代わりの人って自分で探すのかと思ってた」

「他の所だとよくあるらしいね、それ。ほんとはダメなんだけどね」

「え、ダメなの!?知らなかった…」


そうしてインスタを交換し、久我くんは駅の方に歩いていく…


「じゃあね松井、また明日」

「あ…うん!また明日!」


もう少し久我くんと居たいと思っていたけれど、久我くんは駅のエスカレーターを上がっていく…


(また明日って言ってもらえたし…なんか、ちょっと気になるなぁ…)


そうして2回目のバイトに来ると、今日も久我くんとシフトが被っていて、色々仕事を教えて貰う…


私が困っていればすぐに気づいて助けてくれて、暇な時間があれば学校とは違った久我くんで私と明るく話してくれる…学校では話しかけてくれたりしないけれど、バイトの時は話しかけてくれる。


なんだか私だけが今の久我くんを知っているという優越感がある…


(やば…なんか、好きかも)


学校での久我くんと、今目の前に居るコンビニでの久我くん、多分どちらかがその場の為の仮面を被っているのは分かってるけど、このギャップを見てしまってからはどうでも良くなってしまった。


学校でも久我くんの事をつい目で追っちゃうし、授業中も気づけば見てしまう…


(どっちでも好きかも…)


「ありがとうございました〜……ほら、松井も言って」

「あ、ありがとう…ございました…」

「やっぱまだ恥ずかしい?」

「大丈夫…次はちゃんと声出すから…」


その後頑張って声を出した私を見て、優しく褒めてくれたりして、初めてのアルバイト先はとても楽しい場所だった…


「嘘!?久我好きになったの!?」

「ちょ…!声大きいよ由香!!」


学校の昼休み、お弁当を食べながら由香と雑談をする。


「あ、ごめん…久我か〜競走激しいよ〜?てか、なんで好きになったん?」

「実は…コンビニバイト初めて行った日に久我くん居て…」

「え、マジ?」

「マジ…」

「え、それでそこから?」

「なんかバイトの時はめっちゃ明るくて、笑顔でお客さんと接してて、学校とは全然違う感じ。そのギャップが…刺さった…///」

「うわ、めっちゃ気になる!明るい久我はヤバいね」


学校も終わって、帰りの電車に乗りながらスマホの写真を見て、シフト表を確認する。


(あー今日は久我くん居ないのか…久我くん居ないとちょっとつまんないなぁ…)


当然他の人達もみんな優しくて、良い人達ばかり。それでも私にとって、久我くんと一緒のシフトに勝るものは無かった。


「おはようございま〜す…」

「あ、おはよう」


少し落ち込みながらバックヤードに入ると、聞き慣れた声で返事が帰ってきた。


「っ…!?久我くん!?あれ、今日居たっけ…」


慌てて右手で前髪を隠して調整しながら、すぐに鏡を見て前髪を整え、平静を装いつつ準備をする。


(あーさいあく…マジで意識してなかった…今の私絶対ブスだぁ…)


「元々居た木野さんが用事入っちゃったらしくて、俺が代わりに出る事になった」

「そー…なんだ、びっくりした。今日居ないと思ってたから」

「そっか、俺居ない方が良かった?なんかごめんね」

「全然違う!!むしろ…う…れしい…///」


これ以上言ったら、思いを伝えるとほぼ同じだと思いつつも、自分の口を止める事が出来ず言ってしまった…


顔が熱くて痒くなってくる…絶対今の顔赤いし見せれない…


「そう言ってくれると俺も嬉しいな」

「……///」


顔を赤くして照れてしまい、思わずそれ以上返事が出来なかった…


(あー…これなら髪巻き直して来れば良かった…そのまま来ちゃった…)


久我くんが居ると分かってから、色んな後悔が積み重なってくる…さっきの事もあって、会話するのにも照れてしまう…


いつも通りバイトが始まってお客さんもあまり来ない時間になり、久我くんと会話をする。


「シフト代わったら何かあったりするの?給料上がったりとか」

「給料上がるのはクリスマスとか、年末とか、祝い事の日位かな。シフト代わったら、基本的に元々入ってた所に、休んだ人が入る感じになる」

「そーなんだ…じゃあ元々の方は休みになったんだ」

「そうだね、来週の土曜の交代したからその日は完全に暇になった」


その話を聞いて、私の頭の中の悪魔と天使が囁き始めた。


『今誘っちゃいなよ!!絶対成功する!!』

『暇だからって、誘いに乗ってくれるか分からないよ!!』


(あー…どうしよ…誘うなら今の方が…)


「あ、あの…久我く…」

「いらっしゃいませ〜」


私が話しかけようとしたタイミングで、お客さんがやってきてレジを始めてしまった…私は久我くんの隣に立って、袋詰めのサポートをする。


(あータイミング失っちゃった…久我くんとデートしてみたいのに…この後誘う勇気出ないかも…)


「「ありがとうございました〜」」


その後、久我くんが休みになった日をデートに誘おうと思っても勇気が出ず、今日も色々久我くんに教わりながら仕事を終えて少しの時間一緒に歩いている時も誘えないまま、家に帰ってくる。


「もっと話したいー…土曜日、遊びたいなぁ…」


自分の部屋で独り言を呟きながら、インスタを開いて、まだ会話履歴の無い久我くんとのメッセージの所を見つめる。


もっと色んな事を話したいけれど、シフト変わる時用に交換してくれたのを、話したいからと連絡したら嫌われるんじゃないかと変に邪推してしまう…


「あ〜…久我くん何してるのかなぁ…今」


久我くんとの会話履歴を見ている途中、突然久我くんが何かしらのメッセージを入力しているのが見えてしまった。


「やば…!」


このままだと0秒で既読をつけてしまうので、すぐさまインスタのアプリを落としてしまう。


「あ〜…これ逆に怪しいじゃん…DMから離れれば良いだけだったのに…」


突然オフラインになったのを深堀されると何故か思ってしまい、そんな後悔をしながら再びアプリを開くと、入力中だったのは無くなっていて、メッセージも来ていなかった。


「あれ、来てない……」


その後も何かしらのメッセージが来るのを待ったが、結局来なかった。3日程経てばその事も殆ど忘れていて、私の好きな作品が一番くじとして働いているコンビニで展開されているのに頭がいっぱいになる。


「今日の夕勤終わったら一番くじ引くんだ〜」


少し上機嫌でお客さんの居ない店内で、隣に立っている久我くんに話しかける。自分の好きな可愛いキャラが、一番くじとして店に並んでいる。少しの暇があればそれを見てニヤニヤしてしまう。


「あ〜、あれ好きなの?女子に人気だよね」

「そ〜!今回のA賞のぬいぐるみ可愛いから、めっちゃ欲しい!」


こういう時に自分のお金で気兼ねなく一番くじを引けるのは、バイトをしていて良かったと強く感じれた。


そしてバイトも終わり、帰りの準備をしている途中で久我くんを呼び止める。


「あ、久我くん待って」

「ん?分かった」

「一番くじ、引くの見ててよ」

「良いよ、外して落ち込む所見とく」

「も〜、絶対当てるからね!」


冗談交じりでそう言いながら、久我くんと私はレジに向かう。


「お、松井さん、割と良い感じに残ってるから全然当たりそうだよ」


夜勤さんがそう言って、くじが入った箱を持ってきながら応援してくれる。そして隣に立っている久我くんが質問をしてくる。


「何回引くの?」

「10…いや、13回!」

「1万円分か…マジでワンチャンあるな」


(残りは大体40枚程度、A賞の欲しいぬいぐるみは1つだけ、4分の1もあれば…)


そう思いながら箱の中にあるくじを引いていく…10枚あるのを確認して、久我くんに声をかける


「ね、3枚久我くんが引いて欲しい」

「俺が?いいの?」

「お願い!」

「外れても怒んないでよ?」


そう言いながら久我くんは、3枚の紙を箱から取り出す。久我くんが引いてくれた紙は、私が引いた紙とは違う場所に置いて分かりやすくし、自分が引いた紙をペリペリと捲っていく…


「当たんない…」


出てくるのはD賞やE賞のキーホルダーばかりで、欲しいぬいぐるみは出てこない…最後の方になるにつれ、心臓はバクバクと音を鳴らして緊張感を高めていく…


「10枚目…とりあえず最後…お願いっ!」


最後に出たのはD賞のキーホルダーだったので、私は残りを久我くんに託す。


「…お願い!久我くんが捲って!」


そう言って残った3枚の紙を久我くんに渡す…10枚引いて当たらなかったのだから、残りの3枚を引いても当たらないかもしれない。久我くんがしてくれれば、当たるかもしれない。


「…分かった」


そう言って1枚目の紙をペリペリと捲る。


「あ…」


久我くんが見せてくれた紙にはA賞と書かれたものがあった。すごく嬉しい…もちろんぬいぐるみが当たった事も凄く嬉しいけど、私にとって久我くんが当ててくれた事が更に嬉しかった。


「っ…!ありがとう…!久我くん」

「当たって良かった」

「おめでとう松井さん」


夜勤さんの人も、久我くんもお祝いしてくれる。キーホルダーを何個か貰い、久我くんにも選んでもらって、ぬいぐるみを貰う。


「ほんとにありがとう…」

「別に良いよ、松井のお金で引いたんだし、松井自身のおかげでしょ」


何度も久我くんに感謝しながら、一緒に駅まで歩いていく。今の流れなら、誘えるかもしれない…


「あの…さ、シフト変わって来週の土曜暇になったって言ってたじゃん…?」

「…?うん、暇だよ」

「良かったら…さ、一緒に映画とかどーかなーって…あ、由香と行くはずだったんだけど、来れなくなっちゃったから…」


(由香、ごめん…!!)


「あ〜、映画か。最近映画見てないし…良いよ、何見る予定?」

「恋愛系のなんだけど…これ…」


そう言ってスマホで検索した恋愛映画の画像を久我くんに見せる。


「うん、良いよ」

「ほんと!?嬉しい…久我くんって…普段こういう恋愛系は見る…?」

「見るよ、恋愛系の漫画とか…面白いよね」

「そーなんだ…!結構意外かも…」

「そう?普通に好きだから楽しみだ」

「うん…私も楽しみ…」


そうして久我くんと駅で別れて家に帰ってきて、既に置いてある大きめのぬいぐるみを抱きしめる…


(やった…誘えた…久我くんと…)


その日はとにかく喜びに浸って、すごく心が気持ちよかった気がした。次の日の学校での久我くんは、今までと同じでいつも通りだった。


(やばい…またニヤニヤしてる…)


やはり久我くんを見ていると無意識にニヤニヤしてしまう。放課後になると同時に、普段話した事の無い男子から声をかけられる。


「松井、ちょっと良いかな…」

「ん?ん〜良いけど、あ…由香、先行ってて」

「は〜い」

「こっち…」

「うん」


そう言って彼は人の少ない所へと歩いていく。中学の時にもこんな感じの事があったなと思い出しながら、私は廊下の端に行く彼について行く。何を言われるのかは何となくわかっている。


私はこの人と2人っきりで話した事は殆ど無いし、そんな状態で呼び出されればなんとなく分かる。


「俺、松井の事…好きなんだけど…」

「………そっか……うん、ありがとう」


(あー…違うなぁ…やっぱり…)


久我くん以外の人に好意を寄せられても、全く嬉しくなかった。なんだか心が無になる様な感じで、なんとも言えないどこか変な気持ちになる。そんな癖に目の前の興味もない彼の告白に、上っ面だけの感謝の言葉を述べてしまう。


「ごめんね。私、今そういうのはあんまり興味無くて」

「き、興味無くても良いからさ、とりあえず付き合ってみない?」

「ごめんね、無理かな」

「っ……いやぁ、実は罰ゲームでさ〜告れって言われてて…」


彼はそう言って最悪な逃げ方をし始めた。別に本当に罰ゲームだったとしても、私にとってはとても最悪で、その足掻きは醜くて、気分が悪くなる。


(はぁ…最悪…マジで無い…)


不快にさせる言い訳を一通り述べた後、彼は帰っていった。遅れて私も校舎から出ると、後ろから声をかけられる。


「お、松井」


声をかけられて振り向くとそこには久我くんが居て、私の顔を見るなり少し驚いた表情を見せる。


「おぉ…どうした、機嫌…悪い?」

「へ…?あ、あぁ…ちょっと…色々あって」


(あー、もう…あいつのせいで久我くんに嫌な顔見せちゃった…ほんとにもー…)


「大丈夫?シフト変わって欲しかったら言ってね」

「あ、ううん!それは大丈夫…」

「松井は今日シフト入ってないよね?」

「うん、明日かな。久我くんは入ってる?」

「俺は今日も入ってるよ」

「凄いな〜、バイトいっぱいしてて…私の倍くらい入ってるイメージある…」

「ま〜暇だし」

「久我くんって何の為にバイトしてるの?あ、嫌だったら全然答えなくても良いんだけど」

「俺は〜…貯金とか?」

「え、すご…何か買いたい物とか無いの?」

「ん〜…あんま無いかも」

「私すぐ色んなの買っちゃうよ…久我くん見習いたい」


こんな時久我くんが貯金しているのを知って、もし私と一緒に暮らしたら今後の為にしてくれるのかなとか、変な妄想をしてしまう。


「どういうの買うの?化粧品とか?」

「そー…すぐそういうの買ったりしちゃうから…」

「化粧品って1個の値段もすげー高い気する」

「そーなの!化粧品もそうだし、友達と遊びに行く時もお金必要だし…」

「凄いな…」


そうして話していると、さっきまでの機嫌の悪かった事なんて忘れてて、久我くんと話せて嬉しいなんて思っている。そんな自分にちょっと嫌になる。


「そういえば、なんで松井って、教室とかで目合ったら笑ってくれるの?」

「え…?」

「あ、もしかして無意識?」


それは私にとって完全に無意識で、意図しているものじゃなかった。恐らく、その笑っているというのは、久我くんを見てニヤニヤしてる所…


(嘘…顔に出てた…?やばい…)


「無意識なら全然良いんだけど、ちょっと気になっちゃって」


私は手で顔を覆って隠しながら、籠った声で答える。


「多分、無意識…」

「そっか、俺もそういう時あるから分かる」

「嘘…!?どういう時…?」

「うちの猫見てる時」

「え、久我くん猫飼ってるんだ」

「飼ってるよ〜今3歳だったかな、女の子」

「そうなんだ!見てみたい!」


久我くんが猫の女の子を可愛がっていると聞いて、猫にすら少し嫉妬してしまう私が嫌になるけれど、その気持ちを抑えながら会話する。


「こんな感じ、種類はラグドールだね」


そう言いながら久我くんは、猫の写真を見せてくれた。


「え〜、可愛い…!!」

「でしょ、すぐ甘えてくるから構ってあげたくなる」

「良いなぁ……私にも…あ…」


何故か勝手に、自分が久我くんに甘やかされている所を想像し、変な事を言ってしまった…


「良いでしょ、こいつ可愛くて」

「へ…あ、うん!」


今まで見た事が無い感じの久我くんが見れたので満足していると、気づけば久我くんの最寄り駅に着く


「あ、俺この駅だから、じゃあね」

「うん、バイバイ久我くん」


そう言って手を振りながら彼を見送って、スマホを見ると由香からの連絡が来ていた。


(あ…由香の事忘れてた…ごめん!!)


二人で一緒に映画を見に行く日が近づいてきて、私の中の緊張感が高まっている…家に帰れば色んなメイクの動画を見漁ったり、放課後は由香と一緒に化粧品を見て回ったり


そして美容室の予約を入れて髪も切り、整えていって自分を磨いていく…


「メイクどーしよ…あんまり濃いと驚かせちゃうかな…」


ネットでデート時のメイクについて何度も調べて、ゆっくりと決めていく。いつもあまり濃いメイクはしていないので、いつも通りの方が良いのかもしれない…


「やっぱナチュラルメイクかなぁ…薄めの色のリップクリームと、目も少しちゃんとした方が良いかな…」


方向性を決めながら、由香とメイクの出来栄えを見せ合い決めていく…服にもかなり悩みながら、夏に入り始めた蒸し暑い時期なので、明るい色を基調にする事にした。


ハイウエストの水色ロングスカートで適度に脚を隠しながら長く見えるようにして、色も明るさを出しつつ、半袖の白シャツで合わせる…


『どうかな!?』


当日行く服装に着替えて、姿見に映った自分の写真を取って、由香に聞きながら撮った写真を送る。すぐに既読がついて、由香から返信が帰ってくる。


『良いと思う!めっちゃ可愛い!美咲はブルベっぽいから、そういう系統の服めっちゃ似合う!!』

『ありがとう!ちょー自信つく!』


そうして準備をしていき、気づけば当日になる…かなり早い時間に起きて外を見てみると、綺麗な晴れで朝日が空を薄暗く照らしていた。


「良かった…晴れた…」


念の為今日の天気予報も検索して確認しながら、かなり早くに起きたのでシャワーを浴びたりもして、メイクに沢山時間をかける…あくまでナチュラルメイクからはみ出ない様に注意しながら、整えていく…


「どうしよ…やっぱリップこっちの方が良いかな…」


まだ朝早い時間なので由香にも聞けず、今更一人で悩み始める。髪型も整えて、何度も試行錯誤する。ハーフアップで首元をある程度スッキリさせつつ、毛先の方は巻いて可愛らしさを足す…


バレッタ式のリボンも着けて更に可愛さを足しながら、何度も鏡で形を確認しながら服の様子も見ていく…服も他のにしようか迷ったけど、結局前日に決めた服で行く事にした。


「うん…大丈夫…可愛い…」


(やばい…受験の時位緊張してるかも…)


そう思いながら何度も自分の写真を撮ったり、鏡で確認しながら時間をかける…香水をうっすらとつけて、忘れ物が無いかの確認もして、いよいよ時間が迫ってくる…


「大丈夫…可愛い…よし…」


そうして私は、久我くんとのデートに向かう…

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